静岡済生会総合病院ならびに白寿生科学研究所は4月12日、50Hzの電界処置が、健常者において脳波のシータ(θ)波を増加させ覚醒度低下に働くことを共同で発表した。

同成果は、静岡済生会総合病院 精神科の榛葉俊一医師、白寿生科学研究所の根立隆樹研究員、帯広畜産大学 生命平衡科学講座の原川信二客員教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、電気学会の英文雑誌「IEEJ Transactions on Electrical and Electronic Engineering」に掲載された。

脳波とは、正確には大脳皮質が出す微弱な電気信号だ。周波数で4種類に区分され、低い方からδ波(デルタ波、4Hz以下)、θ波(4~8Hz)、α波(8~13Hz)、β波(13Hz以上)がある。δ波は深い睡眠時に、θ波はリラックス時・入眠期・瞑想時・創造性が高まる状態や記憶の固定時に、α波は安静・覚醒・閉眼時に、β波は精神活動時に目立って観察されることがわかっている。

研究チームはこれまで、脳波および心拍変動などの生体信号を指標とした臨床的研究を行い、電界の生物学的作用の研究を行ってきた。今回は、脳波に加えて心電図から得られる自律神経指標が用いられ、電界の作用が脳神経系に及ぼす効果が調べられた。

今回用いられた電界は、周波数は50Hzで、頭頂部では200kV/mを超える強度。これは生体内で発生する電気信号と比べるとかなり強いといえる。たとえば心電図で約数mV、脳波で数10μV程度であるためである。つまり、被験者に処置される電界の規模と比較すると、7~9桁小さい値である。そのため、計測も工夫が必要だ。これまでの研究では、専用の無線式測定器などが開発されたが、それによる問題もあったというほど計測の難しさのある研究となっている。

そこで今回は、市販機器の電気的なシールドとデジタルフィルタを使用した、より簡便な有線式の測定システムが開発された。それにより、電界の中にいる被験者の脳波・心電図の測定に成功したという。

今回の研究対象は健常人とされ、試験参加者は開閉眼をしながら、1分ごとにONとOFFが入れ替わる断続的な電界が処置された。その結果、電界が処置されるタイミングでθ波の増加が観察されたという。また、電界処置時のθ波の増加は開閉眼の条件によらず認められたとした。

  • Θ波

    開眼時と閉眼時の、電界ON/OFFでのθ波の出方。電界が処置されているときの方が、開眼時・閉眼時ともにθ波の出方が大きい (出所:共同プレスリリースPDF)

ほかの周波数の脳波、特にα波では開閉眼により大きな影響を受けており、脳波測定が正常に実施されたことが示されており、つまりθ波で認められた増加は電界処置によることを支持しているという。冒頭の脳波の区分で触れたように、θ波の増加は、リラックスや瞑想状態に関連するとされている。つまり、電界は健常人の覚醒度を低下せる効果(リラックスさせる効果)を持つことが示唆されるとした。

50Hz電界の生物学的作用として、共同研究チームがこれまで実施してきたストレス負荷モデルを利用した動物実験により、電界のストレス軽減作用が確認されている。現在は、同効果の電界強度や電界分布への依存性など、電界の生物学的作用の整理を進めているところだという。θ波増加時の臨床的意義とストレス軽減は一致性が比較的高い。今回の研究成果は、実験動物において認められるストレス軽減作用の臨床的裏付けとなる可能性があるとしている。

そして、リラクゼーションまたはストレスに関連した変化が動物だけでなくヒトにおいて認められた点も、今回の研究の重要な意義だとしている。また、動物実験で用いられた内分泌系指標のほかに、自律神経系の指標である脳波について、電界処置時における変化を捉えたことも、同領域の科学的理解の前進に貢献すると考えられるともしている。

なお研究チームは、経験的に電界処置による子供の落ち着きや集中力の変化もこれまでの研究において確認しており、今後、電界処置時に現れる脳波が変化することの関わりについて検討していく予定としている。また、アスリートのコンディショニングや、ビジネスマンのストレス対処策として取り入れられている瞑想への電界の補助的活用についても、今後の検討課題とすることを考えているという。

このほか、今回の研究においては、自律神経指標には明確な差は確認されなかったが、うつ病患者においては電界処置時の同指標の変化を認めるケースがあり、今後さらなる検討を進めることを考えているとしている。