2021年も春爛漫の時期を迎えました。現在使っているスマホと相性のよいワイヤレスイヤホンの購入を検討している皆様に、役に立つ情報をお届けするための本連載。第5回目は最近増えてきた「アクティブ・ノイズキャンセリング機能付きイヤホン」の選び方を紹介します。

イヤホンはじめて物語 【第1回】【第2回】【第3回】【第4回

周囲の雑音が消える、ノイキャンの仕組みとは

アクティブ・ノイズキャンセリング(以下:ANC)とは、イヤホンに内蔵するマイクでリスニング環境周辺の音を継続的にモニタリングしながら、自動車のエンジン音や人のざわつく声など邪魔になるノイズを分析。そして逆位相(音の波を反転させたもの)の音を生成してぶつけることで、クリアな音声を聴くための技術です。

イヤホンの遮音性能は本体の着け心地、あるいは先端に装着するイヤーピースの影響も受けます。しかし、これらのパッシブ(受動的)なアプローチだけでは消せないノイズを、電気的な処理によってさらに打ち消し、あらゆる場面でイヤホンの音に集中できる環境を作り出せるのがANCの特長です。

ANC機能の効果を評価する際、「強度」はひとつの基準になります。ただし、メーカーが消音効果をアピールする際にうたい文句としている言葉の使い方は「●●%の雑音を抑える」「ノイズをマイナス●●dB下げる」といった具合に各社各様です。

加えてイヤホンの場合は、ノズル(音が出る場所)の先端に装着するイヤーピースの装着バランスでも、遮音効果が大きく左右されることがあります。

消音効果はモノによりけり、購入前に試したい

筆者もかつて前評判が高いANC機能付きワイヤレスイヤホンを試したところ、自分の耳の形にフィットしなかったことから期待していたほどの消音効果が得られませんでした。例えば大きな騒音に囲まれる地下鉄による移動が多いので、「消音効果の高いイヤホン」が欲しいと考えている方は、レビューなどの前評判も参考にしつつ、購入前に必ずショップなどで試着・試聴して、自分の耳に合うものであることをチェックしてみるべきだと思います。

ちなみに筆者が今まで耳の形にも合って、最も高いノイズキャンセリング効果を感じた完全ワイヤレスイヤホンはボーズの「QuietComfrot Earbuds」です。

  • 筆者が今までに試した中で最も消音効果が高いと感じるアクティブ・ノイズキャンセリング機能を搭載するボーズの完全ワイヤレスイヤホン「QuietComfort Earbuds」

ANC機能付きのイヤホンを数多く比較して聴くと、各社の製品ごとに消音効果にわずかながらも違いがあることが見えてきます。

例えばそれは「人の話し声」がよく消せたり、あるいはANC機能をオンにしても声が少し聞こえてくる感度に整えたりといった具体に、消音効果の味付けは、製品ごとに少しずつ異なっています。

アップルの「AirPods Pro」やサムスンの「Galaxy Buds Live」は、どちらかと言えば後者に当たる完全ワイヤレスイヤホンだと思います。

外音取り込み機能の「柔軟性」も大事

特にイヤホンを装着したまま、屋外を移動しながらハンズフリー通話をする機会が多くあるかたには、ANC機能をオンにして通話音声を聴きやすくしつつも、同時にまわりの人の声にも注意を向けられるイヤホンが向いていると思います。

いま多くのANC機能を搭載する完全ワイヤレスイヤホンは、ANCや通話に用いるマイクを使って、周辺の音を取り込める機能を合わせ持っています。この機能は「外音取り込み」「アンビエント」「ヒアスルー」などの機能名称でよく呼ばれています。

スマホのハンズフリー音声通話をサポートするツールとして、ワイヤレスイヤホンを位置付けた場合、屋外を歩きながら、あるいは自宅やオフィスなど周囲にいる人々との会話にも気を向けなければならない場面もあるでしょう。そんなとき、コミュニケーションを断ち切らないため、外音取り込み機能は欠かかせません。

外音取り込み機能は、オンとオフを切り換えた時に音声のバランスが崩れず、(マイクの精度に由来する)ノイズが乗らないクリアな集音性能を実現していることが、最も大事なポイントです。

アップルのAirPods ProはANC機能もさることながら、サウンドのバランスが崩れないクリアな外音取り込み機能の出来映えがとても優れていると思います。

  • アップルのAirPods Proの外部音取り込み機能は、音楽を聴きながら外の環境音をクリアに取り込むことができます

AirPods Proのライバルとして名前が挙がることも多いソニーの「WF-1000XM3」は、専用モバイルアプリを使って、ANCと外音取り込みのバランスを自在にカスタマイズできる完全ワイヤレスイヤホンです。

騒々しい場所ではANCをより強く効かせて、反対に自宅など静かな場所で仕事をしながら音楽を聴く時には、家族からの呼びかけや玄関チャイムの音を聞き逃さないように外音取り込み機能の強度を高めて使う、といった選択が自由にできます。

  • ソニーのアクティブ・ノイズキャンセリング機能を搭載する完全ワイヤレスイヤホン「WF-1000XM3」

  • 専用アプリから消音効果を細かく設定することもできます

イヤーチップで遮音性・装着感を自分好みに

イヤホンによっては、ノズル先端に装着するイヤーピースを交換して装着感や遮音性を微調整できるモデルがあります。代表例は、上でも挙げたソニーのWF-1000XM3。商品パッケージに自社製の様々な種類のイヤーチップを同梱しています。ノズル形状の汎用性が高いので、サードパーティのメーカーが作ったイヤーチップを交換して試しやすいメリットを持っています。

本機と同様、オーディオブランドが発売するANC搭載完全ワイヤレスイヤホンの中には、イヤーチップ交換に高い自由度を持たせた製品がたくさんあります。

  • ソニーのWF-1000XM3にはシリコンタイプとフォームタイプ、2種類のイヤーピースが同梱されています

AirPods Proはイヤーチップとこれを装着するノズル先端の形状が特殊なため、純正品以外のサードパーティーによるイヤーチップが登場するまでに少しばかり時間がかかりました。

現在はSednaEarfitの「XELASTEC for AirPods Pro」のように、傘部分のパーツが体温で柔らかくなり耳穴の形にピタリとフィット、遮音性能が一段上がる特殊なイヤーチップも発売されています。遮音性が上がると、より大きな騒音に囲まれる場所でもAirPods Proで快適に音楽や映画のサウンドが楽しめるので、あらためてANC効果の意味がよく実感されるようになります。

  • 特殊なノズル形状のAirPods Proとの互換性を確保したSednaEarfit「XELASTEC for AirPods Pro」

イヤホンの遮音効果やサウンドは人それぞれに好みや手応えが分かれるもの。自分がいま使っているイヤホンに合う手頃なイヤーチップをいくつか試して、その効果を比べながら理想とする音や装着性を模索する過程もなかなか楽しいものです。