アップルが2019年3月に開催したスペシャルイベントで、定額制オンラインゲームサービス「Apple Arcade」を発表した際に、FINAL FANTASYシリーズの生みの親である坂口博信氏が率いるミストウォーカーコーポレーションが、新作RPG「FANTASIAN」(ファンタジアン)をApple Arcadeでのローンチに向けて開発中であることを明らかにしました。

驚きの発表から2年、待望のタイトルが間もなくApple Arcadeに登場します。今回は、ゲームクリエイターの坂口博信氏に、ファンタジアンに込めた独自の仕掛けやゲームの魅力を余すところなく語っていただきました。

  • ミストウォーカーコーポレーションが手がける大作RPG「FANTASIAN」(ファンタジアン)が、間もなくApple Arcadeに登場します!

Apple Arcade待望のキラータイトル「ファンタジアン」

Apple Arcadeは、2019年秋に日本でもスタートした月額600円の定額制オンラインゲームサービス。100を超えるタイトルのすべてをApp Storeからダウンロードして、iPhone/iPad/Mac/Apple TVで楽しむことができます。iPhone/iPadにダウンロードすれば、飛行機の中などオフラインにならざるを得ない環境でもプレイ可能。アップルは、現在150を超える国と地域でサービスを提供しています。

日本時間の3月3日深夜、Apple Arcadeの「間もなく登場」セクションに、ついにファンタジアンが追加されました。あとは、1日も早いリリースを待つばかりとなります。

  • App Storeアプリの「Apple Arcade」タブの「間もなく登場」に、ファンタジアンが追加されました! 「入手」をタップしておけば、リリースされた時点で通知してくれます

ファンタジアンは、主人公の目線でストーリーに没入して、バトルを繰り返しながら数々の謎を解いていく王道スタイルのRPGゲームです。物語の舞台は、主人公のレオが暮らす“機械が支配する世界”を中心とする多次元構造のパラレルワールド。レオは、失った自身の記憶と、行方不明になっている父親を見つけるため冒険の旅に出ます。坂口氏が手がけるゲームタイトルには欠かせないキーパーソンである、作曲家の植松伸夫氏によるサウンドトラックが、アドベンチャーの世界を華やかに盛り上げます。

「150点のジオラマ」から作られた圧巻のグラフィックス

坂口博信氏は、名作ゲーム「ファイナルファンタジー」の生みの親でもあります。坂口氏は、今から数年前にある放送番組で「ファイナルファンタジー VI」(1994年)が取り上げられた際に、久しぶりに自身で本作をプレイしてみたことがきっかけとなり、もう一度自分の原点に立ち戻って「自分の一番好きなRPGゲームを作りたい」という思いを強くしたそうです。

  • ファンタジアンを手がけたゲームクリエーターの坂口博信氏

ファンタジアンの制作に一歩を踏み出した坂口氏は、本作をオーソドックスなRPGスタイルのゲームとしながら、クリエイティブの手法やバトルシステムに新たなチャレンジを盛り込みたいと考えました。

坂口氏が率いるミストウォーカーコーポレーションは、ファンタジアンの舞台美術にある“大胆な手法”を採り入れます。なんと、本作のゲームフィールドは「全部ジオラマ」で作られているのです。完成したファンタジアンは「これまでに誰も作ることができなかったゲーム」なのだと坂口氏が胸を張る理由がここにあります。

ファンタジアンの制作には、総勢380人近いコアスタッフが関わっていますが、その大半を占める150名がジオラマ制作のエキスパートだというから驚きです。総プレイ時間が約40~60時間にもおよぶ本作の壮大なストーリーに登場するすべての背景、建物などの舞台が150点近いジオラマで制作されたほか、「王女の部屋」に置かれている細かな家具や調度品、船体の内部まで作り込まれているという「豪華客船ウズラ号」のジオラマも圧巻の出来映えです。

  • ファンタジアンの舞台を再現するために、150点近いジオラマが制作されました

コンセプト画からていねいに立体オブジェクトとして起こされたジオラマを、ゲーム映像の中に取り込む作業工程を坂口氏に聞きました。

「最初にジオラマを200~300枚ほどさまざまな角度から写真を撮って、3DCGソフトでポリゴンモデル(オブジェクトの躯体のようなもの)を作ります。そこに、ジオラマの写真をプロジェクションマッピングのように投影しながらゲームに取り込んでいきます。カメラが移動する時は、次のプロジェクションされた場所を用意して、その2つの点の間でカメラを移動しながら、2箇所に投影された写真をフェードで切り替えています」(坂口氏)

  • 手描きのアートグラフィックにより、ファンタジアンに登場する舞台背景のイメージを固めていきます

  • 2Dのアートグラフィックから作成されたジオラマ

  • ジオラマをさまざまな角度から撮影した200~300枚ほどの写真を、3DCGソフトで作成したポリゴンモデルにマッピングしていきます。ゲーム映像に取り込んだ舞台に、CGで描かれたキャラクターと、ポストエフェクト処理による光源を加えながら仕上げます

あえてコンピューターグラフィックスを使わずにジオラマで作る、という非常に手間のかかるアプローチを採った背景について、坂口氏がさらに説明を続けます。

「例えば“木がまっすぐに生えている森”をCGで描くと、本当に木がまっすぐに立っている様子を描くことができます。ところが、手作りのジオラマの場合は“まっすぐに伸びる木”をオーダーしても、ちょっと曲がったものができてきたり、人間が手で作ったものから感じられる独特の温かみがゲームからにじみ出てくる場合があります。私は、そこに深い味わいがあると思っています。ジオラマ作りはとても苦労しましたが、実際に価値あることをやり遂げた手応えもあります。iPhone/iPadの場合、画面を触りながらゲームを操作するので、まるで画面越しにジオラマに触れるような感覚が楽しめると思います」(坂口氏)

ジオラマの撮影データを取り込みながら、気の遠くなるような作業を経て完成した背景のグラフィックスに、CGで描かれたキャラクターを配置して、光源の調整などをポストエフェクト処理を加えながらゲーム映像を仕上げていきます。「ジオラマが画としての力を持っているので、そこにCGのキャラを重ねてもジオラマの感触がスポイルされることがなかった」と坂口氏は振り返ります。ただ、ポスエフェクトをあまりに強くかけすぎてしまうと、せっかくのジオラマの質感が失われてしまうことがあったため、そのさじ加減の調整には腐心してきたそうです。

  • ファンタジアンの世界を自由に走り回るキャラクター。CGとの相乗効果によるリアルな情景が描かれています

  • 「豪華客船ウズラ号」のアートグラフィックと、それを基に制作したジオラマ

  • ジオラマの「豪華客船ウズラ号」がゲーム内に登場。大迫力です

  • 「王女の部屋」のアートグラフィックとジオラマ

  • さまざまな家具や調度品をジオラマから起こし、CGを合わせ込んでいます

iPhoneで快適に遊べる、バトルシステムに設けられた新しい2つの仕掛け

坂口氏がファンタジアンの制作に採り入れたもうひとつの新しい試みは「バトルシステム」です。

ファンタジアンでは、敵キャラクターとマップ上でランダムに遭遇し、バトルシーンはターン方式で進行する基本スタイルを採っています。ファイナルファンタジーシリーズのファンにはなじみ深いプレイスタイルだと思います。

本作のバトルシステムにはふたつの特徴があります。ひとつは「エーミング」と呼ばれる攻撃方法。キャラクターが獲得したスキルにより、武器は直線方向に飛ばしたり、広範囲の敵に当てることもできるのですが、もうひとつ“弓なり”の軌跡を描いて武器を放ち、複数並ぶ敵にカーブを掛けながら一斉にダメージを与えたり、前後に並ぶ背後の敵に攻撃をヒットさせることが可能になります。iPhone/iPadのタッチ操作で楽しむ場合、ディスプレイに指で曲線をなぞるようにして攻撃する感覚が新鮮に感じられそうです。

  • 攻撃の軌跡を自由自在に曲げられる「エーミング」を採用

もうひとつは、マップ上でランダムに遭遇した敵を異次元に吹き飛ばして、ユーザーが任意のタイミングで戦闘を始められるようにストックできる「ディメンジョン」と名付けられたシステムです。ディメンジョンによる戦闘時には、敵を倒すのに有利なギミックが使えたり、スカッとするような爽快なバトルプレイが楽しめると坂口氏が説明します。移動時間にiPhone/iPadでファンタジアンを楽しむ人も多くいるはずなので、移動中にはストーリーを進めて、腰を落ち着けてからディメンジョンでバトルに浸る、といった効率の良いモバイルゲームの楽しみ方ができるかもしれません。

  • 敵を異次元空間に飛ばせる「ディメンジョン」システム

ファンタジアンでは、ボスキャラとの戦闘には高度な「戦略性」が求められるのだと坂口氏は強調します。キャラクターのスキルや所持するアイテムを上手に使いこなせば、レベルが低くても強いキャラクターを倒すことができます。反対に、キャラクターのレベルが高くても、力押し一辺倒のプレイではボスキャラに負けてしまう、なんてこともあるのだとか。通常は、ゲームデザイナーがスクリプト言語を使ってキャラクターの動きやイベントを構築するところを、ファンタジアンの場合はプログラマーが直に制作したアルゴリズムにより「賢いボスキャラ」を実現しています。

  • 迫力あふれるボスキャラとの戦闘シーン

盟友・植松伸夫氏が手がける豪華なサウンドトラックも必聴

坂口氏が35年間も一緒にゲーム制作に携わってきたという作曲家の植松伸夫氏が、全編にわたる60曲を手がけ、オーケストラ録音も採り入れながら完成させた豪華なファンタジアンのサウンドトラックも要注目です。

「植松氏がゲーム全体の楽曲作成に携わる機会はこれが最後になるかもしれないということで、かなりの意気込みをもって感動する音楽を作ってくれました。ファンタジアンの世界に植松氏の音楽が付いたことで、“ゲームの格”がさらに上がったように感じています」と、坂口氏はとても満足そうに笑みを浮かべていました。

ファンタジアンのグラフィックスは、ゲームをプレイするデバイスに最適化された解像度で配信されます。Apple TV 4Kでプレイする際には、4K画質の高精細グラフィックスにも目を凝らしながらストーリーにのめり込みたいところです。

ファンタジアンの世界を楽しみ尽くそう

筆者は、かつて据え置き型のゲームコンソールで寝食を忘れてファイナルファンタジーシリーズにハマった世代です。最近では、スマホでモバイルゲームを楽しむユーザーも増えています。“原点回帰”とも言えるオーソドックスなスタイルのRPGゲームを、iPhone/iPadのようなモバイルデバイスで楽しむコツについて、坂口氏は次のように説いています。

「ファンタジアンの世界には、ジオラマをもとにした立体的な背景のグラフィックスを活かして、何かが見つかりそうな場所に宝箱を置いてみたり、ワクワクするような仕掛けやイベントを作り込んでいます。オーソドックスなRPGに初めて触れる方々にも、宝探しのような普遍的な冒険が楽しめると思います」(坂口氏)

坂口氏は、いまさまざまなサブスクリプションサービスが注目される中、多くの人がiPhoneのようなスマホで気軽に楽しめるApple Arcadeで入魂の新作を発表できることが、自身にとっても胸の高鳴る新たな冒険なのだと話します。「月額600円という安価な月額料金でたくさんのゲームが楽しめるプラットフォームはとてもイノベーティブであり、ユーザーにとってもよい環境だと思います。ゲーム制作を手がける側としても、Apple Arcadeはクリエイティブ面で完全に自由にやらせてもらえるとても快適な環境でした。このような環境がなければ、ファンタジアンは生まれてこなかったと思います」と、坂口氏はApple Arcadeの豊かな可能性についてコメントしています。

間もなくApple Arcadeに登場する「ファンタジアン」のトレーラー映像

正式なローンチの日を迎えるまで、もう少しの間首を長くして待つことにしましょう。坂口氏のツイッターアカウント「@auuo」でも、ファンタジアンの最新情報が随時発信されるそうなので、こちらも合わせて要チェックです。