ソフトバンクグループは2月8日、2021年3月期 第3四半期決算を発表しました。登壇した孫正義会長は、当期純利益が3兆円を超えたことに触れつつも「この程度で満足する気持ちは、さらさらありません。会社を40年近く経営していて、まだこの程度であることが恥ずかしい」と報告。今後は投資会社として『AI革命にすべてを投じていきます』と、あらためて決意を述べました。
Armを売却した理由は?
ソフトバンクグループの当期純利益は3兆552億円(前年比6.4倍)でした。「決算の数字は、ひとつの会計的なものの見方であり、役には立つけれども大した意味はありません。さして喜ぶものでも、悲しむものでもない」と孫会長。NAV(Net Asset Value)は22.9兆円(この9カ月で1.2兆円増)、LTVは保有株式が26.9兆円、純負債が4.0兆円です。これについては「健全な範囲で保っており、まだ少し攻めが足りないのかなと思います」と説明します。
さて、今期の決算で繰り返し語られたのは『AI革命』。まず、ArmをNVIDIAに売却した件の進捗状況について、孫会長は「Armを買ったときは3兆2,000億円くらいだったので、4兆円くらいで売却することは、まぁまぁ悪くない。NVIDIAに売ったといっても、対価の2/3はNVIDIAの株に交換します」と説明します。
そのうえで「世界中のスマホのCPUのほとんどすべてがArm製であり、ここにNVIDIAのGPU、DPUが加わります。するとAI時代に最適なチップセットができる。このエコシステムの融合により生まれるAIが、現代に残っている人類の課題解決に役立ちます」と孫会長。創薬、自動運転、クラウド、気象変動など多方面で活躍するAIを、新生Arm / NVIDIAが提供していく、と期待を寄せました。
そして「(Arm売却は)お金のためでもありましたが、それ以上に重要なのは、AI時代に世界最強のコンピューティングプラットフォームが生まれ、人類の将来に貢献すること」だと語ります。
ガチョウが金の卵を生む
ここで突然、「ソフトバンクグループとは投資会社であり、実は製造業なんです」と話し始めた孫会長。「ガチョウによる金の卵の製造業。こういうことであります」と続けます。喩え話の多い孫会長ですが、これは一体どういうことでしょう。
孫会長によれば、ガチョウとはソフトバンクグループのこと、金の卵とは「100億円以上の利益で売却した」あるいは「上場を果たした」企業のことでした。
「AI革命が、ついにさまざまな産業を一気に塗り替え始めています。私たちも今こそ始めないといけない、金の卵を生み始めるぞとの想いでソフトバンク・ビジョン・ファンド事業(以下、SVF)をスタートさせたのが2017年のこと。2020年度は先週までに11社も金の卵が出ています。卵の量が、加速度的に増えている。やっと収穫期に入りました」
ここでSVFの進捗状況について報告がありました。SVF 1とSVF 2で投資した会社は131社。その業績ですが、直近の四半期では投資損益が1兆3,557億円の黒字に反転回復しています。また9カ月ごとの累計では2兆7,673億円の黒字という結果になりました。
ソフトバンクグループが投資しているいくつかのAI企業についても紹介がありました。なかでも急成長を果たしたのは米国No.1オンラインフードデリバリーの「Doordash」。投資額704億円に対して時価は9,304億円となっています。また、Uberは投資額7,934億円に対して時価は1兆1,730億円に到達。孫会長は「まぁ、悪くなかったかな」と評価しました。
SVF 2の投資先企業のうち、孫会長が「こりゃほんとかね」と言いつつ興奮気味に紹介したのが、AI×遺伝子治療の「Tessera Therapeutics(テセラ・セラピューティクス)」でした。これまでの医学では、切る、放射線をあてる、薬を飲む、といった医療行為を行ってきました。しかし、「Tessera Therapeutics」では遺伝子そのものを操作。遺伝子に「欠損」「誤り」が見つかったときに、「遺伝子を挿入する」「遺伝子を書き換える」という方法で治療を行うと話します。
「そんなことができるのか、と思うかもしれませんが、最先端の遺伝子治療はこういうカタチでやっていきます。何十億個の可動遺伝因子から、欠損や誤りの遺伝子を探し当てて治療する。もう白衣を着て試験管を振って、という従来の医学とは全くの別物ですね。AI活用により、遺伝子を読み解いて分析して見出すことが可能になるわけです」
副社長のマルセロ・クラウレ氏を中心にラテンアメリカ・ファンド(LatAm)もスタートしており、こちらは現在33社に拡大中です。つまりSVF 1、SVF 2、LatAmを合計した164社が、いまガチョウのお腹の中に入っている状態。「現在のところ、15社ほど金の卵になって生まれました」と孫会長は説明します。
164社の中から「日本に適した会社を続々と上陸させる」という方針も明らかにしました。例えば、すでに決済サービスとして国内に定着したPayPayですが、元々はソフトバンクグループが筆頭株主のアリババが提供するアリペイのビジネスモデルであり、SVFが投資したインドのPaytmによる技術の提供を受けて実現したサービスです。このような「グループシナジーがこれから続々と出てくる」と孫会長。日本に適した会社が20~30社はあると話します。
その受け皿となるのは、もちろんソフトバンク株式会社です。「ソフトバンクは単なる通信事業だけじゃない、ということで宮内社長がすでにBeyond Carrierとして方向を定めています。通信事業だけやっていると『早く値下げしろ、早く値下げしろ』とそんな話ばかりきて、会社としてあまり業績が伸びそうにない。そこでデジタルプラットフォームの受け皿になることで、これからどんどん伸ばしていける可能性があります」と説明しました。
独禁法は大丈夫? マー氏と連絡は?
決算を終えたあと、報道陣の質問に、孫会長が回答していきました。SVFの改善点について聞かれると「SVFによる利益が出たことは先ほどお伝えしましたが、今日現在までのところ、改善点だらけです。改善すべきテーマと内容が具体的に見えてきたので、いま手立てを続々と打っているところ。今後も継続して着実に利益が出る仕組みを整えて、永続的に金の卵が生まれるようにしていきます。それが経営だと考えています」と回答します。
そのうえで「専門分野別、地域別のチームによる分業システムができつつあります。メディカル、フィンテック、AIのツールなど、各分野に特化した相当深い知識を持った人間を配置して、私自身も陣頭指揮で仕組みづくりの改善を打ち込んでいるところです」と述べます。なおSVFの投資先として検討中の案件を見るたびに、孫会長は「すごい! これだ! 行けー」と興奮し、夜も眠れない状態になるとのことでした。
Armの売却をめぐり、英国、EU当局が競争法に抵触しないか調査をはじめた件について見解を聞かれると「Armの売却および承認については、各国の政府内で承認のプロセスが始まっておりますが、最終的に承認が下りると信じています。大きな案件のときには、賛成派と反対派が常にいるわけですが、Armのライセンスは従来通り広く多くの会社に提供していく基本方針に変わりありませんし、現在のArmの事業領域とNVIDIAの事業領域はほぼ、まったく重なっていない。つまり独禁法が気にする業界の集中度合いが深まるわけではないため、この2点で承認が下りると信じています」と回答します。
今後、どのくらいのペースで金の卵が生まれていくのか、と聞かれると「年間で10~20社という規模で上場企業が生まれるようなリズム感でやっていきたい。できるのではないかと思っています。SVF 1の収穫期はまさにこれからで、ゴールドラッシュのようなカタチで出てくる。SVF 2からも、すでに早いものは収穫期になりつつあります。164社がお腹に入ったので、毎年10~20社出てもおかしくありません。同じベンチャーキャピタルでも我々は(アーリーステージの会社ではなく)レイトステージの会社に投資しているので、上場に至る確率は一般的なベンチャーキャピタルよりは高い。元本の資金が大きいので、それなりのリターンを得られると思っています」と答えました。
アリババ創業者のジャック・マー氏について、連絡はとったかと聞かれると「彼は絵が好きなんです。絵を描いている。『マサ、今度はこんな絵を描いたよ』と制作中の絵を送ってきてくれます。僕も個人的には絵を描くのが好きなので、就寝の30分くらい前に描くことがある。まだ彼には見せたことがありませんが、完成したら見せようと思っています。お互いにそういう、ビジネスの生々しい話よりは個人的な趣味の話や、元気かというようなやりとりしている状況です」と述べます。
彼が、中国の金融規制について批判的な発言をしたのはなぜか、という質問には「僕も詳しい内容はメディアで読む程度しか分かりませんので、軽々とした発言は避けたいと思います」と答えるにとどまりました。