宇宙航空研究開発機構(JAXA)と三菱重工業(MHI)は1月23日、MHIの飛島工場(愛知県海部郡飛島村)において、H3ロケット初号機のコア機体(第1段+第2段)をプレス向けに公開した。H3ロケットの実機が公開されたのはこれが初めて。この後、コア機体は26日に出荷し、種子島へ輸送。2021年度中の打ち上げに向け、射場作業を開始する予定だ。
H3ロケットは、現行の基幹ロケットH-IIA/Bの後継機。全長は63m、直径は5.2mの大型ロケットで、日本のロケットとしては過去最大となる。第1段エンジン「LE-9」は2基または3基、固体ロケットブースタ「SRB-3」は0/2/4本のコンフィギュレーションがあり、初号機はLE-9が2基、SRB-3が2本の「H3-22」型となる。
今回、第1段にはLE-9エンジンが2基搭載されていたが、これは以前のBFT(厚肉タンクステージ燃焼試験)で使われた実機型だという。今後、種子島に輸送後、フライト品に近いものに換装し、極低温点検(F-0)を実施。その後、完全にフライト品に仕上げた上で、CFT(実機型タンクステージ燃焼試験)を行い、打ち上げに臨む。
ちなみに、H3ロケットの全長63mというのはロングタイプのフェアリングを搭載したときの数字だが、初号機はショートタイプなので、これより6m低くなり、全長は57mだ。ただ、これでもH-IIBの56mよりは少し高く、日本最大という点は変わらない。
なお直径は、H-IIAが4.0m、H-IIBが5.2m(第1段)だった。H3はH-IIBと同じとなるが、第2段も同じ太さで、くびれは無い点が異なる。H-IIBのくびれはロケットファンに人気が高く、この点だけは残念に思っている人も多いかもしれない(筆者もだ)。
そのため実際に機体を見てみると、第2段がかなり大きくなった印象を受ける。外側から見えるのは液体水素タンクの部分であるが、直径が大きくなった分、全体的に平べったく見えるものの、タンクの容量はH-IIAの1.5倍もあるそうだ。
またこの段間部は、H-IIA/Bから大きく変わったところである。従来はCFRP製だったが、H3は金属製。重くはなるものの、打鋲をロボットにより自動化したことで、大幅な低コスト化を実現したという。重さよりもコストを重視した形だ。
この段間部には従来、搭載衛星のロゴがデザインされていたが、金属製への変更により、表面は梁でデコボコに。この場所に何かを描くのは難しくなったため、デザインはフェアリングに集約された。
このデザインについて、JAXAの岡田匡史プロジェクトマネージャは、「H3は無駄なものを省いた設計になっている。それを表現するデザインもシンプルなものにした」と述べる。なお従来は、フェアリングは左右側に分離していたが、H3は90°変えて前後側に分離する。機能的にはどちらでも構わないそうで、この変更もデザイン的な理由とのこと。
もう1つ、デザイン的に目を引くのは、第1段の中央に描かれる国名の表記が「NIPPON」から「JAPAN」に変わったことだ。これは、H3ではより強くグローバルサービスをイメージするために、海外で通りが良い英語表記にしたという。
そのほか非常に細かい点であるが、筆者が注目したいのはブースタの取り付け方式。従来は、ブースタ1本あたり、2本のスラストストラットで第1段を持ち上げていたが、H3では1本のスラストピンで推力を伝えるシンプルな方式になっている。
またH3では移動発射台(ML)での支持方式も変わる。H3はH-IIBよりさらに高くなるため、既存の整備組立棟(VAB)に格納するには、機体をMLにめり込ませる形で搭載する必要があった。MLの穴の側面には可動式の支持アームが4か所あり、ここで機体を固定。離床直後には引っ込む仕組みだ。
今後、H3ロケットの開発の場は種子島に移る。まず注目したいのが、この3月にも実施する予定の極低温点検だ。この試験では、初めて射点に立つH3ロケットが見られるはず。分離放擲試験で使用したロングタイプの黒いフェアリングを搭載するという、かなりレアな姿が拝めるはずなので、楽しみにしておこう。