理化学研究所(理研)、名古屋大学(名大)、台湾中央研究院天文及天文物理研究所(台湾天文物理研究所)の3者は1月22日、成長途上にある原始星円盤に「リング構造」を持つものが存在することに着目し、このリング構造は惑星形成の始まりに起こる塵の付着成長によって作られた可能性があることを示したと発表した。

同成果は、理研 開拓研究本部坂井星・惑星形成研究室の大橋聡史研究員、同・仲谷崚平基礎科学特別研究員、同・坂井南美主任研究員、名大 大学院理学研究科 理論宇宙物理学研究室の小林浩助教、台湾天文物理研究所のハウユー・リウ助教らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal」に掲載された。

太陽系のような惑星系は、宇宙に漂うガス(主成分は水素分子)と塵(星間塵)からなる分子雲が、自らの重力で収縮することにより産声を上げる。恒星へと成長していく途中の原始星の周囲にはたくさんのガスや塵が存在し、原始星に向かって落下していく。

その中で、一部の大きな角運動量(回転運動の向きと勢いを表す量)を持つものが「原始星円盤」として原始星の周囲を回転するようになる。そしてその成長が終わり、ガスや塵が留まり続けると原始星円盤は新たな段階に入り、「原始惑星系円盤」と呼ばれるようになる。

これまでのシナリオでは、原子惑星系円盤の段階にいたって初めて星間塵は互いに付着して大きくなっていき、微惑星を経て、最終的に惑星が形成されると考えられてきた。つまり、これまでは円盤の成長が終わり、新たに円盤に落下してくるガスや塵がなくなった後に惑星が作られると考えられていたのである。

しかし近年の観測で、形成されたばかりの若い原始星円盤において、すでに環状(リング)構造やらせん状構造があることが次々と発見されている。このような構造形成は惑星形成の始まり、あるいは惑星がすでに誕生している可能性もあるという。つまり、これまで考えられてきたよりもずっと早い段階で惑星形成が開始されることを考える必要が生じてきたのである。そうした背景を受け、国際共同研究チームは、リング構造の起源や惑星形成との関連についての詳細な調査を実施した。

国際共同研究チームが今回の研究において、リング構造の形成メカニズムとしてまず着目したのが、惑星の材料となる塵の付着成長だ。塵のサイズが大きくなり、成長することでリング構造が作られるという可能性が考慮されたことから、塵同士の付着成長のシミュレーションが実施され、観測結果との比較が行われた。

原始星円盤内の塵の回転速度は、原始星からの距離によって大きく変わってくる。太陽系の惑星は最も内側の水星が最も速く、外側に向かうに従って遅くなり、最も外側の海王星が最も遅い。このように、円盤を構成する物質も「ケプラー回転運動」をしているので、内側ほど速く回る。そのため内側では塵同士の付着が進み、センチメートルほどのサイズまで大きくなる。その一方で、外側では回転が遅いため、成長には時間がかかってしまう。

シミュレーションの結果、このような半径による塵の付着成長時間の違いによって、成長が進んでいる内側と成長が進んでいない外側での境界である「成長前線」がリングとして観測されることが確認された。時間が経つにつれて、外側でも大きな塵に成長できるため、この成長前線は徐々に外側に広がっていく。このようなリング構造が円盤に観測されれば、塵の成長という、いわば惑星形成開始の徴候を捉えたことになるという。

  • 惑星形成

    星間塵の付着成長シミュレーションによる擬似観測画像。原始星円盤でリング構造(明るいオレンジの部分)が観測され、リングの内側(茶色の部分)では塵が大きなサイズに成長している。一方、リングの外側(紫色の部分)では塵の成長は進んでいない。左から、円盤形成開始後6400年、1万3000年、2万6000年となっており、時間とともに塵が成長する領域が拡大していくため、次第にリングが外側に向かって広がっていくことが見て取れる (出所:理研Webサイト)

そこで、これまでアルマ望遠鏡や、アメリカ国立電波天文台が運用する電波望遠鏡のカール・ジャンスキー超大型干渉電波望遠鏡群(VLA)による電波観測により、リング構造が発見されている23個の円盤に対して、リングの場所と今回の研究で求められた成長前線の位置の比較が行われた。すると、形成開始後100万年にも満たない非常に若い原始星円盤において、リングの場所が成長前線と一致することが判明したのである。

国際共同研究チームが特に着目したのが、おうし座の方向、地球から450光年離れた場所にある太陽型の恒星を形成している領域「L1527」にある原始星「IRAS04368+2557」だ。この原始星は、原始星自体がまだ成長途中にある一方、周囲にすでに原始星円盤が作られ始めていることが確認されている。そしてこの円盤もまだ成長途中で、周囲のガスや塵が円盤へと降着している非常に若い段階であることが特徴だ。

ごく最近、アルマ望遠鏡とVLAによる高解像度の観測で、星間塵が出す波長0.7cmの輻射が、中心の原始星IRAS04368+2557から半径約15天文単位の場所で、上下両方向に塊のようなピークを持つことが発見された。

  • 惑星形成

    原始星円盤L1527の観測画像とシミュレーションによる原始星円盤の比較。(左)VLA望遠鏡による波長0.7cmの観測画像。星印は原始星の位置が示されている。原始星の上下15天文単位の場所に明るい塊が見られる。(右)シミュレーションによるリング構造を持つ原始星円盤の画像。横から見た観測とモデルで、同じ場所に明るい塊が見られる (出所:理研Webサイト)

国際共同研究チームは、このような等間隔に並ぶ塊は成長前線によるリング構造を横から見ることで説明できることを示した。成長途中の円盤において、このような惑星形成が始まっている様子を示したのは初めてのことだという。

今回の研究により、惑星形成の開始時期が従来考えられているよりもずっと早い可能性が、具体的なモデルによって示された。まだ周りの物質が降着し、原始星や円盤も形成途中にある段階で、同時に惑星形成が始まっているかもしれず、従来の惑星形成に関する理解を大きく変える可能性があるとする。

  • 惑星形成

    惑星形成の従来モデルと今回明らかにされた新たなモデル。(左)従来考えられてきた惑星形成のシナリオ。原始星や原始星円盤の成長が終わった後、ガスや塵が原始惑星系円盤に長く留まり続けて、塵が付着し惑星形成が始まっていく。(右)今回明らかにされた新たな惑星形成シナリオ。原始星円盤がまだ成長している段階ですでに塵が大きく成長し、従来よりもずっと早い段階で惑星形成が始まるという内容だ (出所:理研Webサイト)

また、原始星円盤がリング構造を持つ可能性とその形成メカニズムも示された。この成果も、従来の惑星形成論を大きく変える可能性があるため、その一般性を明らかにすることが、今後の重要な課題だという。

さらに、複数の成長途中の若い円盤をより詳細に観測することで、実際に成長前線の内側で星間塵が成長して大きくなっていることを、観測からも明らかにする必要があるとする。そのためには、センチ波帯を中心としたさまざまな波長で高解像度観測を行うことが重要だ。一方、星間塵の付着成長シミュレーションも、星間塵の複雑な構造を考慮することで、より成長が促進される可能性があり、今後そのような効果を明らかにする必要があるとしている。

国際共同研究チームは、このように、詳細な観測とさまざまな物理過程を考慮した理論計算を組み合わせれば、原始星と惑星の共進化という星・惑星系形成の新たな描像を明らかにできると期待できるとしている。