Samsung Elecronicsは1月19日、2.5インチSATA SSDの新製品「870 EVO」を発表した。870 EVOは、2018年1月に発表された「860 EVO」の後継となる。860 EVOと同じく、1つのセルで3bitの情報を記録できるV-NAND 3bit MLCを採用しているが、V-NANDの世代が第4世代から第6世代へ、搭載コントローラが「MJX」から「MKX」へと更新された。日本では1月下旬から販売予定となっている。
製品ラインナップは、250GB・500GB・1TB・2TB・4TBの5モデル構成。キャッシュメモリとして使われるLPDDR4 DRAMの容量は、250GBモデルと500GBモデルが512MB、1GBモデルが1GB、2TBモデルが2GB、4TBモデルが4GBだ。店頭予想価格(税込)は、250GBが5,000円、500GBが6,980円、1TBが11,480円、2TBが27,280円、4TBが発表時点では未定。
信頼性と性能、コストパフォーマンスに優れたメインストリーム向けモデル
Samsung Electronicsの2.5インチSATA SSDは、上位から「860 PRO」「870 EVO」「870 QVO」の3モデルがある。それぞれ採用しているNANDフラッシュメモリの仕様が異なり、860 PROは2bit MLC、870 EVOは3bit MLC(TLC)、870 QVOは4bit MLC(QLC)だ。基本的に1つのセルで記録するbit数が増えるほど、性能や耐久性の面では不利となるが、容量当たりのコストは安くなる。今回登場した870 EVOは3bit MLCで、性能と耐久性、価格のバランスがとれたモデル。幅広い用途に向いている。
870 EVOは、SATA 3.0に対応した2.5インチフォームファクターのSSDだ。第6世代のV-NAND 3bit MLCは、積層数が1xx層となり、ついに100層を超えた(第5世代V-NANDの積層数は9x層)。SamsungのSSDは、SSDを構成する主要パーツであるNANDフラッシュメモリ、コントローラ、DRAMの全てを自社で製造していることも特徴のひとつ。新コントローラの「Samsung MKX Controller」は、第5世代や第6世代のV-NANDへの最適化を図ったものだ。
公称パフォーマンスが旧モデル「860 EVO」に比べて向上
870 EVOは旧860 EVOと同じく、NANDフラッシュメモリの一部を高速書き込み可能なSLCモードで利用し、キャッシュに用いて高速化する「Intelligent TurboWrite」を搭載。SATA 3.0対応SSDとしては限界に近い速度を実現している。870 EVOはV-NANDとコントローラが新しくなったためか、公称パフォーマンスも860 EVOに比べて向上した。
旧860 EVOのシーケンシャルリードは最大550MB/秒、シーケンシャルライトは最大520MB/秒だったの対し、870 EVOのシーケンシャルリードは最大560MB/秒、シーケンシャルライトは最大530MB/秒だ。それぞれ10MB/秒ずつパフォーマンスが向上している。
Windows 10環境でのランダムアクセス性能は、860 EVOの4KBランダムリード(QD1)が最大10,000IOPSだったのに対し、870 EVOの4KBランダムリード(QD1)は最大13,000IOPSと、3割ほど向上している(QD32でのランダムリードやQD1/QD32でのランダムライトは変わっていない)。
耐久性に関わる書き込み可能容量(TBW)は、250GBモデルが150TB、500GBモデルが300TB、1TBモデルが600TB、2TBモデルが1,200TB、4TBモデルが2,400TBであり、それぞれ860 EVOと同じ。保証期間も5年間で860 EVOと同じだが、長期間使った場合の性能低下が少なくなり、最大で30%高い性能を実現するとのことだ。
1TB以上のモデルではTurboWrite領域を使い切ってもライト性能は変わらない
Intelligent TurboWriteでは、SLCとして使う領域をアクセス状況に応じて動的に可変できる。870 EVOのデフォルトでは、250GBモデルで3GB、500GBモデルで4GB、1TB・2TB・4TBモデルでは6GBがSLC領域として確保されている。250GBモデルでは可変領域として最大9GBを割り当てることが可能であり、合計で最大12GBとなる。同様に、500GBモデルの可変領域は最大18GB(合計最大22GB)、1TBモデルでは最大36GB(合計最大42GB)、2TBモデルと4TBモデルでは最大72GB(合計最大78GB)だ。
Intelligent TurboWriteの領域を使い切ると、870 EVOの250GBモデルと500GBモデルではシーケンシャルライト性能が530MB/秒から300MB/秒まで下がる。1TB・2TB・4TBモデルは、Intelligent TurboWrite領域を使い切っても、シーケンシャルライト性能は530MB/秒のままで変わらない。
CrystalDiskMarkではランダムアクセス性能が向上
それでは、870 EVOの性能を計測してみることにしたい。テスト環境は以下のとおりだ。
■今回のテスト環境
- CPU:Intel Core i7-7700K(4.2GHz)
- マザーボード:ASUS H170 PRO GAMING(Intel H170 Express)
- グラフィックカード:玄人志向 GF-GTX1060-3GB/OC/DF(GeForce GTX 1060)
- メモリ:DDR4-2333 16GB(8GB×2)
- システムドライブ:SanDisk SSD PLUS(480GB)
- OS:Windows 10 Pro 64bit
テストするSSDは、870 EVOの1TBモデルと860 EVOの1TBモデル。まずは、定番の「CrystalDiskMark 8.0.1」の結果を見てみよう。
シーケンシャルリードの速度は、870 EVO 1TBが561.79MB/秒、860 EVO 1TBが560.29MB/秒、シーケンシャルライトの速度は、870 EVO 1TBが547.89MB/秒、860 EVO 1TBが526.59MB/秒。シーケンシャルリード・ライトは、870 EVO 1TBと860 EVO 1TBはほぼ同等だった。
ランダムアクセス性能については、4K(Q32T1)ランダムリードは870 EVO 1TBが400.50MB/秒、860 EVO 1TBが400.65MB/秒、4K(Q32T1)ランダムライトの速度は870 EVO 1TBが359.82MB/秒、860 EVO 1TBが358.56MB/秒となった。
4K(Q32T1)ランダムリードと4K(Q32T1)ランダムライトは、870 EVO 1TBと860 EVO 1TBの間に大きな差はない。また、4K(Q1T1)ランダムリードは、870 EVO 1TBが55.15MB/秒、860 EVO 1TBが52.86MB/秒、4K(Q1T1)ランダムライトは870 EVO 1TBが147.66MB/秒、860 EVO 1TBが142.72MB/秒だった。4K(Q1T1)ランダムリードと4K(Q1T1)ランダムライトは、やや870 EVO 1TBのほうが高速だ。
PCMark 10のストレージベンチマークでも870 EVOが高速
次に、総合ベンチマークテスト「PCMark 10」のストレージベンチマークを計測してみた。PCMark 10のストレージベンチマークは、「フルシステムドライブベンチマーク」と「クイックシステムドライブベンチマーク」、「データドライブベンチマーク」、「データドライブ性能一貫性テスト」の4種類があるが、ここでは、フルシステムドライブベンチマークとデータドライブベンチマークを行った。
フルシステムドライブベンチマークは、実際によく使われるアプリケーションでの作業をエミュレートしたもので、システムドライブとして使う場合のパフォーマンスを計測できる。一方のデータドライブベンチマークは、データ保存用途として使う場合のパフォーマンスを計測する。
フルシステムドライブベンチマークは、870 EVO 1TBが1219、860 EVO 1TBが1166であり、5%ほど870 EVO 1TBのスコアが高い。データドライブベンチマークは、870 EVO 1TBが1686、860 EVO 1TBが1612と、こちらも5%ほど870 EVO 1TBが高スコアだった。
PCMark 10・フルシステムドライブベンチマーク
PCMark 10・データドライブベンチマーク
HD Tune Pro 5.75によるテストでライト性能が低下しないことを確認
「HD Tune Pro 5.75」を利用して、ストレージ全域にアクセスした場合の転送速度を計測した。
リード時の転送速度は、870 EVO 1TBが平均452.1MB/秒、860 EVO 1TBが平均451.1MB/秒と、ほぼ同じ。ライト時の転送速度は、870 EVO 1TBが平均419.7MB/秒、860 EVO 1TBは平均410.2MB/秒であり、870 EVO 1TBが上回った。
ここで注目すべきは、ライト時の速度変化。870 EVO 1TB、860 EVO 1TBともに、多少上下はあるものの、大きく落ち込むようなことはない。以前行った870 QVO 1TBでのテストでは、500GBを過ぎたあたりでIntelligent TurboWriteの領域を使い切り、ライト速度が大きく低下していた。
前述したように、1TB以上の870 EVO(860 EVOも同じ)では、Intelligent TurboWriteの領域を使い切っても、ライト速度が低下しないのだ。これは870 QVOに比べて大きなアドバンテージといえるだろう。
HD Tune Pro 5.75・リード速度
HD Tune Pro 5.75・ライト速度
870 EVO、買うなら1TB以上がおすすめ
870 EVOは、前モデルの860 EVOと比較して、パフォーマンスが大きく向上しているわけではない。860 EVOでもパフォーマンス的にはほぼSATA 3.0の限界に達しており、これ以上性能を大きく向上させるのは、インタフェースにSATA 3.0を使っている以上は不可能だ。
とはいえ、ベンチマークでも性能が向上していることは見て取れる。テスト結果からもわかるように、容量が1TB以上の870 EVOは、Intelligent TurboWriteの領域を使い切っても、ライト速度が低下しないという特長があるため、870 EVOを買うなら1TB以上のモデルを選びたいところ。
870 EVOは、性能、信頼性、コストパフォーマンスの三拍子そろったSATA対応SSDといえる。特に、いま250GBや500GBクラスのSATA対応SSDを使っていて、より大容量のSSDが欲しくなったというユーザーに、自信を持っておすすめできる。