新型コロナウイルスの感染拡大がビジネス面で多大な影響を及ぼした2020年。新年を迎えてもその勢いは衰えず、早々に2回目の緊急事態宣言が発令された。そのような中、これまで日本では遅々として進まなかったデジタルトランスフォーメーション(DX)が企業に根差しつつある。今回、日本IBM 代表取締役社長執行役員の山口明夫氏に日本のIT業界に関する見通しについてインタビューを行った。

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山口明夫(やまぐち あきお)

日本IBM株式会社 代表取締役社長執行役員


1964年8月29日生まれ。和歌山県出身。1987年に大阪工業大学工学部を卒業。同年に日本IBMに入社し、技術統括本部ソフトウェア技術本部 第三技術所、2009年7月に執行役員 グローバル・ビジネス・サービス事業 アプリケーション開発事業担当、2012年5月に同 金融サービス事業担当、2014年10月に常務執行役員 グローバル・ビジネス・サービス事業 サービス事業統括担当に従事。


2016年4月に専務執行役員 グローバル・ビジネス・サービス事業本部アプリケーション・イノベーション・コンサルティング 兼 統合サービスソリューション&デリバリー担当、2017年1月に同 サービスデリバリー統括 兼 クラウドアプリケーションイノベーション 兼 グローバル・バンキング・サービス事業部担当、同7月に取締役専務執行役員 グローバル・ビジネス・サービス事業本部 本部長を歴任した。2019年5月から現職。

量子コンピュータでは商用化に一番近いポジション

--まずは昨年を振り返ってみていかがでしょうか?

山口氏:好調にビジネスが推移していた中で、新型コロナウイルスの感染が拡大しました。大型のプロジェクトは継続した一方で、コンサルティング案件などは一時的に停止しました。また、リモートワークが浸透したことは大きな変革であり、これまで1000~2000人がかかわるプロジェクトをリモートで実施するという発想はありませんでしたが、それが可能になったわけです。

さらに、社内では家事や育児、介護などで移動できない、時間に制約があった人は、これまで制約なく働いていた人と同じ条件になってきたため、平等な環境で働くことが可能になりました。これは、真の意味で能力主義となり、力を発揮できる環境が整ってきたのではないかと感じています。

例えば、従来は現場、ニアショア、オフショアで業務を行っていましたが、ヴァーチャルが主体となったため境界がなくなり、物理をベースにした考え方が崩れ、効率的な業務を可能としています。ただ、ヴァーチャルだけによらず、いかに物理環境のメリットを組み合わせいくかが重要だと思います。

--業績はいかがでしたか?

山口氏:AIやクラウド、デジタル変革のコンサルティング関連など、必要な部分のビジネスは現在でも好調です。一方で従来から取り組んでいる運用支援などは効率化や高機能化が進んでいるため、その分の売り上げ自体は減少しています。全体的には利益も含めて想定通りで、デジタルサービスプラットフォーム(DSP)は好評を得ています。

特に、DSPは従来の基幹システムと業界ごとの業務アプリケーションの間のプラットフォームのため、基幹システムを変更することなく、新しいアプリケーションを構築する際に認証など共通の機能はプラットフォームの中で提供されることから、迅速に立ち上げられます。

そのため、ビジネスアイデアを市場投入するまでの時間やコストを大幅に削減ですることを可能としています。すでに昨年6月に金融サービス向けについて発表しており、今後はライフサイエンスなど、他の業種向けにも提供していきます。

また、IBM Watsonや統計解析ソフトウェアのIBM SPSSに代表されるデータ分析関連も伸長しました。昨今ではデジタルツインと呼ばれるように、センサなどを設置することで工場をヴァーチャル化する動きが出てきています。データで可視化・分析することにより、障害の検知や効率的な工場運営を可能としているため、コンサルティングから実装までのサービスは拡大しています。

さらに、IBM CloudやOpenShiftや統合済みのコンテナ化したソフトウェアとして提供する「IBM Cloud Paks」も好調でした。

--日本における量子コンピュータに関しては、いかがでしょうか?

山口氏:IBMが商用化に一番近いポジションにいると自負しています。実際、ダイムラーと共同で次世代リチウム硫黄電池の開発に量子コンピュータを活用するなど、具体的に成果は出てきています。

また、創薬や素材などでも活用が見込まれており、データをいかに効率的かつ正確に利用するかが重要なため、これは量子の世界でしか実現できないものだと考えています。

日本の研究開発部門ではスキルを持つ人材を抱えているほか、学生さんも量子インターンシップなどのプログラムを揃えています。技術力をベースに量子コンピュータをリードしたいですね。

現状では、深層学習やニューラルネットワークをはじめとした実証済みのNarrow AI(狭いAI)が一般的なAIですが、われわれは多様なタスクやドメインに対応できるシステム、少量データでの学習を可能とし、そして信頼や説明能力を持つBroad AI(広いAI)を進めています。そして、ニューロコンピュータにも取り組んでいます。