依然として収まる気配をみせないコロナ禍。2021年も我慢の年になりそうだが、回復からニューノーマルへの道すじを模索する動きは間違いなく進んでいる。2020年をふり返った「Appleのゆく年くる年」に続いて、2021年のAppleを考察する。

昨年末にPC業界の話題をさらったM1 (Apple Silicon)搭載Mac。時計の針を2005年に戻すと、PowerPCからIntelのプロセッサに移行した際にAppleは6月に移行を発表、2年を設定していた移行計画を大幅に短縮して翌年の8月には全てのMacのIntel搭載を完了させた。今回も2年の移行期間を設定しており、2006年と同じように、今年は新しいプロセッサへの移行を粛々と進める年になる。だが、前回のような移行ペースにはならないだろう。前回は、Intelが圧倒的な開発力を誇っていた時期で同社がスケジュールを前倒ししたことが短縮につながった。Apple Siliconは新しい製造技術が立ち上げから間もなく、全モデルの移行完了は製造技術の成熟に合わせたものになる。

  • 「13インチMacBook Pro」「MacBook Air」「Mac mini」で実力を示したM1チップ、2021年は上位のデスクトップやノートに

iMacや16インチのMacBook Proなど、よりパフォーマンスが求められる機種に搭載を拡大する上で注目点になるのがスケーラビリティだ。現在のM1は高性能コアx4、高効率x4という構成で、高性能コアやGPUコアを増やすことでデスクトップやProモデルのニーズを満たす。

  • 昨年登場したM1搭載MacのSoCは、TDP 10Wを目安に電力対性能効率に優れていた。より高いTDP枠でデザインされたApple Siliconがどのような性能を発揮するか楽しみだ

昨年12月にBloombergのMark Gurman氏が、MacBook ProとiMac向けに、高性能コアx16個、高効率コアx4個のSoCを設計しており、生産状況に応じて最初は高性能コアを12個または8個を有効化したチップを計画していると報じた。

16コアの設計でなぜ製品が12コアまたは8コアになるのかというと歩留まりを高めるためと見られている。M1は5nmプロセスで製造されているため、シングルコア性能と効率性で既存のPC用チップ(Intel製は10nmまたは14nm)を凌駕しているが、量産が始まったばかりで不具合の発生が少なくない。低い歩留まりはチップのコストアップにつながる。対策として、製造歩留まりを高められるデザインにとどめ、さらに許容する幅を広げると推測されている。例えば、昨年末に登場したMacBook Airは同じM1チップでも上位モデルのGPUが8コア、下位モデルは7コアだ。7コアのみ有効化しているチップの中には、不具合によって8コアが揃わなかったチップも含まれると見られている。製品として十分に利用できるチップを採用することで製品歩留まりを高め、チップのコストを抑えられる。5nmの性能と効率性を手頃な価格でも提供できるようになる。

そうして新しい製造プロセスが安定してきたら、ハイエンド向けの量産が見えてくる。Gurman氏によると、新デザインのMac Pro向けに32個の高性能コアを搭載したチップをデザインしており、グラフィックスも64コアや128コアを視野に開発を進めているとのこと。

  • 2020年というタイミングを逃さないように、確執が深まっていたQualcommと和解、Qualcommのモデムを搭載した5G対応のiPhone 12/12 Proを投入した

チップ関連では、5Gモデムも注目点の1つだ。AppleはiPhone 12/12 ProでQualcommのモデムを採用しているが、過去にビジネス慣行を巡って対立したQualcommに依存するのではなく、Intelのモバイル向けモデム事業を買収して自社開発に乗り出している。

新しいiPad ProからApple独自のモデムの搭載が始まるという噂が昨年末に出てきた。しかし、忘れてはならないのが、今はまだ自社開発が可能かどうか、開発の進捗が問われている段階だということ。そもそもIntelの5Gモデム開発のトラブルが、Appleが自社開発に踏み切る発端だった。モデム事業がAppleに移っただけで抱えていた問題が解決するわけではない。モデムは持続可能な事業として成立させるのが非常に難しく、Intelだけではなく、過去にいくつもの企業が挑戦しては思うような成果を上げられなかった。Appleといえども不安材料の方が挙げやすいのが現状であり、Apple Siliconのような成功をモデムでも再現できるかまだ不透明だ。

Qualcommとの契約は6年。十分な開発期間があるように思うかもしれないが、買収したIntelのモデム事業が抱えていた問題、アンテナ、RFモジュール、業界団体や参加企業との関係作り、携帯電話事業者との連携など課題は山積みである。それらのいくつに今年チェックマークを付けられるか、その結果次第でApple製5Gモデムの見通しは変わる。