Intelは12月15・16日にオンラインの形でIntel Memory and Storage 2000というイベントを開催したが、これに併せて新しい3D NAND SSD/Optane SSDを発表すると共に、Optane Persistent Memoryの将来ロードマップも公開した。これを順に説明したい。

Enterprise向け3D NAND SSD

まずはこちらから。同社は今回、D7-P5510及びP5-P5316の2製品を新たに発表した(Photo01)。まずD7-P5510であるが、こちらはクラウドデータセンター向けに、144層TLC 3D NANDを集積したもので、U.2で3.84/7.68TBの容量で提供される(Photo02)。前世代、つまり96層TLC NANDを利用したD7-P5500/P5600と比較して、性能を向上させると共に耐久性も若干改善している。特にTRIMの時間は大幅な短縮となっている。また新機能としてヘルスモニタリングやクラウドワークロードへの最適化、PCIeコントローラを利用した複数のNamespace対応、省電力化、暗号化性能の改善などが施されたとする(Photo04)。またアクセス性能も、実アプリケーションで競合製品と比較して大幅に向上したとする。容量よりもアクセス性能を重視する用途向け製品という位置づけだ。

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    Photo01: "Available in Q4'20"とか言われてもあと2週間しかないのだが。

  • Photo02: 後で話が出てくるが、この144層TLC 3D NANDは、144層QLC 3D NANDをTLCとして利用することでアクセス性能と耐久性を向上させた形となる。

  • Photo03: その一方で容量そのものは最大7.68TBで全く向上していない。144層NANDを利用したことによる容量増を、アクセス速度改善と信頼性向上に全振りした格好である。

  • Photo04: Trimの話はここにつながる。要するに5Gの基地局とかで、Trimが理由でアクセスが滞るとシステムの可用性そのものを損ないかねないが、Trimの速度を100倍に高速化して、このアクセス待ちの時間を最小限にしたという話である。

  • Photo05: ここで出てくる競合のPCIe Gen4 SSDはSamsung PM 1733 3.84TBであり、Intelの方もD7-P5510 3.84TBで比較しているそうだ。

これを実現するために、後述するD5-P5316と同じく144層のQLC 3D NANDを利用するが、ただしこれをQLCではなくTLC動作で利用している(Photo06)。この結果として容量そのものはQLCの場合の3/4に減るが、性能と耐久性の両面でメリットが出るという格好だ。

  • Photo06: QLCではなくTLCにすると丁度PCIe 4.0のバス幅にマッチする、というのはちょっと面白い。QLCと同じASICというのも当然で、物理的なデバイスそのものはQLCと同じで、端的に言えば単に4回に分けていた書き込みの最後を行わないだけだからだ。

一方容量が必要な用途向けに投入されるのがD5-P5316(Photo07)である。ドライブ単体では最大30.72TB。E1.Lフォームファクタの場合、1Uラックで最大1TBの容量を確保できるとする。容量優先と言いつつ、従来の容量向け製品であるD5-P4326と比較しても読み込み速度が向上しているうえ、耐久性も4倍に向上した、とする。加えて言えば、価格性能比でもHDDを抜いた、としており(Photo09)、U.2なら2Uで810TB、EL.1なら1Uで1PBの容量が確保できることをアピールした。

  • Photo07: こちらは来年前半投入予定である。

  • Photo08: D5-P4326は最大15.36TBなので、最大容量そのものも倍になった。

  • Photo09: EC(Erasure Code)は消失訂正符号の事。4+2のECを利用すると、元のStorage容量の2/3が利用可能となる。少なくともReplicationよりはずっとマシである。それはともかくCompressionがこんなに効くのだろうか(いや効く場合があるのは知っているが、それはSSDに限った話ではなく一般的な利用法での話であり、HDDの場合も効果がある筈で、となると右図の前提が崩れる事になるような)?

Client向けSSD

次がClient向け。現在はOptane Memory+3D NANDのOptane memory H10と、3D NANDのみのSSD 660p/665pが出荷中であるが、これに続くものとしてOptane memory H20とSSD 670pの投入が明らかにされた(Photo10)。まずはSSD 670pについて。

現在SSD 660pが64層のQLC 3D NAND、SSD 665pが96層のQLC 3D NANDを利用して提供されているが、SSD 670pは第4世代となる144層QLC 3D NANDでの実装となる(Photo11)。さてそのSSD 670pであるが、容量512GB~2TBまでの3製品で、その意味ではSSD 665pとは大きくは変わらない。ただコントローラが新しくなり、セキュリティ機能の強化や耐久性の向上が図られている。もっともアクセス性能そのものには言及が無かったあたりは、パフォーマンスという観点ではお察しなのかもしれない。その代わりと言っては何だが、Intel 660pから搭載されたDynamic SLC Cacheが更に拡張された(Photo13)。Dynamic SLC Cacheは名前の通り、容量の一部をSLC NANDとして扱う事で耐久性とアクセス速度を確保し、ここをキャッシュに割り当てる事で性能改善を行う仕組みである。SSD 660pも670pも、全体を4つ(Static-SLC SPAN、QLC mapped as SLC SPAN、Unused QLC capacity、Used QLC Capacity)に分割している。Staic-SLC SPANはSLC動作で常時キャッシュに割り当てられるが、これに加え、QLC Capacityの一部を「容量が空いている場合はSLC Cacheとして扱う」ことで、よりキャッシュの効率を引き上げる仕組みがDynamic SLC Cacheである。

  • Photo11: 第1世代→第2世代ではTLC→QLCの変更もあって容量が133%ほど増えているが、その先は層数に比例する格好で増えている。ちなみにこのロードマップを素直に延長すると2023年に216層の第5世代が投入されることになるが、もうその頃にはSK Hynixに生産が移ってるわけで、どうなるのかは不明。

  • Photo12: 意外だったのはPCIe Gen4に対応していない事だ。

  • Photo13: 逆に空き容量が逼迫してきたらQLC mapped as SLC SPANの容量をダイナミックに減らし、Unused QLC capacityを確保する仕組みである。このあたりはSSD 670pの内部で処理が完結しており、ユーザーからは操作できない。

さてSSD 670pではこのDynamic SLC Cacheの容量は512GBあたり6GBが最小容量、70GBが最大容量になり、あとはSSDの空き容量に応じてダイナミックにキャッシュ容量が変化するが、SSD 670pはSSD 660p比で平均11%ほどキャッシュ容量が増えているとする(Photo14)。

  • Photo14: SSD 660pの場合はIntelのSolid-State Drive Toolboxソフトウェアから、明示的にSSD Cache(恐らくこのDynamic SLC Cacheの事)をフラッシュ出来たが、SSD 670pでどうなっているのかは不明。

次がOptane Memory。既存のOptane Memory H10は、競合のPCIe TLC NAND SSDよりも30~50%高速とされるが(Photo15)、これに続く製品が今回発表されたH20である(Photo16)。もっとも変更点は、Flash Memoryが今回発表された144層 QLC 3D NANDになっただけで、あとは基本的に大きな違いはなさそうに見える(Photo17)。容量的にも512GBと1TBの2製品で、その意味では既存のH10と大きな違いは見受けられない。ちなみにこのH20は、Intel 500チップセットとRST Driver 18.1が必要ということで、現時点でこれに対応できるのはTigerLakeベースの第11世代Core Uシリーズプロセッサのみとなる。

  • Photo15: 比較対象は東芝(現キオクシア)のXG6 512GBだそうだ。

  • Photo16: ちなみにこの写真そのものはH10のままではないかと思う。

  • Photo17: "Upgraded 3D XPointMedia"とあるが、何がどう変わったのかに関しては言及ナシ。

Enterprise向けOptane SSD

3つ目は再びEnterprise向けである。Intelは2017年にOptane Memoryだけで構成されたエンタープライズ向けSSDとしてOptane SSD P4800Xシリーズを発表しているが、この後継としてOptane SSD P5800Xが発表された(Photo18)。こちらは次世代Optane Mediaを採用しており、Optane SSD P4800X比でもIOP数やシーケンシャルアクセス性能が3倍、4Kのランダムアクセス性能40%アップ、耐久性67%アップといった数字が並んでいる(Photo19)。実際にアプリケーション性能で言えば、1msのSLAを保証できるトランザクション数がほぼ4倍(Photo20)、QoSをかました場合の書き込みLatencyがSSD D7-P5500比で66倍少ない(Photo21)、連続アクセス性能がD7-P5600比で3.7倍向上(Photo22)、SSDと比べると耐久性が20倍(Photo23)といった特徴が紹介された。 ちなみにこのOptane SSD 5800Xの市場投入時期は明確にされていない。

  • Photo18: Optane SSD P4800Xの場合はU.2とPCIeカードの両タイプが用意されたが、Optane SSD P5800XはどうもU.2のみの模様。

  • Photo19: 帯域に関しては、PCIe Gen3→Gen4対応になった事も関係している模様。

  • Photo20: レイテンシ1msをSLA(Service Level Agreement)として保証すると、どうしてもトランザクション数を抑えないといけないが、これを5倍に増やせたとする。

  • Photo21: ここでOptane SSD P4800Xを持ってこないのは、多分Optane P4800X比ではそれほど改善が無いためと思われる。

  • Photo22: 右はちょっと説明が必要。100G Ethernetカードを装着し、フルに転送を行う(=12.5GB/secのReadとWriteが同時に発生)ケースで、これをSSDでカバーしようとすると4台~13台のP7-5600を並べてRAIDを組む必要がある。ところがOptane SSD P5800Xなら2~3台で済む計算になる。要するにより少ない容量(というか、台数)でNetwork Storageが構成できるので安く上がる、という意味。

  • Photo23: 耐久性が上がった分、ストレージプールの冗長ユニットの数も大幅に減らせるのでコストダウンにつながる、とする。

Optane Persistent Memory Roadmap

最後に、やはりEnterprise向けであるOptane Persistent Memoryについて。昨年9月に発表された際にロードマップが公開されたが、これが若干アップデートされた(Photo24)。さて、今年第2四半期に出荷開始された第2世代のOptane Persistent Memory 200シリーズであるが、ラインナップとしては128GB~512GBの3製品となっている。この第2世代で新しく搭載された機能がeADR(Photo26)である。Optane Memoryは不揮発性だから、ここに書き込まれたデータは明示的に消さない限り残っている。ここで、例えばCPUのキャッシュの内容が変更された場合、本来はOptane Memoryの側もそれに合わせて変更する必要があるのだが、これを明示的に行うのがADR(Asynchronous DRAM Refresh)である。これを自動的に行う事でCPU負荷を減らす、というのがeADRという訳だ。

ちなみに第3世代のCrow Passの登場時期は今回も明らかにされなかった。まぁそもそもSapphire Rapidsの登場時期が明らかでないのだから当然かもしれないが。

  • Photo24: といっても違いは第3世代のOptane Persistent Memoryのコード名がCrow Passと発表された事程度であるが。Cooper Lakeと間もなく登場するIce Lake-SPは、現在の第2世代Optane Persistent Memoryで対応する。

  • Photo25: 「3W」というのは消費電力そのものではなく、第1世代Optane Persistent Memoryからの「削減した消費電力差」な事に注意。

  • Photo26: Optane Persistent Memoryは、メモリの様に振る舞うモード(Memory Mode)以外に、アプリケーションが直接Optane Memoryを操作するApp Direct Modeが存在する。このため、App Direct Modeを利用するためにはアプリケーション側でeADRの対応が必要になる。