アップルが、初の高性能ヘッドホン「AirPods Max」を12月18日に発売します。先日は、筆者が注目する「4つのポイント」を解説しましたが、今回はAirPods Maxの実機に触れながら、特徴を深く掘り下げてみたいと思います。

  • アップル初のプレミアムヘッドホン「AirPods Max」をレビューします。税別61,800円の価格も話題になりました

iPhone/iPadと相性抜群。操作性もスムーズ

アップルのAirPodsといえば、iPhoneやiPad、Macと簡単にペアリングができて、すぐに音楽を聴いたり動画のサウンドが楽しめるワイヤレスイヤホンとして高い人気を誇るシリーズです。

AirPods Maxも、本体に電源を入れてiPhone/iPadに近づけるとセットアップアニメーションが表示され、「接続」アイコンをタップするだけでペアリングが完了します。ハンドリングがとにかくシンプルなので、ワイヤレスヘッドホンに慣れていない方もすぐに馴染めるでしょう。

  • 電源を投入してiPhone/iPadの近くに寄せると、オートペアリングがスタートします

Androidスマホやオーディオプレーヤー、Mac以外のPCに接続して楽しむこともできます。本体右側イヤーカップの上部に搭載されているノイズコントロールボタンを長押ししましょう。右イヤーカップ下側のLightning端子の隣にあるLEDランプが白く点滅するので、あとは普通のワイヤレスヘッドホンと同様にオーディオ機器のリストに並ぶAirPods Maxの名前をタップして選ぶだけです。

ペアリングしたスマホの音楽再生やハンズフリー通話など、たくさんの機能を操作できるように、タッチセンサーにたくさんのボタンを搭載するワイヤレスヘッドホンは数多くあります。慣れてしまえば便利なものですが、ボタン操作を一から覚えるのはひと苦労。AirPods Maxのリモコン操作部は、アクティブ・ノイズキャンセリング(ANC)と外音取り込みのスイッチに使用するノイズコントロールボタンのほか、Apple Watchから受け継いだDigital Crownだけと、非常にシンプルです。

  • 右側イヤーカップのトップに、Digital Crownとノイズコントロールボタンを搭載。シンプルなリモコン操作を特徴としています

Digital Crownは、回すと音量のアップダウン、クリックすると音楽再生の送り操作やハンズフリーの受話になります。ヘッドホンを装着した状態でDigital Crownを回すと、カチカチッという電子音が聞こえてきます。

ヘッドホンを着脱する動作が音楽再生の一時停止と再開操作になる「自動頭部検出」も便利です。音楽再生のタイミングは自分で決めたいという人のために、自動頭部検出はヘッドホンの設定メニューからオフにもできます。このほかにも、AirPods Maxの音質や操作設定にもこだわりながら使いたい方は、iPhone/iPadとペアリングした時にBluetooth機器設定に並ぶヘッドホンの名前の隣にある「i」アイコンをタップすると、AirPods Maxのいくつかの機能がカスタマイズできます。

  • AirPods Maxの設定メニュー。自動頭部検出のオン・オフやDigital Crownの回転方向などが決められます

ただ、AirPods Maxは基本的にユーザーが面倒な設定を行わなくても、サウンドやANCの効果などを自動でベストコンディションに最適化してくれる「コンピュテーショナルオーディオ」を大きな特徴とするヘッドホンです。例えば、ANC機能はバスや電車に乗車中、または賑やかなカフェなどユーザーがヘッドホンを使用する場所のノイズ条件を、本体に搭載する2個のApple H1チップが毎秒90億回の演算処理を行いながら解析。自動的に効果を最適化してくれるので、ユーザーが手動でレベルを調整する必要はありません。

しっかりと効く!ノイズキャンセリング機能

AirPods Maxのアクティブ・ノイズキャンセリング機能ですが、その消音効果はかなり高いと感じました。自宅でいろんなノイズを出しながら試してみましたが、掃除機の吸引音や家電が動作するモーター音なども、かなり気にならないレベルにまで抑えてくれます。

  • iPhoneにペアリングすると、コントロールセンターからノイズキャンセリングとヒアスルーの切り替えができます

近所も少し散歩してみました。車のロードノイズやバイクのモーター音などもよく消してくれます。サッカーに興じる子どもたちの歓声も、かなり近づかないと気にならないほどです。早く飛行機で試せる日が来ることを期待して待つばかりです。

  • AirPods Maxは、屋外のノイズもバランス良く消音してくれます

AirPods MaxのANC機能は、ただ消音効果が「強い」だけでなく、さまざまな帯域に分布するノイズをバランス良く消せることと、音楽再生のバランスを崩さない完成度の高さに魅力があります。ANC機能をオンにした途端、耳に圧迫感がかかるヘッドホン・イヤホンもずいぶんとありますが、AirPods MaxのANC機能にはそのようなユーザーの負担になるようなノイズキャンセリング処理に起因する不自然さを感じませんでした。

ANC機能と対になる「外部音取り込み」は、例えば屋外を歩きながらAirPods Maxで音楽を聴く時に人やモノにぶつかったりしないよう、必ずオンにして使いたい機能です。

「ヒアスルー」や「(オーディオ)トランスペアレンシー」などの機能名で呼ばれることもある、ヘッドホンに内蔵するマイクで外の環境音を取り込む機能ですが、AirPods MaxはイヤホンのAirPods Proと同様に、環境音がとてもクリアに取り込めるところに魅力があります。環境音とミックスされて聴こえる音楽も雑味がなく、輪郭も鮮やかなのでリスニング感も実に心地よいと思います。ふたつの音が自然に聴こえると長時間の使用も負担に感じません。AirPods Maxは屋外での音楽再生に限らず、自宅でのリモートワークの際にビデオカンファレンスの音声モニタリング用ヘッドホンとして期待に添う活躍をしてくれるでしょう。

どんな種類の音楽にもマッチするサウンドバランス

気になるサウンドは、まず最初にiPhone 12 Pro MaxをペアリングしてApple Musicの楽曲再生から試しました。

  • iPhone 12 Pro Maxに接続して、Apple Musicの音源を聴いてみました

特定の帯域を強調することなく、いろんなジャンルの音楽にマッチするニュートラルなバランスのサウンドに好感が持てました。解像度も高く、楽器の音色やボーカルの表情が分かる息継ぎの様子、ビブラートの抑揚感など、微細な情報を丁寧に拾い上げます。

マイケル・ジャクソンの名作『スリラー』では、ベースが刻むリズムの足取りがとてもタイトで軽やか。エレキギターのカッティングは粒立ちがとても小気味よく揃います。力強い張りのあるマイケルのボーカルは聴き応え抜群。ホーンセクションのハイトーンは余韻が華やか。コーラスとシンセサイザーのふくよかなハーモニーが漂う広々とした空間に、ハンドクラップなどさまざまなサウンドエフェクトが幾層にも重なりながら、重厚で見晴らしの良いアンサンブルを浮かび上がらせます。

「空間オーディオ」の世界に果てしなくのめり込む

続いて、第4世代のiPad Airにペアリングして、AirPods Maxとの組み合わせにより楽しめる「空間オーディオ」の実力を体験してみます。

  • 空間オーディオに対応する映像コンテンツの鑑賞にはiPadがおすすめ

空間オーディオについては、AirPods Maxの「オーディオライターも感心、AirPods Max“4つの注目ポイント”」でも触れていますが、Apple TV+アプリで再生可能な5.1ch/7.1chのサラウンド、またはDolby Atmosの音声を収録するアップルオリジナルの配信コンテンツ、またはiTunes Storeで購入・レンタルできるコンテンツが対応しています。

アップルオリジナル作品『グレイハウンド』は、第二次世界大戦中のアメリカとドイツの海軍による洋上戦をリアルに描いた大作です。荒波を切り裂きながら進む駆逐艦・グレイハウンドと独軍Uボートの対決シーンでは、腹の底を突くような機雷の激しい爆音と、細かい波飛沫の音がどちらもリアルに描かれます。

頭のまわりを無数の砲弾が飛び交うシーンの緊張感には、思わず手に汗を握ってしまいました。船員に指令を送るクラウス艦長の声が中央にしっかりと定位して、さまざまな人の声や弾丸が放たれる効果音に四方八方をぐるりと取り囲まれます。ヘッドホンを装着した顔の向きを変えると、片方の耳から船長の怒号が聞こえてきます。まるでグレイハウンドの乗組員になったような、生々しい没入感を楽しみ尽くしました。

空間オーディオによるコンテンツ再生はワイヤレスイヤホンのAirPods Proでも楽しむことができますが、比べてしまうとAirPods Maxのサウンドの方が格段にパワフルなので、より深くコンテンツの世界に入り込むことができると思います。

iTunes Storeでオンデマンド配信されているコンテンツを含めると、空間オーディオが楽しめるコンテンツは驚くほどたくさんあります。一昨年映画館で見て興奮した『ボヘミアン・ラプソディ』、終盤のウェンブリー・スタジアムでのライブ映像は、AirPods MaxとiPad Airの組み合わせによる空間オーディオ再生で楽しむと、またひと味違う感動が味わえます。『スター・ウォーズ』の関連作品も、空間オーディオにとてもよくマッチすると思います。

  • iTunes Storeで配信されているコンテンツの中にも、空間オーディオが楽しめるものが数多くあります。コンテンツの詳細から「言語」の箇所に記載されている情報を参照して、音声トラックがDolby Atmos/7.1ch/5.1chのコンテンツであることを確認しましょう

機能性も考えたプレミアムなデザイン

空間オーディオにハマってしまい、筆者も今回はAirPods Maxをレビューする仕事であることを思わず忘れて映画をまるごと1本観たり、優雅な週末を過ごしてしまいました。ここで特筆したいことは、1~2時間前後の映画鑑賞の間もAirPods Maxは全然装着の負担感を感じないヘッドホンだったことです。

決め手は、クッションの柔らかいイヤーパッドと、左右が独立して回転するイヤーカップ、自在に伸縮するアームにより、ユーザーの頭の形に最適なフィット感に調整できる機構がAirPods Maxに採用されていることです。

  • クッション性の高いイヤーパッドが長時間装着時の負担を和らげます

アルミニウムやステンレススチールなどメタル素材を贅沢に使ったヘッドホンですが、通気性の良いメッシュ形状のキャノピー(頭頂部分のヘッドバンド)が頭にかかる負担を均等に散らして和らげてくれるので、身に着けるとヘッドホンの重さはほとんど感じません。とはいえ、ヘッドホンの装着感は試す人それぞれに好みが分かれるところなので、Apple Storeの展示機などで試着してみることをおすすめします。

  • 筆者も、実物のAirPods Maxは想像していたよりもずっと質感が高いヘッドホンだと感じました

  • 独特なデザインの専用ケース「Smart Case」が付属します

iPhoneやiPadとシンプルにBluetoothで接続するだけで、とても手軽に迫力のサラウンドとヘッドトラッキング再生が楽しめる「空間オーディオ」に代表されるように、AirPods Maxにはほかのワイヤレスヘッドホンにはない独自の魅力が盛りだくさんに揃っています。iPhoneとのスムーズな連携、コンピュテーショナルオーディオにより常時ベストコンディションで楽しめるサウンドなど、唯一無二と言える価値を数多く揃えているAirPods Maxは、使い込むほどにユーザーを満足させてくれるヘッドホンになると思います。まずは、ぜひ実機に触れて試してみてください。