スターシップとは?

スターシップは直径9m、全長50mという巨体を特徴とし、同じく巨大なロケット「スーパー・ヘヴィ」で打ち上げることで、地球低軌道に100人の人間と生活に必要な物資など、合わせて100t以上の打ち上げ能力を発揮する。スーパー・ヘヴィと組み合わせた際の全長は120mにもなり、実現すれば史上最大、最強のロケットになる。

また、先に打ち上げたスターシップに対し、あとから打ち上げた推進剤補給船「タンカー」をドッキングさせ、地球周回軌道上で推進剤の補給を受けることで、月や火星にも同じく100t以上を送り込むことができるとされる。

機体の構造には特殊なステンレスを使い、高い耐久性や耐熱性をもたせている。その銀色に輝く姿と、降下時に使う翼を装備していることも相まって、昔のSF小説に出てきたような、レトロ・フューチャーな宇宙船とも呼ばれる。

さらにロケット・エンジンのラプターは、経済性や入手性に優れたメタンと液体酸素を推進剤とし、エンジン構造も高い効率やメンテナンス性を発揮できる仕組みを採用している。

その結果、スターシップもスーパー・ヘヴィも、機体を何回も繰り返し再使用できるようになっており、打ち上げコストは現在の大型ロケットの約100分の1、およそ200万ドルになるという。

また、シミュレーションと、実機を使った実際の飛行試験とをうまく組み合わせ、そして試験と改修を繰り返しながら迅速に開発を進めるという、宇宙開発にとっては新しい開発手法を採用しており、早期に完成させることを目指している。

スペースXではスターシップを、最大の目的である月や火星への移住のほか、宇宙旅行や、既存のロケットに代わってさまざまな人工衛星の打ち上げにも使うことを考えている。とくにスターシップは機体が大きいため、搭載できる衛星のサイズも大きくできることから、従来では考えられなかったような巨大な大質量衛星や、大きなアンテナをもった衛星などの打ち上げも可能になる。さらに、大陸間を結ぶ極超音速旅客機として活用することも見込まれている。

仮にこのスペックのまま実現すれば、過去のどんなロケットをもあらゆる点で凌駕し、宇宙開発のあり方、やり方を根底から覆す、まさにゲーム・チェンジャーとなりうる。

  • スターシップ

    スーパー・ヘヴィによって打ち上げられるスターシップの想像図 (C) SpaceX

来年にも無人で地球周回軌道へ打ち上げか

スペースXは今後、スターシップと並行して、スーパー・ヘヴィの開発や飛行試験も進め、早ければ2021年にも無人で地球周回軌道へ打ち上げることを計画している。

さらに2023年ごろには、実業家でZOZO創業者である前澤友作氏と複数人のアーティストを乗せた、月への飛行も計画されている。

前澤氏は今回のSN8の飛行に際して、「僕が月まで行く際に乗る予定のロケット」と紹介したうえで、着陸に失敗したことについては「ま、まだテストですからっ」と冗談めかしたコメントを寄せている。

なお前澤氏の関係者によると、月飛行のための運賃に関しては、今回の試験のような開発の大きなマイルストーンをクリアするごとに、スペースXに対して徐々に支払っていく、いわば成功報酬のような形になっているとし、今回の試験に関してもほぼ成功したことから、一部の支払いが行われるものとみられる。

さらに、米国航空宇宙局(NASA)もスターシップに期待を寄せている。現在NASAが進めている有人月探査計画「アルテミス」では、有人月着陸船の開発を民間が担うことになっており、NASAは今年5月、その開発業者の候補として、ブルー・オリジンとダイネティクスとともに、スペースXのスターシップを選定。2024年のアルテミスIIIミッションにおける有人月着陸の実現に向け、開発を行っている。

アルテミス計画用のスターシップは、月周回軌道と月面の往復、月面への着陸に特化するため、着陸用の小型エンジンを追加したり、逆に大気のない月では不要な翼を取り外したりなど、設計が変更されているものの、スターシップの最大の特徴である巨大な機体はそのままであり、他社の提案に比べ、はるかに大量の人員や物資を運ぶことを可能としている。

今回のSN8の飛行について、NASAのトーマス・ザブーケン科学局長は「スペースXが成し遂げた偉業におめでとうと言いたいです。私はNASAの会議を途中で止めて、この打ち上げをみんなで見ていました。スターシップが他のロケットとは大きく異なるものであることを、深く理解することができました」とコメントしている。

  • スターシップ

    月に着陸するスターシップの想像図。翼が取り外されているなど改修が加えられているが、巨大な機体はそのままである。2024年のアルテミス計画における有人月着陸の着陸船として採用される可能性がある (C) SpaceX

マスク氏はまた、火星への飛行時期について、今月初めには「2年後には無人のスターシップを火星に送り込みたい。そして6年後、早ければ4年後には人類初の有人火星着陸を行いたい」と語っている。

2016年にスターシップの端緒となる計画が明らかになった際、マスク氏は「2020年から地球周回軌道への試験飛行を始め、2022年か2024年に火星への飛行を開始したい」と語っていた。

マスク氏のウォッチャーなら周知のとおり、マスク氏が話すロケットや宇宙船の打ち上げ日や開発計画などのスケジュールは、実際には遅れることが多く、しばしば揶揄を込めて「イーロン時間(Elon Time)」と呼ばれる。すなわち、マスク氏の言うスケジュールは現実の時間との"時差"が大きく、当てにならないという意味である。

しかし、地球周回軌道への打ち上げ時期は約1年の遅れが出てはいるものの、火星への飛行時期はまだ当初の予定どおりのままであり、あくまで現時点では、スターシップの開発は当初のイーロン時間と現実の時間とがほぼ一致した状態で進んでいる。

もっとも今後、スターシップより多い28基ものラプターを装備した、より複雑なスーパー・ヘヴィの開発と打ち上げや、おそらく最も難しいであろう大気圏再突入など、技術的にさらに高く険しいハードルが待ち受けている。開発が年単位で遅れればまだいいほうで、完成しない可能性もまだ残されている。

しかし、2016年の発表からわずか4年で、この前代未聞で無謀とさえ思えた巨大な宇宙船は、試作機が飛ぶ段階にまで至った。複雑なエンジンは正常に燃焼し、前例のない飛行方法も問題なく機能した。

たとえ時期は遅れたとしても完成するかもしれない。今回のSN8の飛行は、そんな未来に向けた大いなる希望を感じさせるものだった。

  • スターシップ

    火星に着陸したスターシップの想像図。早ければ数年のうちに、このような光景が現実になるかもしれない (C) SpaceX

参考文献

STARSHIP SN8 TAKES FLIGHT - SpaceX - Updates
SpaceX - Starship
Elon Muskさん (@elonmusk) / Twitter
From hops to hopes - Starship SN8 advances test program into the next phase - NASASpaceFlight.com
SpaceX - Updates