PC製品を主力とする富士通クライアントコンピューティング(FCCL)は、13.3型ノートPCとして世界最軽量となる「FMV LIFEBOOK UH」シリーズなど、意欲的な製品を市場に投入している。FCCLがレノボグループの一員となって、新たに事業を開始したのは2018年5月2日。FCCLの齋藤邦彰社長は、最初の会見で、新生FCCLがスタートした日を「Day1」とし、約3年後の「Day1000」で進化した姿を報告することを約束した。Day1000は2021年1月25日。この短期連載では、Day1から続くFCCLの歩みを振り返るとともに、Day1000に向けた挑戦を追っていく。

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富士通クライアントコンピューティング(以下、FCCL)は、2018年5月1日に新たなスタートを切った。2016年2月1日に富士通のPC事業を分社化したFCCLは、次の成長に向けて様々な可能性を検討するなかで、世界最大のPCメーカーであるレノボとの戦略的提携を決定。2018年5月1日付で、Lenovo Group Limited(レノボ・グループ・リミテッド)が51%を出資する一方、富士通が44%を、日本政策投資銀行が5%をそれぞれ出資。「FUJITSU」ブランドを維持しながら、レノボ傘下でPCビジネスを推進してきた。

FCCLでは、新生FCCLがスタートした2018年5月1日を「Day1」と呼び、同社・齋藤邦彰社長は「誓いの日」と表現。5月16日に行われた新生FCCLとして最初の記者会見では、「約3年後のDay1000を迎えたときに、あの日を境に、FCCLはさらに進化したと振り返ってもらえる日にしたい。さらなる進化をお伝えすることを約束したい」と宣言して見せた。

  • 2018年5月16日の「Day1」記者会見でスピーチするFCCLの齋藤邦彰社長

大きな節目である「Day1000」が、2021年1月25日にやってくる。果たして、FCCLはこの3年間で、どんな進化を遂げてきたのだろうか。

Day1000に向けて掲げた目標は大きく2つ

ひとつは、これまで取り組んできたPC事業をさらに進化させ、そこでFCCLならではの存在感を発揮するというものだ。PC事業の正常進化と表現できるだろう。

もうひとつは、これまでにない新たな領域において、FCCLの特長を生かす製品やサービスを投入するということ。日本で開発し、日本で生産し、日本でサービスを提供するという強みを生かしながら、新たなコンピューティングを実現することになる。

そして、この2つに共通しているのは、FCCLが掲げ続けてきた「人に寄り添ったコンピューティングを実現する」という点だ。最初の記者会見でも、齋藤社長は「すべての主語に『お客さま』を置き、お客さまのために何ができるのか。それを、従業員一丸となって考え、突き進んでいく」と語った。「人に寄り添う」ということが、FCCLの基本姿勢となる。

  • FCCLが1つの区切りと設定していたDay1000、齋藤社長の胸中は

Day1000まであとわずかとなり、FCCLの齋藤邦彰社長は改めてDay1を振り返る。

「Day1で宣言したのは、FCCLは新しい成長を遂げるということ。そして、新たな成長だけでなく、これまでの延長線上でも、きっちりとやるということも明確に打ち出した。

富士通クライアントコンピューティングは、『あらゆる人、あらゆる場所で発生する、あるいは必要とされるコンピューティングを、すべてまかなうことにより、お客さまの豊かなライフスタイルに貢献する』ことを目指している。

社名を、クライアントコンピュータではなく、クライアントコンピューティングとしているのは、単にPCをつくり、それを提供するメーカーではなく、コンピューティングの力によって、お客さまの役に立ち、世の中のイノベーションを引き起こす起点となることを目指しているからだ」(齋藤社長)

FCCLがDay1000で目指す姿は、PCメーカーとしての進化であるとともに、単なるPCメーカーから脱却し、製品、サービスを組み合わせたコンピューティングの力を提供することだったといっていい。

Day1000に向けて、FCCLはどんな進化を遂げてきたのか

まずは、PC事業の進化という観点で見てみよう。象徴的な取り組みといえるのが、13.3型ノートPCの領域において、世界最軽量の座を譲ることなく、進化を遂げてきたという点だ。

2017年1月に発表した「LIFEBOOK UH75/B1」は777gという軽量化を実現。ところが、他社が同じカテゴリのノートPCを769gで発売することを発表すると、わずか1カ月で「LIFEBOOK UH75/B1」の重量が761gになると発表。発売時点では、世界最軽量の座は譲らなかった。

  • 発表時は777gだったが、発売時には761gへと修正した13.3型ノートPC「LIFEBOOK UH75/B1」

そして、2018年11月に発表した「LIFEBOOK UH-X/C3」では698gを実現。2020年10月から出荷を開始した「LIFEBOOK UH-X/E3」では634gを達成し、他社の追随を許さない領域で世界最軽量の座を維持し続けている。

齋藤社長は「軽量化は、コンピューティングをより多くの場所で使ってもらうために欠かせない要素。世界最軽量の座は譲らないというエンジニアの強い思いが、これらの製品を実現した。いままでの延長線上においても、人に寄り添うということを、きちんとやってきた」と自信を見せ、「FCCLは、世界最軽量の座は、これからも絶対に譲らない」と意気込む。

軽量化と高性能を高い次元で両立するには、高い開発力、高い品質力、高い生産力、高いサポート力が求められる。それによってPCを進化させてきたのは、まさにFCCLの真骨頂といえるだろう。

このほかにも、PCの進化への取り組みはいくつもある。

国内初となる小学生向けに設計、開発したノートパソコン「LIFEBOOK LH」シリーズは、「じぶんパソコン」というキャッチフレーズで展開。落としても壊れない頑丈設計や、収納したり、持ち運んだりしやすいケースも用意した。

  • 回転液晶を備えたコンバーチブルタイプの14型2in1「LIFEBOOK LH55/C2」。ほかにクラムシェル型の「LIFEBOOK LH35/C2」がある

コロナ禍においては、「オンライン生活最適PC」というメッセージを発信し、テレワークに最適化したスペックを実現していることを訴求。他社の一般的なノートPCはマイクが2個であるのに対して、FCCLのノートPCは多くの機種で、ディスプレイ上部の左右に計4個のマイクを搭載している。これにより音声認識率が高く、オンライン会議時に声を拾いやすいなどの特徴を持つ。マイク、カメラ、スピーカーにこだわっていることから、音楽教室やダンス教室などのオンラインレッスンでも活用されるなど、コロナ禍の新たなニーズに対応することができた。

「ニューノーマルライフにおいて大切なのは、人と人のコミュニケーション。従来のPCは人とマシンの通信が中心だったが、リモートワークによって、マシンの先にある人と人のつながりがより重視されるようになった。

FCCLのPCに搭載されているマイクやスピーカーなどが、人と人とのコミュニケーションをしっかりと支えるスペックを持ち、新たな生活にあわせたPCを提供できた。これまで取り組んできたことが、人に寄り添うものになっていたことが証明できた」(齋藤社長)

  • 「オンライン生活最適PC」のロゴ

  • ノートPCの液晶ディスプレイ上部に4つのマイクを並べることで、集音能力をアップ

では、もうひとつの新たな領域への取り組みはどうだろうか。

ここであげられるのが「CFT(Computing for Tomorrow)」だ。新生FCCLがスタートする以前から開始していた新規事業創出プロジェクトであり、社長直下で特別予算を計上し、社員の柔軟なアイデアをもとに、将来の事業化に向けた取り組みを行ってきた。

成果のひとつが「Infini-Brain」である。Infini-Brainは、Day1の記者会見でコンセプトモデルを披露。ノートPCの生産拠点である島根富士通で2019年11月に開催したDay567では、店舗に設置したカメラの映像をリアルタイムで画像解析し、万引きなどの怪しい行動をAIが検知して、店員に知らせるといった具体的な用途をデモンストレーションして見せた。

  • エッジコンピュータ「Infini-Brain」

Infini-Brainは、こうした現場でのAI活用に最適化したエッジコンピュータだ。独自のブリッジコントローラ技術を採用し、CPUとGPUの双方向通信やGPU間の双方向通信を、シームレスに行えるようにしている。搭載された複数のGPUを使って、負荷を分散させたり、並列処理させたり、シーケンシャルに利用したりすることで、AIが必要とする処理能力にあわせたGPUのフレキシブルな利用と、性能と機能のスケーラビリティを実現できるのが特徴だ。FCCLならではの技術力を生かして開発された、新たなコンピューティングの提案といえる。これを本体として提供するだけでなく、モジュールとして提供することも視野に入れているようだ。

もうひとつの成果は、教育分野などで効果を発揮するエッジコンピュータ「ESPRIMO Edge Computing Edition」。ESPRIMO Edge Computing Editionは、教育現場の声を反映して開発した製品だ。教室内にESPRIMO Edge Computing Editionを設置しておけば、あらかじめサーバーからダウンロードしておいた教育コンテンツを、Wi-Fiなどのアクセスポイントを使って生徒のタブレットやPCへと簡単に配信できる機能を持つ。

  • ESPRIMO Edge Computing Edition

その際に、生徒40台のデバイスに対して均一にデータを配信したり、教員が使用する場合には教員用PCにネットワークリソースを割り当てたりといった、特別な制御も可能となっている。これも教育現場での声を反映し、FCCLの技術力を生かして実現したものだ。

Infini-Brain同様に、Day567の記者会見で進捗状況を説明。島根県の出雲市教育委員会とともに実証実験を開始していることを示したほか、神奈川県川崎市のFCCL本社でも、ESPRIMO Edge Computing Editionを社内の情報共有などに運用していることを明かしている。

このように、コンピューティングを活用した新たな取り組みの片鱗が見られているが、齋藤社長は「新たな成長については、Day1000での発表を期待してほしい」と語る。果たして、Day1000を迎える2021年1月25日に、FCCLはどんな姿を見せることになるのだろうか。