横浜市立大学(横浜市大)、東京大学(東大)、日本医療研究開発機構(AMED)の3者は10月21日、ヒトiPS細胞由来ミニ肝臓の製造に必要な3種類の細胞(肝臓細胞、血管内皮細胞、間葉系細胞)をヒトiPS細胞から分化誘導し、ミニ肝臓を培養するための最適な分化誘導法と「生物由来原料基準」に対応した臨床向け分化誘導用サプリメント「StemFit For Differentiation」の開発に成功したと共同で発表した。
同成果は、横浜市立大大学院医学研究科臓器再生医学の谷口英樹 特別契約教授(東大医科学研究所附属幹細胞治療研究センター再生医学分野 教授)、同・関根圭輔 客員准教授(東大医科学研究所附属幹細胞治療研究センター再生医学分野 客員研究員、国立がん研究センター独立ユニット長)と、味の素の研究者らによる共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。
再生医療に用いる細胞の製造には、安全性、安定性の観点から、ヒト以外の動物由来の物質を含まず、化学的に組成が明らかな培地の使用が、厚生労働省によって定められた生物由来原料基準(生原基)において望まれている。現在、共同研究チームは2013年に確立したミニ肝臓の作製技術の再生医療への応用を目指しており、安全なミニ肝臓を製造するための培地が必要だった。
研究チームはこれまで、ヒトiPS細胞の分化誘導条件の検討から、高い分化誘導効率と機能性を持ったミニ肝臓の作製に成功しているが、それらは研究用培地を用いた方法だった。ミニ肝臓とは、ヒトiPS細胞から分化誘導した肝内胚葉細胞と、血管内皮細胞、間葉系細胞を最適な比率で混ぜ合わせることで、in vitro培養条件下で自律的に創出した、肝臓の基となる立体的な肝芽のことだ。
未分化ヒトiPS細胞の培養用の生原基対応培地は、京都大学の山中教授らの研究チームによって開発されているが、ミニ肝臓の分化誘導用培地には生原基に対応しない成分が含まれていた。
そこで共同研究チームは今回、ミニ肝臓を作製する上で必要な肝臓細胞、血管内皮細胞、間葉系細胞をそれぞれ未分化ヒトiPS細胞から分化誘導するための生原基に対応した培地、ミニ肝臓を培養するための臨床用分化誘導法の開発と生原基に対応した培地の開発に挑んだ。
これまでに開発されたヒトiPS細胞由来ミニ肝臓に必要なすべての細胞を、ヒトiPS細胞から作製する分化誘導法を基に、肝臓細胞の分化誘導に必要な各ステップの培地と臨床向け分化誘導用サプリメントの検討が行われた。
その結果、全行程に必要な培地もしくはサプリメントが開発、もしくはすでに開発済みの培地の有効性が確認され、それらすべてを組み合わせて製造したミニ肝臓が生体内で肝機能を発揮することも示されたという。つまり、未分化なiPS細胞からミニ肝臓の作製に必要な肝臓細胞、血管内皮細胞、間葉系細胞の分化誘導、ミニ肝臓を培養するための分化誘導法の開発、さらに分化誘導用サプリメントの開発に成功したのである。
今回開発されたサプリメントは肝臓細胞などの内胚葉細胞のほか、血管、神経など、さまざまな細胞の分化誘導にも有効な生原基対応分化誘導用サプリメントとして、ヒトiPS細胞由来のさまざまな再生医療用細胞の製造における品質・有効性および安全性向上に貢献が期待されるとしている。
共同研究チームでは現在、AMED「再生医療実現拠点ネットワークプログラム」において、国立成育医療研究センターとともにヒトiPS細胞由来ミニ肝臓を用いた再生医療の実現へ向け、研究開発を進めているという。
今回の研究によって開発された分化誘導法および分化培地を用いることにより、品質・有効性および安全性を確保された、治験にも対応可能な臨床用ミニ肝臓の製造が可能となるとしている。
また、今回の研究を通して開発された臨床向け分化誘導用サプリメントは「StemFit For Differentiation」として味の素から販売中だ。ミニ肝臓だけでなく、ヒトiPS細胞を用いたほかの細胞・組織・臓器の製造工程における有用性が見込まれることから、ヒトiPS細胞を用いた再生医療応用の加速への貢献が期待されるとしている。