家電量販店のビックカメラを訪れると、売り場の雰囲気が変わったことに気づいた人もいるのではないでしょうか? すべての陳列棚の商品に「電子棚札」が用いられるようになったのです。2018年秋に池袋本店の一部売り場で採用して以来、2年弱かけて2020年8月末までに直営全店に導入したとのこと。電子棚札の導入で何が変わったのか、新宿西口店を取材しました。
値札替えの作業がなくなり、接客に多くの時間が割けるように
ビックカメラが採用した電子棚札は、電子ペーパーの技術を用いています。ネットワークでつながっており、本部で価格を変更したら即座に全国の店舗で同一商品の値札が更新される「ダイレクトプライジング」を可能にしています。
ビックカメラ新宿西口店でPCコーナーの主任を担当している市澤朋弥氏は、これによって仕事の効率が大幅に高まったといいます。「電子棚札の導入で、値札替えの作業がなくなりました。その分、接客の時間をより長くとれたり、商品の配置などの売り場の展開を工夫するのに、より多くのリソースを割くことが可能になりました」
棚札に紙を使っていた時代は、スタッフが持つ専用端末で棚に並ぶ商品のバーコードをひとつ一つ読み込んで、バックヤードで新しい値札を印刷してからそれぞれのサイズに切って、陳列棚に戻って手作業で差し替える…といった仕事を定期的に行う必要がありました。作業自体が大変なうえ、漏れやミスの発生を100%防ぐのが難しいといった課題がありました。そのような細かく大変なメンテナンスの作業から解放され、来店客の買い物の相談を受けるリソースが増えたというわけです。
電子棚札の導入で、オンラインショップ「ビックカメラ.com」を含む自社店舗間での価格差が生じる心配もなくなりました。ビックカメラでは、店舗の立地事情による価格差は作らない基本方針になっていますが、価格変更のタイムラグも仕組み上起きなくなりました。「ネットと店舗で価格が違うとなるとお客様の不信感にもつながるので、そういったことがなくなるのも大きいですね」(同社広報)
いまは、他店の価格もオンラインで簡単に比較できるため、近隣他店との大きな価格差は生じにくくなっています。10年前、20年前と違って、統一価格で展開することに支障はないとのこと。とはいえ、いまも価格交渉などはあり、そのあたりはある程度の範囲で臨機応変に対応しているそうです。
新型コロナで急増した取り置き需要で活躍
電子棚札の本格導入のタイミングで、偶然にも電子棚札が備えるある機能が需要の急増に活躍しました。商品の取り置き用の機能です。
電子棚札の左上にはLEDランプが内蔵されていて、客からの取り置き依頼が届くと点灯する仕組みになっています。指定された店舗にある該当製品の棚札が光るので、スタッフは正確にかつ迅速に商品を探してキープできるわけです。
「新型コロナの影響もあって、仕事の帰りなどに欲しい商品をサッと受け取ってなるべく早く帰りたい、と考えるお客様が増えています。当店は3階に専用カウンターを設け、取り置きを利用する人が増えているのですが、電子棚札のおかげで希望の商品がすぐ探せるようになったので助かっています」(市澤氏)
ビックカメラ渋谷東口店では、注文した商品を最短45分で届ける配達サービスを6月から9月の間に試験的に実施。このサービスでも電子棚札のLEDランプが使われ、店内での商品キープの効率化に役立ったといいます。将来、さらに多くの店舗で配達サービスが本格導入されれば、活躍の場がますます増えるかもしれません。
手持ちのスマホを用いたレビューチェック機能の利用拡大に期待
ビックカメラが利用者の活用拡大を期待しているのは「アプリでタッチ」機能といいます。
同店の電子棚札は、商品名と値段の上にレビューの平均評価値とレビューの件数が表示されています。オンラインショップのユーザーレビューの結果とリアルタイムで連動しており、棚札にNFC対応のスマホをかざせばオンラインショップの商品ページにアクセスすることも可能です。
売り場では、30~40代の女性を中心に利用者が増えているそう。「売り場でスマホをかざすのはごく普通の行為になっていますね。レビューを開いた記録はお客様の端末に残るので、店舗で購入を決定しなくても帰宅後などにゆっくり比較検討する際に役立ちます。使うほどに便利になっていくので、ぜひもっと広まってほしいですね」(市澤氏)
視覚的な差異化が今後の課題
最後に、導入後に気づいた点も尋ねました。課題に感じているのは、電子棚札に合わせた視覚的な工夫とのことです。
「値札のサイズやビジュアルがある程度固定されるので、画面の中だけでは特価品などの訴求がしにくいというのがありますね。現在は棚札を黄色く囲ったり、特価品の値札は紙で大きく印刷して強調したりしています。このあたりの表現や工夫をどうしていけばいいのかは、これから模索していく必要があると感じています」(同社広報)
電子棚札側に「最安値!」などのアイキャッチを盛り込む計画もあるとのこと。今後、さまざまなかたちで売り場の景色を彩りつつ、私たちの買い物の味方になってくれそうです。