夜間飛行の機内でプラネタリウムを鑑賞する――。そんなロマンティックな周遊企画が実施されました。フライト名は「Starlight Flight produced by MEGASTAR」。仕掛けたのは北九州空港に拠点を置く航空会社・スターフライヤーと、プラネタリウム投影機「メガスター」を手がける大平技研です。ツアーを密着取材してきました。

  • Starlight Flight produced by MEGASTAR

    スターフライヤー×大平技研によるプラネタリウム鑑賞ツアーが開催された

Starlight Flightにかける思い。“機内プラネタリウム”実現の道のりを聞く

今回の周遊企画は2020年10月17日に、北九州空港を発着するスターフライヤーのチャーター機で実現したもの。行き先を『満天の星空』としたこの特別便は、空港を19時ちょうどに発ち、九州~四国上空を約90分間飛行し、20時45分に空港に帰着するフライトプランで運航。その間、機内では大平技研のプラネタリウム投影機「MEGASTAR CLASS」計6台で満天の星空を上映する趣向でした。参加料金は1組6万円(1組は1人~3人)。

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    北九州空港ロビーの出発案内板にも19時発『満天の星空』行きチャーター便の情報が

フライトに先立ち、北九州空港にあるスターフライヤーの格納庫では、有料オプションを申し込んだ参加者向けのバックヤードツアー、フルフライトシミュレーター体験、ノベルティの販売などが実施されました。

スターフライヤー広報によると、今回のStarlight Flightには318組(757名)から申し込みがあり、約8倍という競争率の抽選を経て39組(96名)が当選。当日は北海道から沖縄(宮古島)まで、全国各地から参加者が集まったとのことでした。

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    有料オプションを申し込んだ参加者に開放されたスターフライヤーの格納庫。間近で見る飛行機は迫力があった

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    機体のジェットエンジンやタイヤなどを間近で見学できるバックヤードツアーが好評だった

その後、格納庫ではオープニングセレモニーが開催されました。登壇したスターフライヤーの白水政治社長は「コロナ禍で厳しい中ですが、少しでも皆さんに夢、希望、感動をお届けできれば幸いです」と開催に向けた思いを述べました。

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    スターフライヤーの白水政治(しろうず・まさはる)社長

ところでStarlight Flightは、どんな経緯で実現したのでしょう。きっかけは2019年にスターフライヤーが実施した社内向けアイデアコンテストにありました。そこで優勝したのが、入社4年目の川内丸夏希さん(ステーションコントロール課)が提案したプラネタリウムフライトだった、というわけです。

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    スターフライヤーの川内丸夏希さん(ステーションコントロール課)。プラネタリウムフライトは大学4年生の頃から温めていたアイデアだったという

この企画を実現させるため、スターフライヤーが協力を求めたのが大平技研でした。プラネタリウム・クリエーターで、大平技研 代表取締役を務める大平貴之氏は「Starlight Flightは、たった1人の女性のアイデアがもとになりました。そして大勢の人が知恵を出し合い、夢の輪がどんどん広がっていった。夢にチャレンジすることはすばらしいことです。これを世界に広がる夢に育てていけたら、と思っています」と話しました。

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    大平技研 代表取締役の大平貴之氏

ここで、技術的な話にも触れておきましょう。大平貴之氏が開発するプラネタリウム投影機はMEGASTARシリーズと呼ばれ、「天の川の微細な星の一粒一粒までもミクロン単位の点の集合体として再現し、星空の奥行まで表現できる」と世界的にも高く評価されています。

今回、機内で使われたのは「MEGASTAR CLASS」。大きさ190×240mm(直径×高さ)、重さ4kgと軽量でコンパクトながら、約100万個以上の星を投影可能なスペックを有しています。

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    MEGASTAR CLASS(2016年発売)。価格は税込143万円で、個人での購入やレンタルも可能

そのMEGASTAR CLASSを6台も使用するということで、「電力は大丈夫なのか」と心配になりますが、実は1台あたりの消費電力はノートPCの1台分と変わらないのだとか。つまり機内座席のAC電源を使って上映できるわけです。また、操作はスターフライヤーの社員が行っていました。大平氏によれば「MEGASTAR CLASSは、日本科学未来館で使われているような大きな投影機を小型化して扱いやすくしたモデルです。操作は簡単で、誰でも操作できます」とのこと。

※編注:日本科学未来館(東京・江東区)はMEGASTAR初の常設館。投影星数1,000万個の「MEGASTAR-II cosmos」を設置している

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    スターフライヤーの機長が、ベガ・デネブ・アルタイルからなる夏の大三角をモチーフに、イベント当日の航路を案内

スターフライヤー広報にも話を聞きました。6台のMEGASTAR CLASSは、普段は機内サービスに使っているカートに載せて運んだそう。本当に操縦は難しくないのか、などを含め苦労した点を尋ねると「旅客機の場合、たとえ夜の便でも機内を完全消灯することはありません。しかし今回はプラネタリウムということで完全消灯を実施します。そこで安全性を担保しながら、いかにカート上の機材を固定するか、また揺れ対策をどうするか。これまで前例がないことだったので工夫を重ねてきました」と話していました。

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    北九州空港で離陸を待つスターフライヤー機

フライト前に、大平氏に再び話を聞きました。普段のプラネタリウム上映との違いについて、大平氏は「通常であれば、複数のプラネタリウムの機材を同時に使うことはありません。同じ星座が複数、出現してしまうからです。しかし飛行機は細長い形状をしていますので、6台のMEGASTAR CLASSを使うことにしました。今回のプラネタリウムは、星空の忠実な再現というよりは、皆さんに星空に包まれてもらう、天井を星で埋め尽くす、ということに主眼を置いています」と説明していました。

ちなみに店舗、病院、博物館など、これまでさまざまな場所に展開してきたMEGASTAR CLASSですが、飛行機の中で使うのはこれが初めて。『高度1万mの機内におけるプラネタリウムの上映は世界初』とのフレコミです。

いよいよフライトへ! プラネタリウムと現実の星空を一度に味わう

さて、いよいよフライトの時間が迫ってきました。期待を胸に、搭乗ゲートに集まる参加者たち。グランドスタッフのアナウンスも「本日は北九州空港発、満天の星空行きStarlight Flightにご搭乗いただき、誠にありがとうございます。私はこの便を担当いたします、牡牛座の本田でございます」などと洒落ています。

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    搭乗ゲート1番から次々に搭乗していく参加者たち

搭乗橋(パッセンジャーボーディングブリッジ)から外をのぞくと、見送りのスタッフが大きく手を振っているのが見えました。フライトがとても温かい雰囲気に包まれています。

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    『星に願いを TAKE OFF』と書かれた電光掲示板と、懸命に手を振るスタッフの姿

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    カメラを向けると、サムズアップしたり手を振って応えてくれる機長と副操縦士

離陸後、高度1万2,000m上空の機内では、CA(キャビンアテンダント)と大平氏が星空にまつわる話を始めました。

CAは「本日は、もし飛行機の天井が透明だったなら、皆さんの頭上に広がっているはずの満天の星空を大平技研のプラネタリウムで再現します」。これを受けて、大平氏は「とある自衛隊のパイロットが、ブログで『夜間飛行のときすごい星空を見た』と書いていたんです。自衛隊機は天井が透明なんですね。これまではパイロットの特権だった夜の星空ですが、今夜は皆さんにも体験いただけます。この降るような星空を、最後までごゆっくりお楽しみください」と挨拶しました。

機体が安定し、シートベルト着用のサインが消えると、カートに載せられた6台のMEGASTAR CLASSが運ばれてきます。

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    プラネタリウム投影の準備に取りかかるCAたち

外の光を無くすため、窓の日除けを下ろします。そして星々が機内に映し出されると、客席から沸き起こる拍手と歓声。思わず息を呑むような、大迫力の星空が広がりました。

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    プラネタリウムの投影がスタート

CAによる天の川の成り立ちの説明、恒星と惑星、流れ星の話に続き、マイクを握った大平氏は宇宙の広さ、何十億年という星の寿命と比較したときの人間の命のはかなさ、といった方向性で話題を提供。それを聞いて「自分が抱えている悩み事なんてちっぽけだな……」と思えてくる筆者がいました。

続いて、今度は「窓の外の星空をご覧いただきます。窓の日除けを開けてください」という機長の声。副操縦士の操縦で左旋回、右旋回をする(機体を左右に15度ほど傾ける)と、窓の外に広がったのは現実世界のキレイな星空でした。

最後に、機長から参加者に対して感謝の言葉が贈られ、また「身内ごとで恐縮ですが」の前置きを挟んで川内丸さんにも謝意が伝えられたところで、一夜限りの天体ショーは幕を降ろしました。

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    参加者1人ひとりを出迎える川内丸さん

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    着陸後、外のスタッフが「おかえりなさい」の幕で再びお出迎え

参加者からは「とても幻想的で、非日常を味わえました」「まるで宝石箱の中を飛んでいるようでした」「星空をリアルに再現できていて驚きました」といった感想のほか、「社員の方の熱い思いが伝わってきました」という声も聞かれました。皆さん、とても満足した表情でした。

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    参加者全員にお土産も用意。中身はスターフライヤーのトートバック、Starlight Flight produced by MEGASTARの搭乗証明書、川内丸さん手書きのメッセージカード、ペンなど

大盛況のStarlight Flight、第2弾もありそう?

大盛況に終わったStarlight Flightでしたが、第2弾の実施はあるのでしょうか。スターフライヤーの白水社長は記者団の問いかけに対して、今後も積極的に取り組んでいく姿勢を明らかにしました。

「今回の募集では、あっという間に満席になりました。ご希望にお応えできなかったお客様がたくさんいる。そこで今後、近いうちに第2弾、第3弾と、継続してやっていきたい気持ちがあります。東京発、福岡発のフライトもできたら良い。星空にも四季があるので、それなら春夏秋冬のシーズンごとに実施したら良いのでは、という話もしているところです。今日のイベントを迎えるにあたり、スタッフの表情はとても明るかった。こうしたことが会社の力になっていく。ほかの航空会社がやっていない取り組みも、うちだったらできるはず。今、そうしたことを一生懸命に考えています」(白水社長)。

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    囲み取材で回答する、スターフライヤーの白水社長

新入社員のすばらしいアイデアをどう実施するか。新型コロナウイルス感染症の影響が拡大する前から、スターフライヤーではStarlight Flightのプロジェクト実現に向けて動き出していたようです。「(飛行機の)稼働率が順調だったので、なかなか営業ラインに余裕がなかったのも事実。そんな折、コロナ感染で日本人が下を向きがちになった。そこでStarlight Flightには『空を見ていこうよ』というメッセージも込めました」(白水社長)。

幸い、ここ最近は国内の新型コロナウイルスの感染状況も落ち着いています。そして10月1日からは、東京も「Go Toトラベルキャンペーン」の対象になりました。この機運の中、スターフライヤーの業績も上向いてきたようで、白水社長は「これまで4割程度だった稼働率ですが、11月には8割程度まで戻せる見込みです」と強調していました。