5G以外のiPhone 12シリーズのポイントを見ていくと、「iPhone 12 mini」が加わって、「iPhone 12」「iPhone 12 Pro」「iPhone 12 Pro Max」の4モデルになった。基本性能は4モデルとも共通。モデル数が増えたという点ではラインナップが複雑になったが、各モデルの位置付けはiPhone 11シリーズよりも明確だ。

  • iPhone 12 mini: 手のひらサイズの小さな携帯が欲しい人
  • iPhone 12: iPhone 11より薄く軽量になり、万人にオススメできる良バランス。機能にこだわりがなく、どのiPhoneが良いか迷っているなら、コレ
  • iPhone 12 Pro:望遠撮影、AR機能や暗所撮影のピント合わせなどに力を発揮するLiDARスキャナ、512GBストレージ、Apple ProRAW、最大60fpsのDolby Vision対応HDRビデオ撮影、以上の機能が欲しいと思った人
  • iPhone 12 Pro Max:iPhone 12 Proのポイントに加えて、大きな画面のスマートフォン、大型カメラの域に踏み込んだ一段上のカメラが欲しい人
  • 左から「iPhone 12 Pro Max」「iPhone 12 Pro」「iPhone 12」「iPhone 12 mini」

miniの追加に加えて、これまで主にディスプレイサイズの違いしかなかったProモデルに、カメラの機能・性能の違いを与えたのが今回のラインナップの注目点と言える。iPhone 12 Pro Maxは広角カメラがより大きなセンサーを搭載し、一眼レフなど大型カメラで使われるセンサーシフト方式の手ブレ補正機能を備える。大型スマートフォンは、大画面でゲーミング向けや小型タブレット代わりに使われることが多いが、大きな本体だからこそ実装できる機能を加え、「プロクリエイターのためのProモデル」と呼べるAppleらしい大型スマートフォンに仕上げた。

  • シネマトグラファーのEmmanuel Lubezki氏、スマートフォンだけで映画を撮影・編集できるiPhone Proは、重いカメラでは不可能だった撮影を可能にし、世界中のクリエイターに映画に取り組むチャンスを広げると語った

7nmから5nmに製造プロセスが微細化したことで、A14プロセッサはトランジスタ数が40%増えて118億個になった。それをどのように利用するかがポイントになるが、イベントではCPUとGPUが「他のスマートフォンチップより最大50%高速」としていた。意地の悪い指摘をすると、CPU/GPUに関して「A13からxx%高速」という比較を示さなかった。察するに、A14ではCPU/GPUの処理性能の向上が抑えられた可能性が高い。

だからといって、SoCの性能が向上していないのかというと、そうではない。機械学習性能については、A13との比較で「機械学習モデルの処理速度が80%向上した」としていた。画像や音声・言語、物体などの認識処理、画像・映像処理、学習結果からの予測などに使われる「Neural Engine」がA14では劇的に強化されている。今後レビューでCPU/GPUのベンチマーク結果から「意外と向上していない」と指摘されるかもしれないが、A14の効果は下のようなスマートフォンのモダンな体験に現れる。

  • 「スマートHDR 3」、機械学習によってシーンを理解し、岩のディテールを表現、空の部分で色合い、コントラスト、ノイズの調整を行って精細で深みのある写真に仕上げている

  • 露出が異なる複数のフレームが持つ全てのピクセルをリアルタイムで分析し、最良のシャープネス、カラー、輝度になるようにピクセル単位で選択・処理する「Deep Fusion」

  • 医療用機器を開発・製造するMedtronicは、ARプレゼンテーションを提供するJigSpaceのLiDARスキャナを用いたARソリューションで、これまで数週間をかけていた医療用デバイス製造設備のセットアップを数時間に短縮、90%を超えるコストを削減した

ワイヤレス充電に、マグネットを用いた「MagSafe」が導入された。ワイヤレス充電は、ちゃんと置いたつもりがズレていて充電されていなかったりする。MagSafeはマグネットでワイヤレス接続を適切な位置に固定し、安定した15W充電を可能にする。

  • マグネットで簡単に着脱できるMagSafe対応のケースとMagSafe充電器

MagSafeには周辺機器メーカーにライセンスするプログラムも用意され、イベントではBelkinが手がけているカーマウントやマルチ充電ドックが紹介された。充電以外にも、アクセサリを簡単に着脱できるソリューションとして周辺機器メーカーのニーズをつかむ仕組みになりそうだ。イベント視聴者の反応を見ていると、PopSocketsやスマートフォンジンバルなど様々なアクセサリに対応を希望する声が次々に上がっていた。クリップや粘着シートの使いづらさにユーザーは不満を抱いていて、MagSafeはそれを解決する方法を周辺機器メーカーにもたらし、Appleにはライセンス収入を生む。良循環のエコシステムに成長しそうだ。

  • Belkinが開発しているMagSafe対応のカーマウント「MagSafe Car Vent Mount PRO」(39.99ドル)

iPhone 12シリーズには電源アプダーとヘッドホンが同梱されない。Apple製品ユーザーはすでに7億本以上のLightningヘッドフォンを所有していて、電源アダプターは20億個以上も存在する。必要なら別途購入しなければならない負担を強いるが、不要になるかもしれないアクセサリを全てのiPhoneに同梱する資源の無駄を削減し、カーボン排出を抑えられることの方が大きい。製品の箱が小さくなり、出荷用のパレットはこれまでより最大70%多く積み込めるようになる。それによって年間200万トン、45万台の車に相当する量のカーボンを削減できるそうだ。

  • 太陽光パネルが敷きつめられたApple Parkのルーフから、Appleの環境の取り組みについて説明するLisa Jackson氏。「命綱とか付けなくてもルーフに立てるんだ」という話題も広がった

一昨年、欧州議会でスマートフォンなどモバイル機器の充電器の共通化に向けた厳格な取り組みを求める決議が可決された。「iPhoneもUSB-Cに」と話題になったが、議論のポイントは廃棄物の削減である。電源ポート規格の共通化はその手段の1つになり得るが、今回の同梱を止めることもまた、欧州議会が求める廃棄物の削減に適う。

電源アダプターを同梱せず、ユーザーが充電方法を選ぶようになったらワイヤレス充電を選択するユーザーが今よりも増えるだろう。5Gのメリットの1つとして、Cook氏がパブリックWi-Fiに接続する必要がなくなる安全性とスピードの向上を挙げていたが、ワイヤレス充電の利用者が増え、高速な5G接続が普及したら、LightningポートがないポートレスのiPhoneがいよいよ現実味を帯びてくる。