国立天文台は10月1日、アルマ望遠鏡を運営する合同アルマ観測所が、赤色巨星から吹き出すガスである「恒星風」を高解像度で撮影し、どれひとつ同じ構造のものがないこと、そしてガスが球対称には吹き出していないこと、さらにガスの構造は見えない小型の伴星や巨大惑星の重力が決めていることを発表した。

同成果は、ベルギーのルーベン・カトリック大学のリーン・デシーン氏らの国際共同研究チームによるもの。年老いた恒星の物理と化学を研究するATOMIUM(ALMA Tracing the Origins of Molecular In dUst-forming oxygen-rich M-type stars)プロジェクトの一環として行われた。詳細は、米科学雑誌「Science」に掲載された。

恒星はその寿命が終わりに近づくと、燃料である水素が減って核融合が不安定になり、その結果重力による収縮と核融合により膨張しようとする力の均衡が不安定となり、表面が大きく膨張して表面温度も下がり、赤色巨星となる。太陽も約50億年後には赤色巨星となり、地球は飲み込まれるかギリギリ助かるかの瀬戸際の運命といわれている。

赤色巨星になると、表面からは恒星風と呼ばれるガスが流れ出すようになる。赤色巨星は自らを痩せ衰えさせながらガスを宇宙へと広げていき、美しく照らし出された惑星状星雲を作るのである。惑星状星雲は研究対象となっているだけでなく、“宇宙の絶景”として天文ファンの目も楽しませている。

恒星風はこれまでの観測から、ガスの広がり方からすると、約8割の恒星が球対称に恒星風を吹き出し、残りの2割は非対称な形をしているとされてきた。ただし、赤色巨星近傍の恒星風の詳細な構造は観測できていないこと、また惑星状星雲の形状は同じものはひとつもないといえるほど非常に多彩であることから、その複雑な構造がどのように形作られていくのかは、これまでわかっていなかった。

デシーン氏らの国際共同研究チームは今回、恒星風を吹き出している14個の赤色巨星を、アルマ望遠鏡ならではの高解像度でもって観測した。これまで、恒星近傍のガスの動きを観測することは困難だったが、アルマ望遠鏡の“視力6000”に相当する性能の高さが観測を実現した。

天体による構造の違いを比較するため、統一的なデータ解析が実施された結果、今回観測された赤色巨星の恒星風はすべて球対称ではないことが判明。そのうちのいくつかは、惑星状星雲の形にすでに似ていることもわかった。赤色巨星からの恒星風と惑星状星雲の形状が似ていることは、これらが共通のメカニズムで作られることが示唆されたのである。

国際共同研究チームは今回観測された恒星風の構造を、「円盤型」、「渦巻き型」、「円錐型」の3種類に分類。3種類に分類が可能ということは、恒星風の構造がランダムに作られているわけではないという証拠となる。また、赤色巨星のガス放出率によって、形状が異なることも見出された。ガス放出率が大きい場合には渦巻き型になることが多く、小さい場合は円盤型になりやすいようである。

球対称ではない形状の恒星風ができる理由は、その赤色巨星の周囲を低質量の伴星や重力の強い巨大惑星が公転しているということが考えられるという。低質量の伴星が自らは光らない恒星と惑星の中間的存在の褐色矮星であれば、検出するのは困難だ。また木星クラスの巨大惑星であっても、自ら光を放っているわけではないため、やはり発見は困難である。そうした見えないが強い重力を持つ伴星や巨大惑星の影響で、恒星風の形が乱される可能性があるとした。

褐色矮星や木星クラスの巨大惑星などの強い重力を持つ天体であれば、赤色巨星からのガスを吸い込み、または放出される方向を変えることができる。そして、それら伴天体が赤色巨星の周囲を公転することで、恒星風の構造が作られていくことが考えられるとした。国際共同研究チームは理論モデルを用いて、恒星風の形状が伴天体の影響で形作られると説明することにも成功している。赤色巨星とその見えない伴星や巨大惑星との間隔が、どれだけあるかという点も恒星風の形状に大きな影響を与えるとしている。これらの観測データと理論モデルを組み合わせた結果、ガス放出率と伴天体との距離の違いによって、恒星風の形状が進化するという統一的なモデルが完成した。

これまで恒星進化の理論計算は、赤色巨星が球対称に恒星風を吹き出すという考えの基に行われてきた。今回の成果により、それが大きく変わる可能性があるという。これまでは、恒星風の構造の複雑さはあまり考慮に入れられていなかった。それ故、恒星風による質量放出率の推定は最大で10倍ほど間違っていた可能性があるとしている。

また国際共同研究チームは、太陽が最期を迎えて惑星状星雲が形作られるときに、どのような姿となるかについても今回の成果から推察。太陽系の場合、鍵を握るのは重力の強い木星と土星だ。国際共同研究チームの予測では、淡い渦巻き型になるだろうとしている。

今回の成果を受け、国際共同研究チームは今後も、恒星風の構造が恒星や銀河の進化にどのように影響を与えるのかについての研究を続けていく予定とした。

  • アルマ望遠鏡

    アルマ望遠鏡を用いて撮影された赤色巨星たち(画像は観測された14個のうちの12個)。星から吹き出すガスに含まれる一酸化炭素分子の出す波長で撮影されたもので、その分布が表示されており、どれひとつとして同じもののない多彩な構造が見て取れる。地球に向かってくる方向に動いているガスは青色に、逆に遠ざかる方向に動いているガスは赤色に着色されている。(c) L. Decin, ESO/ALMA (出所:アルマ望遠鏡Webサイト)