Netflix独自の実写・アニメ制作をさらに強化
Netflixはすでにあるドラマやアニメなどの作品を配信するだけでなく、クオリティの高いオリジナル作品をクリエイターと組んで手がけていけるよう、スタジオ機能の内製化・ローカル化を加速。これまで100カ国以上で作品を制作しており、2020年にはアフリカからの作品も配信しています。
グローバルでこうした取り組みを進めていく方針で、日本のオリジナル作品についても、具体的な作品名には触れませんでしたが、「2022年末までに15作品以上配信予定」であることを明らかにしました。
作品作りは、実写もアニメも時間がかかります。構想から世に出るまで約3年近くかかるそうで、「5年前の(Netflixの)立ち上げ当初は『(オリジナル作品を)作る』よりも『配信の権利を預かる』という戦略でした」(坂本氏)。
坂本氏によると、ここ数年はアニメ作品の制作に関しては中長期的に、かつ自由度高く、制作会社やクリエイターと取り組めるよう、包括的な契約を結ぶことが増えているそうです。
一方、実写に関しては「Netflixは今、第二のステップにいると考えています。立ち上げ当初には難しかった『作る』ということに当たり、多くの日本のクリエイターたちと議論をしながら、日本の視聴者が観たことのない作品を届けるにはどうすればいいのか追求し続けています。Netflixはこれからも作品作りに寄り添い、日本でもっと自由な作品作りを目指します」と話しました。
日本の作品は日本だけでなく海外のファンにも人気があり、『泣きたい私は猫をかぶる』は世界30カ国以上で映画TOP10入りを果たし、アニメシリーズ『バキ』は世界約50カ国で総合TOP10入りしているそうです。また、「アジア各国でも強い反響をいただいた」という『全裸監督』のシーズン2については、2021年の配信に向けて現在制作中とのこと。
ところで、Netflixはこれまでサービス上でいわゆる「視聴ランキング」や視聴数といった、作品の人気度合いが分かるような表示をしていませんでした。しかし、2020年上半期から「TOP10」というかたちで表示されるようになっています。
現在は人気のアニメ作品や韓国ドラマなどが上位にランクインすることが多く、本数としても「実写より(アニメを)作っていることは確か」(坂本氏)とのことですが、後述の『今際の国のアリス』も含めて、今後は実写作品にも力を入れ、2021年は実写の撮影本数がかなり増えていくそうです。
佐藤監督が語るNetflixの作品作り、「エンタメの真髄を話し合う」
説明会の後半にはゲストスピーカーとして、2020年冬にNetflixで全世界独占配信予定の実写作品『今際の国のアリス』を手がけた佐藤信介監督が登場しました。
『今際(いまわ)の国のアリス』は、週刊少年サンデーS(2010〜2015年)と、週刊少年サンデー(2015〜2016年)にて連載された、麻生羽呂(あそう・はろ)による全18巻のコミックスを原作とし、謎の世界“今際の国”で命を賭けた“げぇむ”に挑むキャラクターたちの姿を描く作品。俳優の山﨑賢人、土屋太鳳のダブル主演が決まっています。現在は配信に向けて「ポストプロダクション(最終的な色調整やVFX調整)の真っ只中」(坂本氏)とのこと。
坂本氏によると、Netflixは“ビジネス的な部分で求めるところ”もありつつ、「クリエイティブファースト」で作品作りの議論をするところに特徴があるそうですが、佐藤監督も『今際の国のアリス』の制作を通して、その感覚を肌で感じたようです。
Netflix作品に携わった感想として、佐藤監督は「今までも、どんな人が観ても新鮮で楽しめる作品を作ってきました。Netflixでは世界190カ国の方々に観ていただけることを念頭において、『どんな国の人にも、どんなシチュエーションで観ても楽しめる、“新しいものを観た”という感動が得られる作品にする』ということを、企画の出発点から常に話し合いながら作ってきたのがすごく新鮮でした」と語ります。こうした思いは、佐藤監督の頭の中には常にあるそうですが、「プロデューサーと一緒にそのことに真剣に向き合いながら作るのは、今まであるようでなかったこと」だったそうです。
「Netflixの作品作りでは、Netflixが持っているさまざまな視聴データに基づいて企画選びやキャスト選びなどが行われる」といったネット記事を事前に読んで知っていたという佐藤監督ですが、「実際に作品を作ってみて、一度もそういう話し合いはありませんでした。むしろ、『どうすればもっと面白いものが作れるか』、『どうすれば続きが見たい気持ちにさせられるか』という、エンターテインメントの真髄をずっと話し合ったんですね。データに基づいて『これはこういうものだからこうしよう』という話はほんとに一度もなく、言われていたイメージと、ぜんぜん違うなと思いました」と笑います。
「気分としては、すごく自由な気持ちで(作品を)作れました。本当に面白いものとは何だろうか、たとえば『ここで恋愛要素入れてみよう』とか余計なことを考えることなく、『面白くするために必要なら、あれを入れよう』という考え方ができました。作品作りには(予算などの)制約がありますが、一度(制約を)とっぱらって全部自由にやってみよう、という流れが持続でき、クリエイターの皆さんも自由を感じながら作業できたと思います」(佐藤監督)。
Netflix向けの作品制作にあたってこだわったポイントとして、佐藤監督は「劇場作品の解像度は2Kで作っていますが、今回は4Kで作っています。つまり劇場以上の画質クオリティを保たなければならないということで、撮影も4K対応の大きなカメラで撮りますし、CGのクオリティや細やかさも4Kのほうがより繊細になります。作品作りの出発点からそこが大きなハードルでしたが、時間をかけてクオリティを上げていきました」とコメント。
音響については5.1chで作られており、「5.1chで観ることが一番いい状態で観られるように作っています。劇場とほぼ同じか、それ以上のクオリティで作り、配信にかけようということで、1〜2年かけてやってきました」(佐藤監督)。
Netflixの作品制作への行き届いた配慮として、佐藤監督は「QC(クオリティチェック)」を挙げました。監督は以前ゲームの仕事をしたこともあるそうで、NetflixのQCの作業を「まるでゲームのバグ潰し(デバッグ)のようなことをやっていただくんですよ」と表現。「音のズレや(映像の撮影時の)フォーカスのズレをチェックし、意図的な演出であればOKだが、そうでない場合は撮り直すなど、チェック体制が敷かれています。こればっかりは、今までの映画作りの中ではなかなかなかったことだったのでカルチャーショックを受け、ものすごい取り組みだと驚きました」と振り返っていました。