大阪大学は、薄い板状のシリコン切粉をばらばらの状態で、薄く柔軟な黒鉛シートの間に包み込んだものをリチウムイオン電池の電極に用いることで、シリコン粒子が電極から剥がれ落ちにくくなるほか、リチウムイオンや電子がそれぞれのシリコン粒子に移動しやすくなり、その結果、充放電回数が増えても、充放電容量が減少しにくくなることを実証したことを発表した。300サイクル目の単位重量あたりの放電容量は、現在、主に利用されている黒鉛の理論容量の約3.4倍まで増加したという。
同成果は、同大学産業科学研究所の松本健俊 准教授らの研究チームによるもの。詳細は、9月8日から開催される2020年応用物理学会秋季講演会にて発表される予定だ。
シリコンは黒鉛の約10倍の放電容量を持つことから、リチウムイオン電池の次世代の高容量負極材料として研究されているものの、リチウムが出入りするときにシリコンの体積が約4倍ほど変化してしまい、電極から剥がれ落ちてしまうことが課題となっていた。シリコンを150nm以下の粒子にすれば、剥がれ落ちる前に十分に充放電することは可能だが、今度は製造コストが高くなってしまうことが課題となっていた。
研究チームは今回、シリコン切粉と黒鉛シートが、ともに2次元の形状を持つことに注目。リチウムイオン電池の正極の製造でも利用される溶媒中で一緒に分散させ、濾過するだけで黒鉛シートがシリコンを包んだ複合体を作成できることを見出した。
さらに黒鉛ではなく、部分的に剥離された膨張化黒鉛を原料とすることで、極薄の黒鉛シートをより短時間かつ高収率で得ることにも成功。実際、分散した黒鉛シートは無選別でそのまま利用可能なことも確かめられている。
また作成した電極も、安定した黒鉛シートでシリコンを包むことで、シリコンの剥離や凝集を抑えられ、リチウムイオンや電子の移動も改善。シリコン負極の寿命と容量の改善にもつながったとしている。
今回の成果は、低コスト・低環境負荷でシリコン負極を高容量化する可能性を実証したものとなる。松本准教授らによれば、シリコン太陽電池などによる自然エネルギー発電は、時間や天候に左右されるのが宿命だが、今回の成果を用いることで、その出力を平滑化するためのさまざまな蓄電システムへの応用が期待できるという。さらに、シリコン太陽電池の需要増加に伴い、シリコン切粉の発生量とリチウムイオン電池の需要がともに増加するため、効率の良い物質循環の実現も見込まれるとしている。