人体に害をおよぼさない紫外線でウイルスを不活化
ウシオ電機は8月26日、従来の殺菌用紫外線に比べて人の皮膚や目に対する安全性を高めた独自の波長222nmの紫外線を活用した殺菌技術「Care222(ケアツーツーツー)」を搭載した製品として、ウイルス抑制・除菌フィルタ付き遠紫外線222nmエキシマ「Care222 U3ユニット」を2020年9月1日より発売すると発表した。また、併せて東芝ライテックと、Care222の光源モジュールを搭載した紫外線除菌・ウイルス抑制装置や車載、一般照明器具の共同開発を行っていく業務提携契約を締結したことも発表した。
紫外線、特に波長280nm未満のUV-Cについては先行研究から新型コロナウイルスにも効果が期待されることが報告されるなど、ウイルスに対する不活化・殺菌性能に期待が集まっているが、従来の殺菌用紫外線は人体に有害であることから、有人環境下での使用は避ける必要があった。
ウシオ電機の開発したCare222は、遠紫外線である波長222nmをピーク波長としたエキシマランプに独自技術を用いた特殊フィルタを組み合わせることで、人体に有害とされる230nm以上の波長をカットすることで、人の皮膚や目に障害を起こさないとされる波長200~230nmの紫外線のみを任意照射することを可能としたもの。
先行研究として大学は研究機関と共同で、その安全性についての調査などが進められており、感染症学が専門の国際医療福祉大学の松本哲哉 教授(日本環境感染学会 副理事長)との細菌を対象とした検討なども行われており、同氏による製品化に対するアドバイスなどももらって開発が進められてきたという。
同社代表取締役社長の内藤宏治氏は、「ウシオ電機は長年、紫外線殺菌ソリューションを提供してきたが、これまでは年間100件程度の問い合わせであった。それがこの半年で2000を超す医療機関を中心とした国内外からの問い合わせがあり、紫外線殺菌に対する期待の高さが世界中で高まっていることを感じている」とし、人体に害を及ぼさないCare222で、さまざまな環境での殺菌ニーズに応えていきたいとする。
松本教授も期待を寄せる新型コロナウイルスに対する効果についてだが、4月にCare222の試作機を100台生産。国内外の研究機関と連携して検証を進めてきており、現在、良好な結果もでてきたとのことで、すでに研究論文についても学術誌が受理しており、近日中に公開される予定だとしている。
3ステップで適用範囲の拡大を目指す
ウシオ電機では、Care222の販売について、3段階での事業拡大を考えているという。ステップ1は照明機器や空調設備、昇降機への搭載に向け、ユニットでの販売のみならず、Care222の光源モジュールを機器メーカーに対してOEMで提供することなども進めていくとする。次のステップ2は、自動車を中心に、電車、航空機、船舶といった、いわゆるMaaS市場に向けた提供を進めていく。そしてステップ3が松本教授も期待する医療分野での活用だという。
今回の東芝ライテックとの協業はこのステップ1並びにステップ2を視野に入れたもの。内藤氏は「コンポーネントのウシオ電機と照明アプリケーションの販売力を持つ東芝ライテック。ともに光を軸に事業を展開している両社の特性を融合させることで、不特定多数の人が活用する公共交通機関などでの感染リスクの低減を光で実現することができるようになる」と両社が組むことのメリットを説明。今後は、MaaS向け紫外線殺菌装置の共同開発を進めていくとするほか、光源装置を提供することで、新たなコンセプトの商品やサービスの実現につなげていきたいとしている。
一方の東芝ライティングでは、2021年1月にダウンライトに近い商品を発売する予定としているほか、プロトタイプながら自動車の室内灯と組み合わせたものを開発しているとする。このほかにも、まだイメージ段階ながら、オフィス向けに天井埋め込み照明やカメラなどと組み合わせた使い方や、これまでにない利用として、ドローンに搭載し、自動的に人が居た場所にUVを照射するといったことなども考えられるとしている。
不活化性能はどの程度か?
Care222 U3ユニットの不活化性能だが、同社の検証では、99%のウイルス不活化に必要な時間はユニットから0.5m(照射面積約0.6m2)であれば20秒、一般的な住宅の天井高である2.5m(照射面積約13m2)であれば6.7分であったという。また、これ以上の高さであっても、動作モードを変更することで5m程度までであれば対応可能であるとしている。
またエキシマランプの寿命は3000時間としており、使い方次第だが、だいたい1~3年程度は使えるとの見方を示すほか、ランプはメンテナンスの際に交換することも可能だという。
なお、Care222 U3ユニットは代理店経由で販売され、1台あたり30万円(税別)を予定しているが、光源モジュールについてはOEM提供が前提のため、1台数万円程度(税別)としているものの、一般には流通はしないとのことである。
ウシオ電機としては、Care222事業で2022年度に最低100億円の売り上げを目指したいとしており、内藤氏も「現在、人間の環境衛生に対する考え方が大きく変わってきている。その変化する考え方にマッチする価値を提供できれば、その後もさらなる事業の成長が果たせると思っている。
ステップを踏むごとに、社会に貢献できる価値も拡大していく。そうなれば事業の規模も必然的に高まっていく」との見方を示すほか、東芝ライテック 取締役社長の平岡敏行氏も「事業目標は提携したばかりなので、確約したものを言えないが、需要が高い分野であるので、数年以内に100億円規模に育てば良いな、という思いがある。施設に設置するだけでも相当数になるが、これがモビリティに搭載されるということになれば、世界的な規模になるわけで、売り上げもそれに応じて増加していくことが期待される」とし、新たなアプリケーションの創出によって生み出される新市場に対する高い期待を示しており、さまざまな角度から、より早く、より良いものを生み出すために両社で協力していきたいとしている。