一方、すかいらーくホールディングスで公式SNSアカウントを活用したマーケティングを展開してきた吉田氏は、実際の運用事例から企業が公式SNSアカウントを運用する上で重視したいポイントについて解説した。

吉田氏によると、全国に3261店舗展開し、年間のべ4億人の来店者が集まるレストランチェーンであるすかいらーくグループでは、もともとテレビCMなどマスメディア広告を主に展開していたそうなのだが、店舗選びにおけるマインドシェアを高めることを目的にTwitterの活用を始めたのだという。

吉田氏はガスト、バーミヤン、ジョナサンをはじめ6つのTwitterアカウントの運用・企画を担い、2017年11月から運用しているガスト公式アカウントのフォロワーは約72万人を誇る。特に吉田氏は、キャラクター、アイドル、他の企業とのタイアップなどコンテンツ企画に特に力を入れてきたのだそうだ。

「SNSは、いわば封筒。その中にどんなコンテンツを入れていくかを注力して企画してきた」(吉田氏)

  • すかいらーくホールディングスで運用してきたTwitterアカウントを紹介する吉田氏

このようなSNSの運用で、担当者は大きな壁にぶち当たる。それが「効果検証=施策の定量評価」だ。吉田氏は、「企業のSNSをやったほうがいいのは明確」としながら、SNSでどれくらい売上が上がるのか、どれくらいブランド価値が上がるのかを評価するのは非常に難しいと指摘する。

「企業SNSは顧客とのコミュニケーションやクチコミの増幅、話題づくりなどマーケティング活動として重要だ。しかし、ブランディングや好感度だけでは社内の理解が得られにくく、他の施策と比較して売上が動いたとも言いにくい。効果の証明が難しく社内で予算や組織を作りにくい。数値化できないのでSNS担当者の評価がしにくい」(吉田氏)

そこで、吉田氏が提唱するのが、「理解できる数字で納得感のある効果試算の方程式を作ること」だ。つまり、直接的な効果を定量評価するのではなく、「さまざまな指標を組み合わせれば、SNSからこのような効果が生まれたと推測できる」という定量的な納得感を生み出し、その変数をKPIとしてSNS運用の目標にするのだ。

「ここで重要なのが概算力。少し強引でも効果を可視化してレポートすることが大切だ」(吉田氏)

では、具体的にはどのようにその方程式を作ればいいのだろうか。吉田氏は飲食業を例に説明した。飲食業の公式SNSにおけるゴールを「顧客が来店すること」と設定すると、下記のような方程式が成り立つという。

  • 来店客数見込み=SNS投稿のインプレッション数×来店率×純増率

このときの来店率は、バナー広告を見て来店した顧客の来店率をもとにしている。バナー広告とTwitter投稿の1インプレッションは同等とみなすのだ。この公式をもとにすれば、投稿のインプレッション数が伸びれば見込み来店客数も増加する。投稿のインプレッション数をKPIに設定することで、来店客数への貢献を可視化できるのだ。

そして、吉田氏はSNSの価値を可視化するためのアクションを次のようにまとめた。

1.自社の保有する数字から納得感のあるロジックを導き出し、効果の方程式を作る
2.方程式の変数をKPIに設定し、週ごと・月ごとに追いかける数字を決める
3.必ず実績を振り返り、KPIを見るだけではなく要因も深堀してナレッジを貯める
5.再現性と継続性を作る

この5つ目の「再現性と継続性を作る」は、PDCAを回しながら「KPIを動かせる投稿のパターン」を作っていくことを意味する。毎回斬新なコンテンツを作ることは担当者にとって大きな負担となる。そこで、実績をもとにした「型」をたくさん持ち、それをベースに中身だけを変えて出すことで効率化するのだ。

  • SNSの価値を可視化するためのポイント

これらのポイントをまとめた上で、吉田氏は「重要なのは数字を報告すること、数値化することが本来のゴールではないということ。経営陣にSNSの価値を伝えて信頼を得て、任せてもらって、一方でSNSらしい企画に挑戦していくことが非常に重要ではないか」と提起した。