6月に開催されたWWDCでは、次期macOSやiOSなどのさまざまな情報が開示されたほか、Macが「Apple Silicon」こと、Apple製のARM系プロセッサに置き換わることが発表された。こうした発表から推測される、近い将来のApple製ガジェットの未来を想像してみた。

巨大なパラダイムシフトを引き起こすApple Silicon

今回のWWDCで最大の話題といえば、やはりキーノートの大半の時間を割いて紹介された「Apple Silicon」だろう。現在iPhoneやiPadに搭載されている「A」シリーズのプロセッサがMacにも搭載されることになり、すでに開発者向けには、iPad Proと同じ「Apple A12Z Bionic」プロセッサを搭載したMac miniが貸し出されている。写真撮影もベンチマークも禁止されているが、漏れ聞こえるところによると、演算性能はCore i5~i7プロセッサに匹敵するものがあるようだ。

  • デベロッパー向けに出荷されている移行キットはMac mini型ケースにA12Zを搭載している。このキットではThunderboltは未搭載で、Thunderbolt自体がIntel主導の規格なため心配する声も上がっていたが、AppleはARM MacでもThunderboltもサポートすることを表明している

Apple Siliconを搭載したMac(以下ARM Mac)は、今冬には最初の製品が登場するとのことで、ちょうど新型コロナの給付金で新しいMacに買い換えようと思っていた筆者にとっては非常に難しい買い時問題が突きつけられることになってしまったのだが、それはさておき、ARM Macの登場により、近い将来、「iPhone上でMac用アプリを使って働く」ことになると予想される。

だいぶ間をすっ飛ばした結論なので、順を追って解説しよう。現在、macOS Catalina用のアプリは、Mac専用の「App Kit」を使ったもの、iPhone/iPad用アプリをMac Catalystを使って移植した「UIKit」を使ったもの、「WebKit」を使ったウェブアプリ、そして「Metal」を使ったゲームの、4種類のアーキテクチャに別れている。次期macOS「Big Sur」では、このうち「UIKit」の部分が拡張され、Mac Catalystに対応していないアプリも動くようになる。

  • WWDCのセッションで示された、macOS用アプリがサポートする4つのアーキテクチャ。Big SurではUIKitが拡張され、Mac Catalyst以外のiOSアプリも動作するようになる

今後、macOS市場に乗り込みたいデベロッパーはアプリをMac Catalystに対応させていくだろう。これまではMacがインテル、iPhone/iPadがARMなので、別々のバイナリが必要だったが、ARM Macではバイナリも共通になり、OSに合わせて自動的にインターフェースが変わって動作する。

Mac上でiPhoneアプリが動くということは、見方を変えれば、iPhone上でMac用アプリが動いてもいいはずだ。インターフェースの違いを無視すれば、CPUの性能差はあるだろうが、遅くてもよければ大半のアプリは動くはずなのだ。ならば、iPhoneにもMacと同じUIを与えたらどうなるだろうか?

iOS 13から、iPhoneやiPadはアクセシビリティ機能のひとつとして、マウスを接続するとマウスカーソルが現れ、Macのようにマウスで操作できるようになっている

  • iPad OS 13では普通にBluetoothでマウスを接続するだけで認識し、Macとはちょっと異なる丸いマウスカーソルが表示される。余談だが、このカーソルの挙動もWWDCにおけるデベロッパー間の話題の一つだった(とてもよくできています)

ただし、iPadは物理的に大きく見やすいディスプレイを搭載しているからいいが、iPhoneは解像度こそ高いものの、小さなディスプレイしか搭載していないため、精密な操作は難しい。そこで、TVやディスプレイに繋いだときだけ、画面がMacのようになるモードを付けるのはどうだろう。たとえば出張先でプレゼンファイルを修正する場合、これまではスマートフォンの小さな画面での簡易的な作業で妥協するか、重いノートPCを持って行って作業する必要があった。しかし、将来はiPhoneをTVにつなぎ、キーボードとマウスを接続すると、おなじみのメニューバーを備えたデスクトップ(あるいはFinder)が表示され、その上のKeynote(またはPowerPoint)でファイルを編集できるようになる。ファイルはもともとiCloudで共有しているので、いつでもどこでも作業の続きを始められるわけだ。

ついでにハードウェア面を考えると、ケーブル1本でディスプレイとの接続と給電が済ませられるよう、この世代のiPhoneはLightningポートからUSB Type-Cポートに変わるはずだ。内部的にはThunderbolt 3(あるいはUSB 4を内包するThunderbolt 4)になっていてもおかしくはない。ほとんど極小サイズのMacBookといった感じの設計になるだろう。

こうなるとMacやiPadとの住み分けが気になるが、そこはアプリの同時表示数で分けられるだろう。iPhoneが全画面表示で1本のアプリしか操作できないのに対し、iPadで同時に2本、macOSなら無制限、と行った形になるだろう。また、macOSにはiOS側で動作させられないApp Kitを使ったアプリも残る。App Kit向けアプリは、ハードウェアに近い部分にアクセスできるなど、特定分野向けのアプリとして生き残ることになるだろう。iPadの存在もあり、ノート型Macの肩身は狭くなるが、オールインワンでパワフルな作業環境としてちゃんと生き残ると思われる。

  • iPhone、iPad、Macそれぞれの位置付けのイメージ。性能はもう少し差が小さいかもしれない。iPhone SEや第7世代iPadのように比較的安価なデバイスでノートPCと同等の性能で作業できるとなったら、かなりのインパクトになるのではないだろうか?

もうお気付きの方もいらっしゃるだろうが、これはかつてMicrosoftがWindows 10で目指していた「One Windows」構想のApple版だ。筆者は勝手に「One Apple」構想と名付けてもいる。One WindowsではUWPアプリ(いわゆるStoreアプリ)であれば、Windows PCでも、Windows 10 Mobileを搭載したスマートフォンでも動作し、そのスマートフォンはTVなどに繋ぐとデスクトップモードになる「Continuum」という機能があった

  • Windows 10 MobileのContinuumでは、ディスプレイに接続するとデスクトップが現れ、おなじみスタートメニューが表示されていた。MicrosoftはタブレットPCなどでARM向けWIndows 10も何度かチャレンジしているが、Windows NT以来Intel以外のCPUと相性が悪いのか、いまいち成果が出せていない

残念ながらContinuumはごく一部のWindows 10 Mobileスマホでしか利用できず、UWPアプリはなかなか普及せず、そもそもWindows 10 Mobileが幻のような代物だったので、試せた人はほとんどいないと思うが、発想そのものは決して悪くなかったと思っている。パクリというのは簡単だが、最近のAppleは、他人が滑ったバナナの皮の上を優雅に歩いてみせないと気が済まないという性分だし、OS屋はどこも互いにリスペクトしあっているのが現状なので問題ない。少なくともMacやiPhoneユーザーで文句をいう人はいないだろう。

One Apple構想が成功すると、世の中のコンピューティング環境のシェアも変わってくる可能性がある。PC向けOSで支配的なのはWindowsだが、モバイル系にはめっぽう弱い。モバイルの覇者はAndroidを擁するGoogleだが、提供するサービスのほとんどはWebアプリで、それは他社のOS(またはブラウザ)上で常にベストに動くとは言い切れない。Appleはモバイルもデスクトップもシェアは小さいものの、どちらの環境でもベストに動くソリューションを提供し得ることになる。ユーザーとしてどれが一番魅力的かと言われれば、Appleがかなりポイントを稼げるのではないだろうか。

いろいろ理屈を並べ立ててみたが、いずれもあくまで筆者の勝手な予想(妄想)だ。だがこれまでのAppleの動向を見る限り、この方向性自体はあまり大きく間違っていないと信じている。もし数年後にドヤ顔で筆者がこの記事に言及していたら「そんなこともあったねえ」と生暖かく思い出してほしい。