米国のロケット・ベンチャー、「レラティビティ・スペース(Relativity Space)」は2020年6月24日、衛星通信会社のイリジウムから、最大6回の打ち上げ契約を受注したと発表した。打ち上げは2023年以降の予定だという。

同社は、3Dプリンターを使ってロケットを丸ごと自動で製造することを目指した前例のない企業で、これまでに多額の資金調達や打ち上げの受注を獲得するなど、高い期待を集めている。

  • レラティビティ・スペース

    レラティビティ・スペースが開発する「テラン1」ロケットの想像図 (C) Relativity Space

レラティビティ・スペースとは?

レラティビティ・スペース(Relativity Space)は2015年、20代の若手エンジニアであるティム・エリス(Tim Ellis)氏とジョーダン・ヌーン(Jordan Noone)氏によって設立されたスタートアップ企業である。エリス氏はブルー・オリジンに、ヌーン氏もブルー・オリジンやスペースXに在籍した経験をもつ。

同社の最大の特徴は、ロケットの製造に3Dプリンターを使っていることにある。近年、ものづくりの現場で注目されている3Dプリンターは、宇宙分野にも導入されつつあるが、その多くは一部の部品のみに限られている。

しかし同社は、「スターゲイト(Stargate)」と名付けた巨大な3Dプリンターを使い、ロケットの約95%を造形。これにより、部品数を従来のロケットの約100分の1にするとともに、製造にかかる人員や工具も大幅に減らすことができ、低コスト化を図っている。また、品質向上も図れるとともに、製造にかかる時間も従来の約10分の1にまで短縮。同社は「原材料の状態から打ち上げができるまで、わずか60日しかかからない」と謳う。

同社のロケットは「テラン1(Terran 1)」と呼ばれ、高度185kmの地球低軌道に1250kg、高度500kmの太陽同期軌道に900kgの打ち上げ能力をもつ。打ち上げ能力の面では、アリアンスペースの「ヴェガ」やインドの「PSLV」、そして日本の「イプシロン」などに近い。

しかし圧倒的なのは打ち上げ価格で、ヴェガが約4000万ドル、PSLVが約2800万ドルとされるのに対し、テラン1は1200万ドルという、きわめて安価な価格を提示している。

打ち上げ場所はフロリダ州のケープ・カナベラル空軍ステーションの第16発射台のほか、後述のようにカリフォルニア州のヴァンデンバーグ空軍基地にも設けられる。

現在は、NASAの試験場などを借り、エンジン単体での試験などを行っている段階で、初飛行は2021年に、ケープ・カナベラルから行われる予定となっている。

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    レラティビティ・スペースのロケットを"造形"する3Dプリンター「スターゲイト」 (C) Relativity Space

最大の打ち上げ受注を獲得、新発射台の建設も

前例のない製造方法を採用し、テラン1もまだ打ち上げられていないにもかかわらず、レラティビティ・スペースはこれまでに、約1億8500万ドルの資金調達に成功。また、大手衛星通信会社のテレサット(Telesat)や、タイの衛星通信スタートアップのミュー・スペース(mu Space)などから、すでに打ち上げ受注を取り付けている。

そして今回、移動体衛星通信大手のイリジウム(Iridium)から打ち上げ受注を獲得した。打ち上げ数はオプション込みで最大6回とされ、同社が獲得した契約の中で最も大きい。契約額は明らかにされていない。

イリジウムは現在、「イリジウムNEXT」と呼ばれる衛星を運用し、衛星携帯電話やデータ通信サービスを展開している。イリジウムNEXTは、2017年から2019年にかけて、スペースXの「ファルコン9」ロケットを使い、8回の打ち上げで計75機が軌道上へ送られている。

イリジウムによると、コンステレーションを構築する際には1回の打ち上げで複数機を打ち上げたほうが効率がいいものの、今後これらの衛星が老朽化、故障し、予備機を打ち上げる場合には、衛星を1機ずつ、目的の軌道へ打ち上げる必要が生じる。そこにおいて、イリジウムNEXTを1機打ち上げるのに十分な性能をもっているうえに、低コストかつ、発注からわずか数か月で打ち上げられるテラン1の性能は魅力だったという。

打ち上げ予定の予備機は、すでに製造済みで、地上に保管されており、将来的に打ち上げる必要が生じれば、レラティビティ・スペースが即座にロケットを製造し、目的の軌道へ打ち上げを行うことになるとしている。

イリジウムが新興のロケット会社と契約を結ぶことは珍しいことではなく、スペースXとイリジウムNEXTの打ち上げ契約を結んだのも、同社がファルコン9の初打ち上げに成功した直後の、まだ信頼性が十分に確立されていないころだった。

また、レラティビティ・スペースは同日、イリジウム衛星ような極軌道への衛星打ち上げを可能にするため、カリフォルニア州にあるヴァンデンバーグ空軍基地に新しい発射台を建設する発表も明らかにした。

建設場所は、基地の南に位置するビルディング330と呼ばれる施設の近くで、かつて同基地からスペース・シャトルを打ち上げる計画があった際、そのための施設が建設されるも、計画が中止になったことで使われず、現在は空地になっている場所にあたる。

ヴァンデンバーグ空軍基地は南が開けており、イリジウムNEXTのような衛星のほか、地球観測衛星の打ち上げにも適している。同社ではケープ・カナヴェラル空軍ステーションと併用することで、さまざまな軌道に柔軟に打ち上げられるようにしたいとしている。

  • レラティビティ・スペース

    テラン1に使われる、イオン1エンジンの燃焼試験の様子 (C) Relativity Space

参考文献

Iridium Selects Relativity Space as On-Demand Single Satellite Launch Partner - Relativity Space
Relativity Space Expands Footprint Via Launch Site at Vandenberg Air Force Base - Relativity Space
Relativity Space - Relativity Space
Global Network | Iridium Satellite Communications
Relativity books up to six launches for Iridium, reveals plans for Vandenberg pad - Spaceflight Now