暑い日に清涼感を得る方法

2019年5月は真夏日を日本中の幅広い地点で記録し、2020年5月も夏日を超す日が出て、真夏日を記録する地点が早くも記録されるなど、年々暑さには悩まされることも増え、涼をとることへの意識も高くなってきているのではないでしょうか。

快適に過ごすための冷却グッズも続々と登場してきています。中でも皆さんがイメージしやすい清涼感をもたらすものといえば、コンビニなどで販売しているペーパー化粧品やデオドラントスプレーといった製品ではないでしょうか。

この製品のスーッとする爽快な感覚(冷感)は、ミントの主成分であるメントールなどの清涼成分が感じさせています。このミント、古くからその爽快感に着目した食文化が進んでおり、イメージしにくいかもしれませんが、ミントティーは暑い地域であるアラブやアフリカ、モロッコでよく飲む習慣があります。暑いのにミントティー? と思いますが、その清涼感が暑さを凌ぐのに心地いいのだとか。とはいえ、実はこのメントールには温度そのものを下げる効果はなく、サーモグラフィーで見ても表面的な温度は下がっていません。冷涼感はあくまで体感として感じるのです。今回はそのメカニズムに迫ります。

  • ミントティー

    ミントティーは暑い地域で爽快感を得るために長年に渡って愛飲されてきました

清涼感を感じる秘密は人間の冷感センサーにあり

体には温度刺激を感じ取る「TRPチャネル」というセンサーがあり、特に冷感センサーである「TRPM8」は約26℃以下で活性化する冷刺激受容体であります。

また、このTRPチャネルの特徴として、化学物質によっても活性化するため、例えばメントールはこのTRPM8を活性化し、実際には温度が下がっていなくても冷感センサーが反応するため涼しさを感じることができるのです。

  • TRPチャネル

    TRPチャネルは現在、さまざまなものが確認されています

このTRPM8の別の特徴として、メントールと冷刺激を同時に与えることで活性化温度しきい値が上昇します。つまり、冷風をより冷たく感じるのです。例えば、ミントタブレットを食べたときに息を吸うと、空気をとても冷たく感じます。また、アイスクリームにミントが乗っていることがありますが、アイスの冷たさを感じやすくするための工夫のひとつと言えます。

※ TRP=Transient Receptor Potential。様々な感覚受容に関与する陽イオンチャネルファミリーで、化学物質や温度などを感知して電気信号に変換するセンサー

メントールを増やせば清涼感は強まるのか?

  • ミント|

    ミントやハッカに含まれるメントールの量を増やすとどうなるのでしょう?

さて、清涼感のある化粧品にはメントールが配合されていることが多いですが、近年の猛暑に伴い強い清涼感を求める生活者が増えてきています。

では、メントールを増やせばそれだけ清涼感が得られるかというと、そう単純ではありません。メントールを増やすと人によっては冷たさを通り過ぎて痛みを感じてしまい、そのような化粧品を敬遠しがちになります。それは、メントールの量を増やすと、冷たい温度に反応する「TRPM8」だけでなく、不快な感覚を引き起こす「TRPA1」も反応してしまうからなのです。そこで、マンダムではこのTRPA1による不快刺激を低減させる成分の探索を実施し、見出したのがユーカリプトール、イソボルニルオキシエタノールです。ユーカリプトールはそれ自身にTRPM8を活性化させる作用があるため、不快刺激のない清涼感を与えることができ、メントールと併用すれば不快刺激を低減させるという機能を併せ持ちます。さらに、清涼成分というと特有のスーッとした香りを持つものが多い中、イソボルニルオキシエタノールは特有の香りが少なく、どんな化粧品にも配合しやすいという特徴があります。

マンダムでは、TRPチャネルを活用した清涼感研究を通じて、清涼成分とこれらの不快刺激低減作用を有する成分を活用することで、より快適な清涼感を実現する製品の可能性を広げることができました。

高石雅之(たかいしまさゆき)

マンダム 製品評価研究所
大阪大学大学院 薬学研究科先端化粧品科学(マンダム)共同研究講座

監修者

富永真琴(とみなが・まこと)
医学博士
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 生理学研究所 細胞生理研究部門
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 生命創成探究センター 温度生物学研究グループ 総合研究大学院大学 生理科学専攻 教授