AMDはRyzen Pro 4000 Mobileシリーズを発表した。Ryzen 3 3100/3300Xの詳細を公開したのと同じタイミングであるが、このRyzen Pro 4000 Mobileについても事前に説明があったので、これを元にご紹介したい。

端的に言えばRyzen Pro 4000 Mobileは、Ryzen 4000 Mobileシリーズのビジネス向けという位置づけである。これまでだと、Proシリーズはコンシューマ向けから1四半期遅れての投入となっていた。それを考えると、本来(というかこれまで)なら6月中旬に発表されるべき製品であった。これが2カ月弱で発表される(つまり1カ月以上の前倒し)というのは、それだけAMDがこのマーケットを切望している事の裏返しと考えて良いと思う。

ちょっと話はそれるが、2019年度通期のAMDの業績は売上67億3100万ドル、粗利43%/営業利益34%、純利益3億4100万ドルと、過去にない好成績である。が、その同じ時期のIntelの業績は売上719億6500万ドル、粗利58.6%/営業利益30.6%、純利益210億4800万ドルである。売上で10倍、純利益では70倍近い差があることになる。この高い売り上げと純利益の源泉の1つ目はServer向け製品(要するにXeonなど)だが、2つ目がMobile向け製品である。特にBusiness Clientと呼ばれる企業向けのPCの中でも、最近圧倒的に出荷台数の多いノートPCでのIntelの寡占ぶりは説明の必要もないほどだ。1つ目のサーバー向けについてはEPYCで切り崩しを始めている最中だが、これに続くMobile Business Client向けの武器がこのRyzen Pro 4000 Mobileということになる。

勿論、これを一朝一夕に逆転するという訳にはいかない。例えばIntelは今、14nmプロセスのFabとしてD1B/D1C/D1D/Fab12/Fab22/Fab24/Fab32の7つのFabが稼働している(いずれも300mmウェハ)。これだけ稼働していても14nm製品の不足が起きるのだから、それはそれで凄いのだが、まぁそれは措いておくとして。それぞれの拠点の生産能力は明らかにされていないが、TSMCのGIGAFABと同程度と仮定すると、月産2万~3万枚。7拠点で月産20万枚以上の300mmウェハを量産している計算になる。一方TSMCはすべてのプロセスを合計して、200mmウェハ換算で凡そ250万枚を製造していると報じられており、300mmウェハ換算だと月産110万枚ほどになる。が、この中で7nmの占める割合は1割以下であり、要するに10万枚ほどでしかない。おまけにこの10万枚をAppleやQualcomm、その他7nmプロセスを利用するメーカーとシェアする形になる訳で、要するに絶対的に提供できるウェハの数がIntelの10分の1以下に抑えられている訳だ。この構図を変えない限り売上で追いつくとか追い越すといった事は不可能であり、これはこれでまた異なる戦略が必要になる。ただ、追いつけないにしてもギャップを縮めて財務状態を改善、次の戦略に必要な投資の資金を貯める事は可能であり、要するにMobile Business Clientで言えば比較的ハイエンドの高価格帯製品に食い込むことが出来れば大きな成功ということになる。逆に言うと、これだけ生産能力に差があると、低価格向けの戦略は意味がないという話でもある。

以上の状況を念頭に置くと、AMDのストーリーは理解しやすい。今回投入されるRyzen 7 Pro 4570UはTDP 15W枠の中ではもっと性能が高い製品であり(Photo01)、まさにトップエンドを狙っている訳だ。

  • AMD、Ryzen Pro 4000 Mobileシリーズを発表

    Photo01: そこでの差別化要因が性能差であり、CPU性能が最大33%高いというのは判りやすい。

今回ラインナップされたのは、以下の3つの製品である(Photo02)。既存のコンシューマ向けのUシリーズとスペックを並べてみたのが表1であるが、Ryzen 5 Pro 4650UはRyzen 5 4600Uとスペック的にはほぼ同一で、わざわざ4650にした意味が良くわからない。ただ他の2製品は概ねモデルナンバー通りといった構成になっている。性能に関しては、今回はRyzen Pro 3000シリーズやIntelのComet Lake-Uとの比較という形でいくつか示されている(Photo03~07)。

■表1
Model Number Core# Thread# Frequency L2+L3 Cache (MB)
Base (GHz) Boost (GHz)
Ryzen 7 4800U 8 16 1.8 4.2 12
Ryzen 7 Pro 4750U 8 16 1.7 4.1 12
Ryzen 7 4700U 8 8 2.0 4.1 12
Ryzen 5 Pro 4650U 6 12 2.1 4.0 11
Ryzen 5 4600U 6 12 2.1 4.0 11
Ryzen 5 4500U 6 6 2.3 4.0 11
Ryzen 3 Pro 4450U 4 8 2.5 3.7 6
Ryzen 3 4300U 4 4 2.7 3.7 6
  • Photo02: Intelに比べるとラインナップは少なめだが、ハイエンド狙いと考えればそれほどラインナップを増やす必要もないのだろう。

  • Photo03: おなじみ3つのベンチマーク。Single Thread性能でも3割増しは意外に大きい。

  • Photo04: Ryzen 7同士でPCMark 10のApplicattion Benchmark結果。Excelで7割増しは、Business Clientにはかなり魅力的。

  • Photo05: こちらはCore i7-10710Uとの比較。PCMark 10のApplication Benchmarkの結果も欲しかったところ。

  • Photo06: Ryzen 5 4650U vs i5-10210Uの比較。価格帯も手頃な製品によく使われる同士の戦いである。

  • Photo07: こちらもRyzen 5 4650U vs i5-10210Uの比較。違いは、Photo06がMSI Modern 14を使った結果、こちらはDell XPS13 7390を使った結果である。Mobileの場合、設計で性能が大きく変わるという実例でもあるかもしれない。

AMDによるUシリーズとProシリーズの位置づけの差がこちら(Photo08)。SMB(Small/Medium Business)向けまでならUシリーズで十分だが、それ以上はProシリーズがお勧めという形になる。具体的な差はセキュリティとシステムマネジメント、それとインストールという事になる(Photo09)。個々の話は最初のRyzen Proが登場した時から全く変わらないので割愛するが、重要なのはこのAMD Pro TechnologiesがOEMメーカーの提供するソリューションとMigrationを進めている事だろう(Photo10)。これは、エンドユーザーがこのOEMベンダーのソリューションを利用すると、自動的にAMD Pro Technologiesが使われる様になるという話であり、よりEnterprise向けに普及が進む一助になると考えられる。HPとLenovoは既にRyzen Pro 4000 Mobile製品のラインナップを示しており(Photo11,12)、そう遠くない時期に市場投入されると見られる。

  • Photo08: 要するに企業で集中管理をするか否かという話。

  • Photo09: 強いて大きな違いを述べれば、今回こうしたEnterprise向けの機能がAMD Pro Technologiesというブランドで統一された事だろうか? ただ中身は従来のRyzen Proで提供されてきたものと同じである。

  • Photo10: まだDell EMCから何もないのがちょっと気にかかる。

  • Photo11: HPはこの2シリーズ。

  • Photo12: Lenovoはこの4シリーズ...なのだが、遂にLenovoもHP式にGen1とか言うようになった模様。