Appleは、去る3月18日に新型MacBook Airを発表した。今回は、そのMacBook Airを使って先行レビューをお届けしたい。
不評だった2つの点を改善
MacBook Airは2008年、MacのIntelプロセッサ移行によって実現した象徴的な製品として登場した。13インチディスプレイを備えるノートパソコンを、アルミニウムの超薄型筐体で包み込み、当時のCEOだったSteve Jobsが茶封筒から取り出すパフォーマンスも話題となった。発売時の価格は22万9800円だった。
その後、2010年にフルモデルチェンジを行ってユニボディ化され、13インチに加えて11インチモデルも追加された。13インチモデルには2ポートのUSBポート、mini Display Portに加え、SDXCカードスロットを備え、オールインワンのコンピュータとしても人気を博した。
しかし、その後2018年10月まで小幅なアップデートに留まり、メモリも8GBのみと少なく、Retinaディスプレイに対応しない最後のモデルとして残るなど、事実上「放置」された状態が続いた。
2018年モデルのMacBook AirはディスプレイがRetina化され、ThunderBolt 3×2ポート、バタフライキーボードなど、最新のMacBookシリーズのスタンダードを踏襲するモデルとなり、ゴールドのカラーも用意された。
2020年モデルのMacBook Airは、2018年モデルを踏襲しながら、顧客にとって不評だったポイントを2点改善した。それは
- キーボードの改善
- プロセッサの選択の幅を拡大
である。
Magic Keyboardを先行して搭載
Appleは、2015年の12インチMacBookから「バタフライキーボード」と呼ばれる新しい構造のキーボードを採用し、2016年10月からはMacBook Proシリーズにも採用した。本体を薄くできる0.55mmのキーの深さを採用し、それでも安定してキートップ全体が水平を保ちながら打鍵できる仕組みを実現した。
しかし、これまでのキーボードの打鍵感からはあまりにかけ離れていたこと、キートップの隙間からホコリが侵入して不具合を起こしやすいことなどから、ユーザーには不評だった。
そこで、2019年10月に登場したMacBook Pro 16インチモデルから、元のシザー方式に戻したキーボードを採用。これを「Magic Keyboard」と名付けた。今回のMacBook Airには、13インチMacBook Proに先行して、このMagic Keyboardが採用された。
Magic Keyboardは、1mmのキーの深さを実現したシザー方式のキーボードだが、バタフライキーボードと同じ大型のキートップを採用したことで、Retina化される前のMacBook Airのキーボードとは異なる雰囲気を醸し出す。
打鍵感は以前のシザーキーボードよりも軽く感じるが、深さがあるため、強めのタイピングであっても底打ちからラバードームの反発を使って良いテンポで入力できる。サブノートとして、あるいはメインマシンとして、快適なキーボードのノートPCをできるだけ軽く持ち歩きたい場合、MacBook Airは最適な選択肢となる。
ベースモデルは第10世代の1.1GHzデュアルコアIntel Core i3プロセッサとなっており、価格は税別10万4800円。性能としては、2019年モデルの第8世代1.6GHz Core i5とほぼ同等で、256GBストレージを搭載したことから、実質的には3万5000円ほど安くなったことになる。
この価格で、4年は付き合えるビジネス向けメインマシンが手に入ると考えると、非常に魅力的な選択肢である。
メインマシンとしての拡張も
新しいMacBook Air、もう一つの問題解決は、構成のバリエーションだ。
2018年モデルと2019年モデルは、同じ第8世代1.6GHzデュアルコアIntel Core i5を搭載しており、これ以外のプロセッサは用意されていなかった。そのため、Retinaディスプレイ搭載以前のMacBook AirにCore i7プロセッサを選択してメインマシンにしてきた旧来のユーザーにとって、待望のRetinaディスプレイ搭載ながら、選びにくかった事情があった。
今回、第10世代Intel Coreプロセッサ(Ice Lakeのモバイル向け)に進化し、1.1GHzデュアルコアIntel Core i3がベースモデルに搭載される。
第8世代のCore i5と同等の性能を発揮することから、価格が下がったベースモデルでも、ビデオ会議をしながら文書やプレゼン資料を作成する、あるいは簡単な写真や動画の編集をするといったビジネスシーンで出会う大半の作業をスムーズにこなせる性能を持っている。
さらに、2020年モデルのMacBook Airでは、1.1GHzクアッドコアIntel Core i5、さらに1.2GHzクアッドコアIntel Core i7まで選択可能になった。
昨今のmacOSは、最新版になるごとにシステムやアプリ起動などを高速化するチューニングを行っていること、またフラッシュストレージモデルが増えていることから、4年以上の耐用年数で使う人も少なくないのではないだろうか。だとすると、クアッドコアのプロセッサを選択し、16GBメモリ、512GBもしくは1TBのストレージに増やして購入しても良いだろう。
ここ数年で、SSDの容量を増加した場合の価格が非常に安くなった点はありがたい。MacBook Airの場合、512GBは2万円、1TBで4万円、2TBで8万円と、1TBあたり4万円で追加できるようになった。最大構成にしても22万9800円で済む。
それでも、グラフィックス性能の弱さを指摘する人はいる。MacBook AirはIntelの内蔵グラフィックスを継続して採用しているからだ。しかし、近年Intelの内蔵グラフィックスは進化を続けており、今回搭載されたIntel Iris Plusは、6Kまでの外部ディスプレイをサポートした。手元の機材のGeekbench 5の計測では、Metalのスコアが6641と、2019年モデルの2倍以上に伸びた。
クアッドコアプロセッサと16GBメモリを選択すれば、外出先での4Kビデオのカット編集にも対応できるほどにはパフォーマンスを発揮してくれるだろう。
iPad Pro、MacBook Proとの兼ね合い
最後に、Appleのコンピュータのラインアップのなかで、MacBook Airがどのようなポジションになっていくかを考えておきたい。すなわち、我々がどのモデルを手に入れれば幸せなのか、という話だ。
3月18日の発表で、MacBook AirとともにiPad Proが刷新された。新しいiPad Proが搭載するA12Zは最新のチップではないが、熱設計を見直し、ピークパワーをより長い時間維持できるよう改善した。iPadには、Appleのプロアプリケーションは用意されないが、着実にiPad Proをプロアプリを動かすためのモバイルマシンに仕立てようとしている動きだ。
そのiPad ProでMagic Keyboardが利用できるアクセサリが5月に登場するが、価格が3万円を超え、本体がおよそ8万5000円のiPad Pro 11インチ128GBモデルと組み合わせても、MacBook Airのベースモデルの価格を2万円も上回ってしまう。それだけ、今回のMacBook Airの価格が低く設定されているということだ。
よりパフォーマンスを求めるユーザーは、MacBook Proを選択することになる。だが、現時点で13インチMacBook ProはまだMagic Keyboardに対応しておらず、外部グラフィックス対応でもない。
それでもパフォーマンスはMacBook Airを圧倒するが、現状13インチMacBook Proはモデルチェンジ前の過渡期、という認識になってしまう。MacBook Airとの明確な性能差を見せられるかどうか注目だ。
その意味で、MacBook Proと迷っている人は、MacBook Airを現段階では選びにくいかもしれない。しかし、4Kビデオ編集を毎日こなす人でない限り、MacBook Airは幅広い人にとって、最も軽快で充実したパフォーマンスが得られる選択肢となるだろう。