アルプスアルパインとオムロン、清水建設、日本IBM、三菱自動車工業の5社は2月6日、「一般社団法人次世代移動支援技術開発コンソーシアム」を設立した。コンソーシアムは、視覚障がい者の実社会におけるアクセシビリティ(情報やサービスへのアクセスのしやすさのこと)と生活の質向上を目的にAIを活用した移動やコミュニケーション支援のための統合技術ソリューション「AIスーツケース」の開発と、社会実装に向けた実証実験とデモンストレーションを実施する。
近年、高齢化に伴う視力の低下や緑内障をはじめとする目の疾患発症などにより、視覚障がい者は増加しており、日本眼科学会の調査によると日本には推定164万人の視覚障がい者がおり、うち全盲の視覚障がい者数は18万8000人にのぼる。また、世界では視覚障がい者数が2050年に3倍になるという研究結果※3もあり、爆発的な増加が大きな課題となっているという。
視覚障がいにはさまざまな困難があり、特に街を自由に移動できないことが社会参加の大きなハードルとなっており、例えば経路を地図で確認して目的地に向かう、人や障害物を避けて通路を歩く、サインや看板を確認してお店に入る、駅やお店の列に並ぶ、知り合いを見つけて挨拶をするなど日常的な行動をとることが非常に困難となっている。
日本では、2006年6月の「バリアフリー新法」、2016年4月の「障害者差別解消法」が施行されて以降、車椅子のための段差の解消やエレベーターの設置などの対策は進んでいるが、視覚的に周囲を確認できない視覚障がい者は通勤・通学をはじめとした社会生活に欠かせない移動に依然として困難を抱えている。
こうした課題を解決するため、コンソーシアムは視覚から得られる情報を最新のAIとロボットの技術を組み合わせて補うことで、視覚障がい者が自立して街を移動することを助ける統合ソリューションとしてAIスーツケースの開発に取り組む。
AIスーツケースは、視覚障がい者が日常生活において無理なく携行できることに着目したウェアラブルデバイスとスーツケース型ナビゲーション・ロボット。コンソーシアムでは、業種を超えた複数の企業が技術や知見を持ち寄り、AIスーツケースを開発するとともに、実証実験を通して社会実装に必要な要件を特定し、視覚障がい者の移動とコミュニケーションの課題を解決するソリューションの実現を目指す。
設立のきっかけとなったのは、IBMフェロー浅川智恵子氏の米国カーネギーメロン大学(CMU)における視覚障がい者のためのスーツケース型誘導ロボットCaBotの研究。コンソーシアムはCMUをはじめとした各大学や関連する視覚障がい者支援団体と協力をして新しいアクセシビリティ技術の開発を進めていく。
なお、各社の役割としてアルプスアルパインが触覚インターフェースに関する知見に基づくアドバイス・技術の提供を、オムロン(理事)が画像認識、各種センサに関する知見に基づくアドバイス・技術の提供を、清水建設(理事)が建築計画、屋内外ナビゲーション、ロボティクス技術に関する知見に基づくアドバイス・技術の提供、法人の運営に必要な事務局・経理機能支援を、日本IBM(代表理事)がAI、アクセシビリティ、屋内外ナビゲーション、コンピューター・ビジョン、クラウド・コンピューティングに関する知見に基づくアドバイス・技術の提供、法人の運営に必要な事務局業務を、三菱自動車が自動車開発やモビリティ全般に関する知見に基づくアドバイス・技術の提供をそれぞれ担う。