2020年1月30日の8時40分ごろ(日本時間)、運用を終えた天文衛星と軍事衛星が、数十mの距離にまで接近した。

事前の予測では1~5%の確率で衝突するとされていたが、両衛星は無事に通過した。しかし、衛星やデブリが衝突する危険性は年々上昇しており、今後早めの対策が求められている。

  • IRAS

    米国の軍事衛星と接近し、衝突する危険性もあった、米国航空宇宙局(NASA)やオランダ、英国が共同開発した赤外線天文衛星「IRAS」の想像図 (C) NASA/JPL

あわや衝突の危機

衝突の危険性があったのは、米国航空宇宙局(NASA)やオランダ、英国が共同開発した赤外線天文衛星「IRAS」と、米国家偵察局(NRO)・米海軍の偵察衛星「GGSE-4」の2機だった。

IRAS(Infrared Astronomical Satellite)は1983年に打ち上げられ、高度約900kmの極軌道で赤外線による宇宙観測を行っていたが、約10か月後に冷却材の枯渇により運用を終了した。そのため、すでに通信や軌道変更などはできず、スペース・デブリ(宇宙ゴミ)として軌道を回っている。IRASの寸法は約4m×3m×2mで、質量は約1tとされる。

一方のGGSE-4 (Gravity Gradient Stabilization Experiment)は、1969年に打ち上げられた衛星で、高度約900km、軌道傾斜角約70度の軌道で運用されていた。IRAS同様、すでに運用を終えており、デブリとなっている。この衛星は「ポピー5B (Poppy-5B)」という名前でも知られ、地上の通信、電磁波などを傍受する役目をもっていた。

また、衛星を長細い形にし、地上に近い部分にかかる地球の引力と、遠い部分にかかる引力との差(潮汐力)を利用して、衛星を地表に対して垂直に立てて安定させる、「重力傾度法」と呼ばれる技術の実証も目的としていた。このため、衛星本体は直径68cm、全長約86cmのラグビーボールのような形をしているものの、重力傾度法を実現するため、本体から全長18mものブーム(棒)が伸びている。

地球低軌道の衛星やデブリなどを追跡している米国の民間企業「レオラボズ(LeoLabs)」によると、両衛星は日本時間30日8時39分35.707秒に、米国ペンシルバニア州ピッツバーグの上空約900kmで、交差するように接近した。

このとき、両衛星は約47mまで接近するとみられていたが、地球の重力などの影響でそれぞれの軌道がやや変化することがあるため、約1~5%の確率で衝突する可能性があるとされた。両者の相対速度は秒速14.7kmにもなり、もし衝突すれば膨大な数の破片が生まれると予想されていた。

とくに予測を難しくしたのは、GGSE-4の形状だった。前述のように衛星本体から全長18mものブームが伸びていることから、そのブームがどこを向いているかによって、IRASに接触する確率が大きく変化するからである。

しかし幸いにも、レオラボズ、また米宇宙コマンドの観測によると、最接近後に新しいデブリの発生は確認されておらず、両衛星は衝突することなく無事に通過できたものと見られている。

  • GGSE-4

    GGSE-4の地上試験モデルの画像。これが衛星本体で、宇宙空間ではこの本体から全長約18mのブームが伸びる (C) NRO

過去には実際に衝突事故も、急がれる対策

こうした衛星やデブリのニアミスは、過去にも何度か起こっており、また2009年には、運用中だった通信衛星「イリジウム33(Iridium 33)」と、運用を終えていたロシアの軍事衛星「コスモス2251(Kosmos 2251)」が衝突し、多数の破片が飛散するという事故も起きている。これを含め、デブリが衝突した事例はわかっているだけで3件、その疑いがあるものも含めると6件確認されている。

もし、片方の衛星が運用中であり、なおかつスラスターなどをもっていれば、軌道変更をしてやり過ごすことができるが、運用を終えていたり、スラスターを装備していない衛星なら不可能である。

デブリは現在、地上から観測できる10cm以上の物体が約2万個、また小さすぎて観測できないものの、理論的に推定されている数字として、1cm以上のものが50~70万個、さらに1mm以上のものは1億個を超える数が存在するとされる。

さらに近年、小型衛星を数十機から最大数万機も打ち上げ、いわゆる「メガ・コンステレーション」によって通信や地球観測サービスを展開しようという企業が相次いで出現しており、米国の「スペースX」など、すでに打ち上げを始めている企業もある。衛星の数が増えれば、その分デブリが衝突したり、衛星がデブリ化したりする確率も上がるため、デブリをめぐる問題はこれまで以上に深刻となっている。

一方で、日本などはデブリの監視体制を強化する動きをみせているとともに、日本や海外でいくつかのベンチャー企業が、衛星を使ったデブリの除去をビジネス化しようという動きもある。

ただ、あるデブリに対して、どこまで責任をもつのか、そして誰がお金を出すのかといった問題や、事故が起きた際などの責任の問題などが課題としてあり、またそもそも、新たなデブリを生み出さないようにするための国際的なルール作りは進んでおらず、デブリ除去のビジネス化が実現しても"焼け石に水"になる可能性もある。

こうした課題を乗り越え、デブリ問題を解決することができるのかが、宇宙開発に関わるすべての国や企業、人々に問われている。

  • デブリ

    地球周辺にあるデブリの概念図。地球の大きさとデブリの大きさの比率などは誇張してあるため、実際にはこれほど密集した状態ではないことに注意 (C) NASA

出典

LeoLabs, Inc.(@LeoLabs_Space)さん / Twitter
NASA - NSSDCA - Spacecraft - Details
Potential satellite collision shows need for active debris removal - SpaceNews.com
U.S. Space Command(@US_SpaceCom)さん / Twitter
Poppy (multifaceted) - Gunter's Space Page

著者プロフィール

鳥嶋真也(とりしま・しんや)
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。

著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、月刊『軍事研究』誌などでも記事を執筆。

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Twitter: @Kosmograd_Info