スマートフォンについてはどうでしょうか。2019年はサムスン電子の「Galaxy Fold」などのディスプレイを直接折りたためるものや、ソニーモバイルコミュニケーションズの「Xperia 1」のような縦長モデル、ファーウェイ・テクノロジーズの「HUAWEI P30 Pro」のように4つのカメラを搭載したものや、「G8X Thinq」のようにディスプレイを追加できるものなど、個性あふれる機種が多数登場して市場を沸かせていました。

2020年も日本で5Gのサービスがスタートすることもあり、特にハイエンドモデルを中心として、未来性を感じさせる個性的なスマートフォンを各社が投入してくる可能性は高いでしょう。ですがそうしたスマートフォンが大きく販売を伸ばすかというと、そうはならないというのが筆者の見立てです。

理由は2019年10月に実施された電気通信事業法の改正です。これによってスマートフォンの大幅値引きがほぼ不可能となったことから、2020年には高額なハイエンドモデルの販売が振るわないと考えられるのです。

一方で市場での存在感を高めそうなのが、2~5万円台のスマートフォンです。携帯電話会社が大幅値引きができなくなったことを受け、スマートフォンメーカーも3万円前後の機種の拡充を急いでいますし、2019年にはオッポやシャオミといったコストパフォーマンスに強みを持つ中国メーカーが、法改正に商機を見出し日本市場に注力する姿勢を強めています。

  • 2019年10月には、オッポが耐水・防塵性能やFeliCaを搭載しながら、3万円台の価格を実現した「Reno A」を投入。法改正を機に中国メーカーの攻勢が強まっている

そうしたことから携帯電話会社の「実質0円」販売で、ハイエンドモデルが売れ続けていた日本のスマートフォン市場も、徐々にではありますが変わっていくことになりそうです。ですが高額端末の値引き規制は、当初ハイエンドモデルが主流を占めると見られる5Gスマートフォンの販売停滞を招くだけに、5Gの普及に暗い影を落とすことになるかもしれません。

料金騒動はひと段落、米中摩擦の影響はまだ続く

では、ここ数年来携帯電話市場を大きく振り回してきた政治との関係については、2020年どうなると考えられるでしょうか。

まず2018年の菅義偉官房長官の発言に端を発した通信料の引き下げに関してですが、先にも触れた2019年の電気通信事業法改正によって、分離プランの導入義務化やスマートフォンの大幅値引きの禁止、“2年縛り”の事実上の無効化など、非常に厳しい規制を実現したという成果を出したため、ひと段落つくものと見られています。2020年は改正法が市場にどのような影響を与えるかを見極める年になるといえるでしょう。

  • 菅官房長官の発言を受けて1年超にわたり実施された総務省の「モバイル市場の競争環境に関する研究会」だが、法改正という成果を残したことから2020年頭で一区切りとなるようだ

ですが最近では、携帯電話大手がアップルやネットフリックス、アマゾン・ドット・コムなど有力なインターネットサービス事業者と共同で、通信料金とのセット契約により、それらインターネットサービスを大幅に値引きする施策を打ち出しています。これはある意味、スマートフォンの大幅値引き販売に近い施策でもあるだけに、競争が激化し消費者不在の値引き合戦が繰り広げるようになれば、再び総務省が大きく動く可能性もありそうです。

ではもう1つ、世界的に大きな影響を与えた、ファーウェイ・テクノロジーズを巡る米中摩擦に関してはどうかというと、こちらはまだ先が見通せないというのが正直なところです。米国は同社に対し何度か規制緩和をしてはいるものの、完全な規制緩和措置を取る様子は見られず、2020年も規制は続くものと考えられます。

既にファーウェイ・テクノロジーズ側も、規制が長期化することを見越しており、特にスマートフォンに関してはグーグルのサービスが搭載できないことから、日本でも独自のプラットフォームである「Huawei Mobile Services」(HMS)を搭載したスマートフォンの投入準備を進めているようです。さらに今後、同社はスマートホームなどIoT関連デバイスにHMSや、独自の「Harmony OS」を搭載していくことで米国の影響を受けないプラットフォーム構築を進めていく様子も見せており、規制が長引くほど携帯電話市場には大きな分断が発生することにもなりそうです。