「eスポーツ元年」と呼ばれたのは2018年。ユーキャンの新語・流行語大賞に「eスポーツ」がランクインするなど、何かと話題になった1年でした。

こういった次の年は、「昨年の騒ぎはなんだったの?」というくらい落ち着くことが多いのですが、2019年のeスポーツはますます堅調。市場規模としては、まだゲーム市場全体の中では小さなものですが、注目度は高く、規模も2018年より確実に大きくなっています。

  • スマホアプリ「モンスターストライク」のプロツアーの様子

    スマホアプリ「モンスターストライク」のプロツアーの様子

大会ブランドが確立したRAGE

2019年のeスポーツ業界は、とにかく「大会が増えた」印象です。2018年以前は、メーカー主催の大会が年に1回あればいいほうでしたが、2019年は、1つのタイトルで複数の大会が開かれたり、これまで大会のなかったタイトルで大会が行われたりしました。

とりわけ目立っていたのが「RAGE」。RAGEは、CyberZもしくはCyberEが主催するeスポーツイベントのブランドで、『Shadowverse』をはじめ『ブロスタ』や『PUBG MOBILE』『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』『TEPPEN』など幅広いタイトルを取り扱っています。

『ストリートファイターV アーケードエディション』を取り扱った「ストリートファイターリーグ」は、2019年に2回開催。ストリートファイタープロツアーのポイント上位のプレイヤーで争われる世界一決定戦「カプコンカップ」では、「ストリートファイターリーグ」の日米決戦まで行われました。さらに『ブロスタ』の日本一決定戦もRAGEが運営するなど、タイトル公式大会も手がけます。

  • 「ストリートファイターリーグ」の様子

RAGE自体は数年前から開催されていますが、以前は『Shadowverse』を使った大会がメイン。系列会社であるCygamesのタイトルだったので、ある意味ではIP(Intellectual Property:知的財産権)ホルダーによる開催といえなくもありません。それが、完全に他社IPを使って大会を開くことになったわけです。eスポーツイベントの運営会社として、ポジションを確立してきたといえるでしょう。

RAGE以外でも、吉本興業がライアットゲームズの『リーグ・オブ・レジェンド』の日本リーグ「LJL」の運営に参加し、渋谷のヨシモト∞ホールで大会を開催しています。常設の席があるホールでの有料イベントは、これまで類を見ず、eスポーツが新たなステージに入った予感さえありました。eスポーツは、参加と観戦の2つの側面がありましたが、観戦するイベントとしても整ってきた印象です。

IPホルダー以外の企業や団体が運営する点では、茨城国体の文化プログラムとして、「全国都道府県対抗eスポーツ選手権」が開催されました。eスポーツがオリンピック競技になるとか、ならないとか、そんな話も出てきていますが、2018年のアジア競技大会に続き、2019年は国体のプログラムでeスポーツが取り扱われます。「国レベル」でもeスポーツ大会が行われるようになった象徴的なイベントだったといえるでしょう。もちろん、2020年も「全国都道府県対抗eスポーツ選手権」は開催される予定。次の開催地は鹿児島県です。

  • いきいき茨城ゆめ国体・いきいき茨城ゆめ大会の文化プログラムであるeスポーツ大会「全国都道府県対抗eスポーツ選手権」が開催されました

スポンサーとしてeスポーツに参加する企業も増えました。2018年のeスポーツムーブメントのときに出資したいと考える企業は多かったと思いますが、すでに予算が組まれている状態だったり、未知数のeスポーツに対する投資に迷っている状態だったりしたはず。それらがクリアになったからか、2019年は続々と企業が参入してきました。

スポンサーの多くは、市場規模よりも「文化としてのeスポーツ」に興味を持っており、若者にリーチする手段のひとつとして、スポンサーになっている印象です。そのため、今後もスポンサーを継続していく企業は多そうですし、新たに参入してくるところも増えていくのではないでしょうか。

もう1つ大きな動きとして、地方イベントの開催が増えました。eスポーツは、リアルスポーツに比べ、設備投資が少なくて済みます。2019年は、そのメリットを生かして、地方創生のカギとしてeスポーツを扱う地域が出てきたのです。

大分県や富山県は、すでにeスポーツが盛んな県として周知されるほどになりました。現在では47都道府県の数を超える地方のeスポーツ団体があるといわれていますが、今後も増加を続け、活動も活発化していくでしょう。

定着への課題はアリーナの不足?

2020年のeスポーツは、2018年、2019年の流れを受け、より拡大していくと思われます。先述した大会の回数や規模、地方創生、スポンサー企業など、さらに拡大していくでしょう。

そのうえで、まだeスポーツに不足している部分が補填されていくフェーズに突入すると考えられます。その1つが、大会の会場になるアリーナ。現状だとイベントホールなどを使って大会を開くことが多いのですが、今後は専用アリーナが建設されていくのではないでしょうか。

コナミデジタルエンタテインメントが銀座にeスポーツ関連のビルをオープンしますし、熊谷にもeスポーツ施設ができました大阪にも2020年3月にeスポーツ施設「REDEE」がオープンします。

  • 『LoL』の国内プロリーグ決勝大会「LJL 2019 Summer Sprit Finals」は、東京都・立川市にある「アリーナ立川立飛」で行われました

地方でも今後は施設ができていくでしょう。これまで、公式のeスポーツイベントや大きな大会の多くは東京や東京近郊で開催されてきましたが、地方での開催も出てくると思います。

現状、地方開催があったとしても、ほとんどが「地方巡業」的なものであり、その地域に根付いたものではありません。そのため、プロ野球やJリーグのように、地方に根付いたチームや選手が、お互いの地域に出向いて試合をする、いわゆる「ホーム&アウェイ方式」のリーグ戦が出てくるかもしれません。

そうなると、ファンも付きやすくなりますし、地域をあげて応援するようにもなるでしょう。チームとしても、地域としても、そしてファンとしてもいい効果が生まれるはずです。

eスポーツは、まだまだ「ブーム」。定着したとは言い切れません。いつ廃れてしまうかもわからない状況ですが、プレイヤー人口や視聴者数の増加、参入企業などを見るに、すぐに消えてなくなることもないでしょう。

その間に、eスポーツが定着するような基盤作りが必要です。2020年のeスポーツは拡大を続けると思われますが、すでに参入した企業が手を引くことも考えられます。つまり、全体的には拡大傾向でも、局地的にシュリンクすることもあるわけです。

急拡大、急成長を望むのではなく、少しずつ地に足を付けて成長させていくことが重要だと考えます。そのために大切なのが、しっかりと事業としてマネタイズすること。eスポーツは慈善事業ではありません。エンターテイメントとして確立させるために、エコシステムの構築が必要です。それができて初めて、eスポーツは定着するのです。