FROGMANがROVの航法デバイスに最適な理由
後藤先生:実験の結果、一応は文字板が見えることがわかりました。それでも、ライトの光や太陽が真上から当たると、時計のガラスが反射を起こして光ってしまう。こうなると見えません。そこで、FROGMANを少し手前に傾けてあげたんです。
FROGMAN(GWF-D1000)のすばらしさのひとつが、最大80度まで本体を傾けても正確な方位を測れること。普通、マグネットコンパスって水平にして測らないとダメじゃないですか。でも、これは斜めでも測れるんです。
カメラの入射角を30度、ライトは15度ほどの入射角で照らすと、かなり良くなりました。ただ、それでもまだ若干反射するんですね。紫外線や太陽光の強い南極で使えるんだろうかと考えて、反射を防ぐものが何かないかと探したところ、百均の反射防止フィルムを見つけました。これで見事解決です。こうして、ROVで方位と深度の文字板が見えるようになりました。
ところで、方位と深度がなぜそこまで重要なのでしょうか。答えは、パイロットが操縦するときに、探査機の状態を画面で確認しているからです。現在、ROVの機首がどこを向いているか、水深は何メートルか。高価な機材ではこれらの情報を、方位や深度を計測する装置からの電気信号で画面に合成させています。スーパインポーズっていうんですけど、これも市販品がない。作ってもらうと100万円くらいします。
後藤先生:さらに、そんな装置を積むと重くなります。これが問題で、ROVを南極に持って行くときは、自分で機材を背負って歩くんですよ。だから1グラムでも軽いほうがいい。そこで、カシオさんの技術の結晶である時計の方位計と深度計を画面に映し込むことで、これを見ながら操縦するようにしました。
ROVの機首にカメラが付いていて、その先に時計を固定しています。(スライドを見ながら)これが実際の操縦画面です。方位計は、パッと見てわかるグラフィック表示と、真北からの角度が数値表示で表示されます。
後藤先生:あとは潜水経過時間。ROVは有線で電源を供給するというお話をしましたが、南極のROVはバッテリー式なんです。なぜかというと、発電機を使えないから。現地まで発電機を担いで行けないので、でっかいリチウムイオンバッテリーで動きます。
動作は最大二時間。対象水域をくまなく探査するためには、移動時間を計算しながら潜水する必要があるんです。色々な条件がそろって、ようやく南極ROVが実現できるところまで来たんですね。で、実際にROVを組み立てられますよと牛山さんに伝えて、じゃあFROGMAN(GWF-D1000)を南極ROV用にいくつか作りましょうということで、無事に南極まで持って行けたんです。
続いていよいよ、本日のゲスト、カシオの牛山氏が登場します。
牛山氏:先ほどの後藤先生のお話では、カシオの羽村技術センターでお会いしたとき、私が二つ返事でファームウェアを変えますよみたいなストーリーになってましたけど、実は私としては半分断ったつもりだったんです(笑)。検討しますと持ち帰って、次回お断りしようと思っていました。
牛山氏:でも、我々のチームで時計をデザインする人間、時計のセンサーを開発する人間、時計のユーザーインタフェース、操作を考える人間、それからユーザーインタフェースをファームウェアとして作り込む人間に、後藤先生からの要望をちょっと話してみたんです。すると、やってみよう! という話になって……。
彼らも思い入れの強い商品の発売を間近に控えて、熱かったんでしょうね。その翌月、もう6月の発売と同時にROV専用のFROGMANを開発して、先生にお届けすることができました。