久しぶりに訪れる珠江デルタでしたが、とにかく都市の集積度と開発スピードが凄まじい。街中至るところ工事中で、スクラップ&ビルドが繰り広げられています。それが深センから隣接する東莞までの数十キロ、延々続くのですから。街中は交通量が多く、日本と比べるとクラクションのけたたましさが気になりますが、バイクもクルマも電気化が進んでいるからか空気は予想以上にクリーンです。
不動産価格にも唖然。食事に立ち寄った市中心部・霊芝公園付近のショッピングモールで、何気なく付近の住宅(中国の都市部に戸建てはほぼ存在せず、いわゆるマンション)の相場を訊ねたところ、3LDKくらいの広さで2億円前後とのこと。日本の不動産に割安感を覚える中国人が多いのも納得です。
それにしても、なぜここまで急速かつ徹底的にQRコード決済が浸透したのかが気になります。通訳のQさんにいろいろ質問してみましたが、政府・共産党の方針もさることながら、末端の現金授受決済システムが未整備なところにスマートフォンが登場したことが大きいようです。小規模店舗の多くはレジスターを導入した経験がなく、QRコード決済が普及するまでは机の引き出しにそのまま現金を入れていたとのことですから、安全面も評価されているのでしょう。
今回は見かけませんでしたが、改札の通過もQRコードでできるようになるとの話があります。さすがにスピードが要求される改札でQRコードは非現実的では? と考えていたところ、実際に利用してみてそうでもないことがわかりました。セキュリティです。どの駅でも改札前にゲートがあり、黒服の警備員(当然公務員)が入場する1人1人をチェックするのです。空港ほど厳重ではありませんが、手荷物もCTスキャンされます。そこにかかる時間のほうが長いので、QRコードの読み取りで立ち止まることなど些細なことなのでしょう。
深セン最終日に実感したのは、QRコード決済は通過点ということです。確かに、猫も杓子もスマートフォンにQRコードという状況ですが、おそらく彼らは技術のリプレイスを躊躇しません。合理的と判断すれば、一斉により優れた新技術への移行を促すことでしょう。QRコードの普及ペースがその証拠ですし、前述したナンバープレートの読み取りによる高速道路料金の決済も一例です。それだけの力があるのです。
その「彼ら」とは……我々をビッグ・ブラザーのごとく見つめる気配です。たとえば、駅の通路や工事現場のフェンスに貼られたポスター、駅や空港のデジタル・サイネージ、通りの要所要所に立つ黒服の人たち。そして街中を注意深く見れば、至るところにカメラが。そういった"背景"まで考慮すると、いまだに現金が主流の日本社会もそう悪いものではありませんよ。