Appleが11月13日に発表した16インチMacBook Proのファーストインプレッションの後編をお送りする。

前編を振り返ると、ディスプレイサイズの拡大、プロセッサとグラフィックスの強化、メモリやストレージの搭載量の上限を高めるといった正常進化を施してきたことが分かる。その一方で、デザインについてはこれまでの製品を踏襲しており、選択できるカラーバリエーションもシルバーとスペースグレイで変化はなかった。

しかし、クリエイティブプロが求めるピーク性能を押し上げるという、“Pro”を冠するモデルの本来の役割をきちんと果たしており、特にメモリやストレージについては大きな進歩を遂げたといえる。その一方で、ProユーザーがMacBook Proに対して挙げていたその他のニーズに対しても、新たな研究や設計によって改良を実現している。

  • いよいよ姿を現した「MacBook Pro 16インチモデル」。カラーバリエーションは従来と同じスペースグレイ(左)とシルバー(右)の2色を用意する。最小構成モデルの販売価格は24万8800円(税別)となる

ストロークと安定性が増したMagic Keyboard

MacBook Proは、エンジニアにとっても人気のあるマシンだ。特に、モバイルアプリの開発ではコンパイルや動作の検証などをマシン上で行うため、広い画面とリアルタイムに動作検証を行うパワフルさ、そして快適なキーボードが求められる。

2016年に導入され、薄型を実現したバタフライキーボードについては、故障が多いといった改善の要望が挙がっていたほか、使用頻度が高かったESCキーが物理キーからTouch Barに統合されたことにも批判があった。

Appleは、16インチのMacBook Proでこのキーボード問題に対処した。これまでのバタフライキーボードから、2015年まで採用してきたシザー方式へと再び戻すことで、キーストロークの深さを従来の0.55mmから1mmへと増し、打鍵感を高めている。バタフライキーボードで拡大して安定性を増したキートップは受け継がれた。

  • キーが正しく入力されないといった不満の声が多かった従来のバタフライキーボードから、「Magic Keyboard」と名付けられたシザー方式のキーボードに一新。キートップの面積は大きく、見た目はバタフライキーボードと似ている

新しいシザー方式のキーボードは、Appleが独自にデザインしたラバードームがシザーメカニズムの中央に置かれており、これまでのバタフライキーボードよりも指に反発力が返ってくる。指先を跳ねさせながらのタイピングのコツをつかむと、とてもテンポよく正確な文字入力ができるようになる。

それにしても、新しいキーボードの名称に「Magic Keyboard」と名付けたのは意外だった。iMac Proに付属する外付けキーボードにインスパイアされてこの名前をつけたとみられるが、iMac Pro付属のMagic Keyboardはキー配列に傾斜がついており、ノートパソコンには実現できないデザインが施されている。その一方で、MacBook Pro 16インチのキーボードには、新たに配光などを最適化したバックライトを搭載するなどの改良も加えられている。

Touch Barは、左端のESCキーと右端のTouch ID兼電源ボタンが独立し、エンジニアのニーズを反映させた。この点も支持を集めそうだ。

  • 従来モデルではTouch Bar内に含まれていたESCキーは、独立したハードウエアキーに改善された

サウンドの進化に思わず感動

最後に触れておきたいのが、マイクとスピーカーだ。通常はヘッドフォンを装着したり、外付けマイクやスピーカーで拡張するラップトップコンピュータのサウンド環境だが、MacBook Proはそうした外部機器がなくても、十分以上の満足感あるオーディオ性能を実現している点には脱帽した。

まずスピーカーシステムは、6つのドライバで構成されており、特に進化したのが低音を担うウーハーだ。2つのウーハーを背中合わせにして振動を打ち消す構造を取ることで、半オクターブ低い音まで鳴らしつつ、デバイス全体に振動が伝わるのを防いでいる。これによってクリアで力強い低音に支えられ、サウンド全体がノートパソコンから出ているとは想像できないほどの品質にまとまっていく。

  • スピーカーも改良が施され、特に低音の再現がよくなった

同時に、iPhone 11にも採用された空間オーディオ技術を、MacBook Pro 16インチモデルにも採用することで、音楽や映画でも左右に大きく広がるサラウンドを楽しむことができるようにした。昨今のApple製品に実装されるオーディオ技術は、ソフトウェア処理の効果が大きく感じられる。

マイクは3つで構成され、背景のノイズを40%軽減し、クリアで繊細な録音を可能にした。もちろん、本格的なレコーディングはスタジオで行うべきだが、イメージを伝える仮歌を録音したり、ちょっとしたPodcastなどの録音、あるいはビデオ会議の音質も飛躍的に高めてくれることが期待できる。

ユーザーの間口を広げる製品になり得る

近年、Appleはコンピュータ市場で、特にハイエンドの領域における権威を失ってきた。Pro向けモデルに対する遅れが指摘されるなど、ユーザーにもその様子が伝わっており、特にパフォーマンスを求めるユーザーは性能向上が著しいWindowsのゲーミングPCに頼るようになった。

例えば、Adobeはサブスクリプションモデルへの転換とクラウド化を進めたことでで、ユーザーはMacでもWindowsでも好きな方を行き来して利用できるようになった。この流れを受け、少しでも性能が高いWindowsマシンへの乗り換えも進んでしまった。

AppleはiMac Proを登場させ、またMac miniの高パフォーマンスモデル化を行い、長らくリリースされていなかったMac Proを2019年12月に発売することにした。そして、今回発表したMacBook Pro 16インチで、ハイエンドユーザーのニーズと期待に応えるアップデートを施した。

同時に、価格を据え置いたことで、より上質な体験を求めるビジネスユーザーにとっても、MacBook Pro 16インチモデルは必要十分な性能を備えながら、サウンドやキーボードの充実を享受できるようになる。このことは、意外とMacBook Proユーザーの間口を広げることになりそうだ。

  • これまで、パフォーマンスを求めるためにWindowsノートPCを選んでいた人も、ためらうことなく手にできる1台に仕上がっている

今回はファーストインプレッションということで、MacBook Proの刷新されたデザインや技術について触れてきた。引き続き、MacBook Pro 16インチの実用について触れていくこととしたい。

著者プロフィール
松村太郎

松村太郎

1980年生まれのジャーナリスト・著者。慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。近著に「LinkedInスタートブック」(日経BP刊)、「スマートフォン新時代」(NTT出版刊)、「ソーシャルラーニング入門」(日経BP刊)など。Twitterアカウントは「@taromatsumura」。