アジアを中心に格闘技イベントを展開する「One Championship」。2019年3月には初めて日本でも大会を開催しました。通算100回目となる第2回の日本大会開催を10月13日に控え、10月5日、6日の2日間には、格闘技とeスポーツの祭典「ONE Martial Arts Fan Fest」を開催します。

リアル格闘技イベントを実施するOne Championshipがなぜeスポーツに取り組むのか、One Championship 日本 代表取締役社長の秦アンディ英之氏に話を聞きました。

――まず、One Championshipについて教えてください。

秦アンディ英之氏(以下、秦):One Championshipは、アジアを中心に活動しているマーシャルアーツの格闘技イベントです。8年の歴史があり、すでに140カ国以上で興行をしています。2019年3月には日本でもイベントを開催しました。10月13日に開催する「ONE:CENTURY 世紀」が、日本で2回目のイベントで、One Championshipとして通算100回となる記念イベントでもあります。

  • One Championship 日本 代表取締役社長の秦アンディ英之氏

    One Championship 日本 代表取締役社長の秦アンディ英之氏

――今回、リアル格闘技とeスポーツのイベントを同時に開催する理由はなんでしょうか。

秦:我々は、アジアの武道の精神である、誠実さ、謙虚さ、名誉、尊厳、勇気、規律、慈悲などを軸に、選手をヒーローとして送り出す目的で興行を実施しております。格闘技とeスポーツはこの部分で共通するところが多いと判断したため、10月5日、6日の「ONE Martial Arts Fan Fest」でeスポーツイベントを開催することを決めました。

今回取り扱うゲームタイトルは、『鉄拳7』と『ストリートファイターV アーケードエディション(ストV)』の2つ。対戦格闘ゲームを選んだのは、格闘イベントと親和性があるだけでなく、開催地の日本で人気があるためです。

ただ、それだけにとどまらず、今後は対戦格闘ゲーム以外のタイトルも取り扱う予定です。年内には、5人構成の2チームに分かれてお互いの本拠地破壊を目指すオンラインストラテジーゲーム『Dota2』の大会を、シンガポールで開催することが決まっています。しかも、『Dota2』は格闘技との複合イベントではなく、単独イベントで開催する予定です。

eスポーツタイトルについては、ひとまず『鉄拳7』『ストV』『Dota2』の3つをベースに展開していきますが、ONEは常に進化し続けるので、ほかのタイトルも検討していきたいですね。

  • 過去に開催された大会の様子

――eスポーツイベントは今回が初めてとのことですが、マーシャルアーツと類似する点はあるのでしょうか。

秦:eスポーツと格闘技。この2つはかけ離れているようにも見えますが、実は視聴者の相関性が高いんですよ。ONEに来ていただいた約7割の人がeスポーツに興味があると言っていますし、eスポーツファンもかなり多くの人たちがマーシャルアーツに興味があると言ってくれています。なので、今回のイベントは、お互いに相手側のことを知るいい機会になるのではないでしょうか。

また、価値観を大事にしながら、ヒーローを生み出し、世に送り出す点については、eスポーツとマーシャルアーツは変わらないでしょう。イベントマーケティングやメディアへのリーチ、このあたりを見ても親和性は高く、共通点も多いと考えています。

eスポーツの世界において、『鉄拳7』や『ストV』は、これからさらに広がっていく可能性のあるタイトルです。ONEもアジア圏ではメジャーなイベントですが、日本や欧米ではまだまだですので、お互いのファンがそれぞれの認知を高め、いい相乗効果を発揮したいですね。シンガポールで開催する予定『Dota2』は、世界トップクラスのeスポーツタイトル。ONEがeスポーツイベントを開催することについて、マスボリュームに訴えかけられるのではないでしょうか。

――初めて格闘技を観戦する人や、eスポーツに触れたことのない人もいると思います。注目の選手を教えてください。

秦:ONEは格闘技とeスポーツをどちらも本気でやっていくつもりです。そのため、両者の橋渡し的存在のマーシャルアーツチャンピオンであるデメトリアス・ジョンソン(DJ)選手と、『ストV』プロのジョビン選手の2人に注目してほしいですね。

DJ選手はフライ級世界チャンピオンで、『ストV』でもトップクラスのプレイヤー。ジョビン選手はJeSUのプロライセンス保持者であるだけでなく、総合格闘技DEEPの第4代フェザー級チャンピオンだった元格闘家でもあります。単純に「格闘技が好き」「eスポーツが好き」だけでなく、どちらも本気で取り組み活躍している選手なので、見る人にもその熱量が伝わればいいと考えています。

ほかにも注目してほしい選手はたくさんいるのですが、なかでもONE Championshipで一番有名なのがアンジェラ・リーという女性選手です。19歳で史上最年少の世界王者になり、シンガポールでは資生堂がスポンサーになっているんですよ。

加えてeスポーツ部門では、シンガポールのXian選手。彼もヒーローと呼べる存在でしょう。DJ選手がシンガポールへ訪れたときに対戦してもらっています。いまは彼のムービーを作成しているところです。

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    デメトリアス・ジョンソン選手、通称DJ。12度の世界チャンピオンに輝き、活動の拠点をUFCからONEへ。世界でトップクラスのゲーミングストリーマーとしても活躍中で、Fan Festにも来場する予定です

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    ONE世界女子アトム級王者 アンジェラ・リー選手。アンストッパブルの異名を持つ、無敵のヒロインです。Fan Festにも来場予定

――eスポーツイベントの今後の展開はどのようにお考えでしょうか。

秦:eスポーツでは、プロもアマチュアも参加できるオープントーナメントもやっていきたいですね。もちろん、プロ選手による興行型の大会も実施したいと思っています。開催地についても、ONEの格闘技イベントと同じくアジア全域に広げていく予定です。

ただ、『鉄拳7』と『ストV』は、それぞれすでにワールドツアーがあります。『鉄拳7』はTekken World Tour(TWT)、『SFVAE』はCapcom Pro Tuor(CPT)ですね。ONE独自の大会にするか、TWT、CPTのなかに取り入れるか、そのあたりについてもメーカーの方々と話し合っていきたいと思います。

国内での展開についてもこれから考えていきますが、もちろん実施していきたいと思っています。2020年は、マーシャルアーツの大会を3~4大会開催することが決まっていますので、それに合わせてeスポーツイベントの開催も考えていきたいですね。地方での開催もあるかもしれません。

――eスポーツを興行として成功させる施策はあるのでしょうか。

秦:施策といいますか、eスポーツにおいても、我々が持っている資産と経験値を最大活用していくつもりです。プロダクション能力、ストーリーテリングの強さ、こういったものを軸として展開していこうと考えています。すでにマーシャルアーツでは日本人選手のアスリートストーリーを作り出せているので、eスポーツも同様にアスリートストーリーを生み出していきたいと考えています。

そのほかの点においては、まだ検討中。すべてマーシャルアーツに寄せていくのではなく、いいところは利用して、独自で展開するべきところは独自のものをつくっていきたいですね。

マーシャルアーツもeスポーツも日本には歴史がありますが、現在我々がやっているマーシャルアーツは新世代、新時代のもの。興行的というより競技的なんです。興行を中心に考えると、マッチメイクは観客が希望するものになりがちですが、競技では同じ土俵でアスリートが戦っていくわけです。

ゲーム文化がこれだけ日本で浸透しているのに、eスポーツになると後手に回ってしまう点は、格闘技と似ているかもしれません。マーシャルアーツに関しても我々と提携している「修斗」や「PANCRASE」は、それぞれ興行を行っていますが、そこまで大きなプラットフォームにはなっていません。競技化はできているんですけど、興行化がそれほどできていない印象です。それをどうやって興行化させるかについても、ONEとして協力できればと考えています。eスポーツも同様。ただ、ONEが押しつけていくわけではなく、人数やリソースをつぎ込み、時間をかけて育てていきたいと思っています。

――最後にONE Championshipの意気込みとファンへのメッセージをお願いします。

秦:いまはとにかくやってみるしかない気持ちです。今回は初めての開催でもあり、将来の方向性を見極める意味でも気合が入っています。

ファンの皆さんには、eスポーツとマーシャルアーツの楽しさ、両者からどんな相乗効果が生まれるか期待してほしいですね。ぜひ、会場の雰囲気を肌で感じてください!

――ありがとうございました!