ミクシィのエンタメ事業を担う「XFLAG」。アニメーション制作やeスポーツ事業など、スマホアプリのリリース/運営以外の分野の活動が目立ち、既存事業だけでなく、新規事業への展開を積極的に行っている印象を受ける。特に、同社が力を注いでいるマーチャンダイジング(物販)やリアルイベント、eスポーツでは、業界を牽引していると言っても過言ではない。それらの事業を一括して運営しているのが、「ライブエクスペリエンス事業本部」だ。

今回は、そのライブエクスペリエンス事業本部長の田村征也氏に話を伺える機会を得たので、XFLAGにおける、リアルイベントやマーチャンダイジング、eスポーツの展開と今後の計画について、話を聞いた。

――まずは、ライブエクスペリエンス事業について、発足の経緯や活動内容を教えてください。

田村征也氏(以下、田村):XFLAGでは、『モンスターストライク(モンスト)』をはじめとするデジタルコンテンツが、売り上げの約9割を占めています。ただし、デジタルコンテンツ(ゲーム)だけを運営していると、楽しみ方が単一的で飽きやすいため、年々コンテンツとしての魅力がシュリンクしていってしまうのではないかと危惧しています。そこで、マーケティング活動の一環として、ゲーム起点でイベントを興して、グッズを販売、配布し、ゲーム以外でもお客様にXFLAGのコンテンツを楽しんでいただける機会を作ろうと考えました。

まずは、2016年夏にゲーム以外の事業を開発する「XFLAG ENTERTAINMENT」を発足。そこで「XFLAG STORE」を作り、マーチャンダイジングの売上を創出することに成功しました。

XFLAG STOREはECサイトだけでなく、リアル店舗もあるのですが、今はそちらの売上が多いのが特徴ですね。“体験”を重視した店舗設計が好評で、ファンが集まる場としても機能しています。遠方のお客さまにも来店していただいていることから、ファンのニーズがあることがわかりました。これが、ライブエクスペリエンス事業本部のベースとなったのです。

  • ミクシィ 執行役員 ライブエクスペリエンス事業本部長の田村征也氏

――最初に実施したイベントは、どんなものだったのでしょうか。

田村:『モンスト』のローンチ1周年のときに行った、ストリーミングの生放送が最初ですね。2014年10月に、六本木のニコファーレで開催したのですが、入場者が30人程度の小規模なものでした。今年実施したXFLAG Parkでは、幕張メッセの1~6ホールを使い、2日間で約4万人に来ていただいたので、4年間で大規模なイベントに成長することができたと言えるでしょう。

参考にするため競合他社のイベントも観に行きましたが、あえて他社とは違う部分を取り入れました。ゲームだけのイベントだと、やはり徐々に規模も来場者も減少してしまうと懸念していたので、ゲームを知らないお客さまでも楽しめるようなイベントづくりを目指したのです。

実際、XFLAG PARKでは、ファン向けの「ゲームショー」と、ライト層向けの「エンターテイメントショー」の2つの方向性で展開。ゲームショーでは当然「モンストグランプリ」などゲームの対戦をステージで実施します。そして、エンターテイメントショーではオーケストラ演奏やダンスなどを披露。今年で言えば、きゃりーぱみゅぱみゅさんのライブや、世界トップクラスのサーカスショーがそうですね。なので、ゲーム系イベントだけでなく、一般的なイベントも参考にさせていただきました。

かなり内容盛りだくさんのイベントにした結果、入場料は昨年よりも値上げをせざるを得なかったんですが、それでも購入申し込み数は伸びていますし、購入倍率は前年比で160%まで増加しました。しかし、値上げ以上に、魅力的なコンテンツを提供できたことが、参加者の高い満足につながったのではないかと感じています。

  • 「XFLAG PARK 2018」のワンシーン。マジックやサーカスのようなパフォーマンスを交えた、きゃりーぱみゅぱみゅさんのライブが行われた。パフォーマーは「シルク・ドゥ・ソレイユ」などにも出演する世界最高峰レベルのメンバーだとか

――実際に私もイベントに足を運んだのですが、会場が広く、さまざまな場所でプログラムが同時進行していたので、すべてを観られないというジレンマもありました。

田村:だいたい3つ、ゲームとゲーム以外のステージを同時に開催して、来場者が時間を持て余すことなく楽しめるように考えました。人によっては興味のないステージもあったと思います。ただ、ユーザーが求めるものだけを提供すると、簡単に飽きられてしまうんですよね。それに、もともと興味のないものでも、「ついでにちょっと観てみよう」とステージを覗いた結果、おもしろくてハマってしまうこともあるはずです。

――『モンスト』系のイベントは、ただのゲームイベントではなく、ほかのジャンルを取り入れることもありますね。「モンストナイト」はその最たる例だと思います。

田村:『モンスト』をきっかけに、ほかのことも体験して欲しいと思っています。「モンストナイト」は、クラブに行ったことがない『モンスト』ファンに、クラブ体験をしてもらおうと考えました。クラブイベントと言っても、昼と夕方の2回制だったので、さまざまな世代にも体験しやすかったと思います。

もちろん、ただのクラブイベントではなく、『モンスト』を絡めたコーナーも用意してあり、ちゃんと『モンスト』ファンが楽しめるイベントとしての大前提は崩していません。

――多種多様なイベントを開催していますが、最近ではeスポーツブームもあり、『モンスト』のeスポーツ化、選手へのプロライセンスの発行など、eスポーツのイベントも増えています。やはり、こちらも今後強化していくのでしょうか。

田村:いろいろなイベントがありますが、例えば「闘会議」では、eスポーツ中心のイベント構成になっています。今年は闘会議で「今池壁ドンズα」と「【愛】獣神亭一門」の2チームに、『モンスト』初のプロライセンスを発行しました。その後開催した「モンストグランプリ 2018 チャンピオンシップ」の地方予選を勝ち抜いた6チームにもプロライセンスを発行。幕張メッセでの決勝大会では、プロ全8チームによるワンデイトーナメントを行いました。

さらに、プロチームの活躍の場を増やすべく、10月13日より「モンスターストライク プロフェッショナルズ2018 トーナメントツアー」を開催しています。これは、プロチームが全国5カ所をツアー形式で回り、成績に応じて付与されるポイント総数の高いチームが年末のファイナルに進出する大会です。

――世間的には今年がeスポーツ元年と言われていますが、『モンスト』自体は数年前から賞金付き大会は開いています。プロ化した現在と以前では何か違いがあるのでしょうか。

田村:おっしゃる通り、『モンスト』のeスポーツ大会は2015年から開催しています。翌2016年の「モンストグランプリ2016 闘会議CUP 決勝大会」で初めて、賞金付きの大会を開催しました。そのときの賞金は総額5000万円で、今でも高額の部類に入るでしょう。ただ、当時は世間的にそれほど響いていませんでしたね。

また、ライセンス発行の経緯としては、2016年から我々が加盟していたeスポーツ促進機構が、2018年にほかの団体と統合してJeSUとなり、そのまま協力体制は続いていたので、JeSUがプロライセンスを発行すると発表した際、これに賛同することにしました。その理由は、プロライセンスの発行によって世間の関心が集まることで、『モンスト』やeスポーツを受け入れやすい土壌ができるのではないかと考えたからです。

そのおかげもあってか、今年に入って『モンスト』eスポーツ関連の動画の視聴数は倍以上になっており、多くの人に観られるようになりました。

――選手がプロ化するうえで、eスポーツ関連の仕事だけで生計を立てられるようになるのが理想だと思います。一発勝負の賞金制の大会だと、すべてのプロ選手が生活できるような収入にはなりにくいと思いますが、そのあたりのフォローはいかがでしょうか。

田村:プロがお金を稼ぐ手段としては、大会賞金以外に、所属チームから得られる給料、個別での契約によるスポンサードなどがあると思います。チームへの参加は個々の判断ですし、こちらからスポンサーの斡旋などはしておりません。ただ、副次的な収入を得ることはプロとして重要なことですので、その機会が増えるようなお手伝いはしていきたいと思います。

例えば、プロチームをどこかのイベントに呼びたいというような場合は、基本的に個別のチームへ連絡していただければと思いますが、XFLAGを介し、チームとイベンターを連携させる手伝いはしたいと思っています。プロツアーの会場では、各プロチームロゴが入ったNEW ERAコラボキャップが展示してありましたが、チームグッズを販売し、チーム毎に売り上げを配布することも検討しています。とにかく、プロ選手が活躍できる場は少しでも増やしていきたいですね。

――eスポーツとしての『モンスト』の、今後の展開はいかがでしょうか。

田村:総括的に言うと、eスポーツの代表的なイメージを作れるような、エポックメイキング的な存在として活動をしていきたい。『モンスト』以外にもいろいろなeスポーツはありますが、『モンスト』の魅力を伝えていきたいですね。例えば、チーム戦であること。しかも、リレー方式で全員が同等の活躍が見せられるのは、ほかにあまりないと思います。それによってドラマが生まれやすくなっているのではないでしょうか。協力しあえるところや、仲間と一緒にがんばれるところなどは、青春的で見ていて楽しくなりますよね。

ほかには、XFLAG STORE SHIBUYAを使って、親子大会やってみるのも楽しいと思います。『モンスト』のプロライセンスは、18歳未満は取得できないので、18歳未満のみが出場できる大会も開いてみたい。家族全員が応援できるようなイベントになればいいですね。18歳未満に賞金を出すのはちょっと考えどころですが、奨学金とかそういう形で援助できればいいかもしれません。

また、ライブエクスペリエンス事業本部とは別ですが、ミクシィではプロサッカーチーム「FC東京」へ出資や、プロバスケットボールチーム「千葉ジェッツ」のスポンサードも行っています。なので、リアルスポーツと連携して何かやっていきたいですね。