NECと北原病院グループ(KNI)、Kitahara Medical Strategies International(KMSI)は7月9日、都内で記者会見を開き、KMSIの会員制医療・生活サポートサービス「北原トータルライフサポート倶楽部」の会員を対象に各個人が受けたい医療や希望する生活に関する意思を取得・保管し、必要時に提携医療機関に提供することで救急医療などに活用可能なシステム「デジタルリビングウィル(DLW)」の実証を7月から開始したと発表した。

実証を通じて救急医療受け入れ時における生体認証による本人確認や事前同意を踏まえた医療行為の提供などに関する効果検証を行う。なお、医療分野において顔画像や指静脈・指紋による生体認証を用いた本人確認を活用した実証計画の認定は初となる。

北原病院グループ 理事長の北原茂実氏は「日本は少子高齢化も問題ではあるが、社会そのものが高齢者の独居世帯に対応していない。2030年には東京の全世帯の30%が高齢者の独居世帯となり、年々拡大していく。一人暮らしの高齢者が自宅で意識を失った場合、大半の医療機関では救急搬送の受け入れを、既往歴や承諾書の記載などの必要性があることに加え、受け入れて治療した場合でも亡くなってしまった際に引取先がないため拒否していることがある。昨年だけでも引取先がない遺体は3万5000体に達し、それが今の社会だ。そして、昨今ではガンと診断されたときに延命治療を拒否する人もおり、病院の利益率は減少している」と指摘。

  • 北原病院グループ 理事長の北原茂実氏

    北原病院グループ 理事長の北原茂実氏

これらを解決するために各個人の意思を事前に取得・保管し、必要時にこれを提携医療機関などに提供して活用する仕組みと、それらを支える制度基盤が重要だという。これまでKMSIは少子高齢化や社会保障財源の枯渇の中で医療・社会の機能を維持するためのモデル「八王子モデル」を提唱するとともに、昨年3月からは北原トータルライフサポート倶楽部(現在の会員数は50人、実証後には300人を計画)を提供している。

同サービスは登録された会員の意思情報・医療情報・生活情報をもとに包括的な生活サポートを提供し、加入時に自身の健康状態から想定される医療行為や突然の事故、病気の際の緊急処置などさまざまな状況に応じて、最も望ましい対応(検査や治療の承諾、延命治療の有無など)を登録しておくことで、実際に病気になった際などに協力医療機関での速やかな対応を受けることが可能だという。

医療行為はKNIが提供し、同サービスでは基本健診パックなどの医療・介護サービスに加え、オプションサービスとして「医療相談(コンシェルジュ)サービス」「自費リハビリテーションサービス」「生活支援サービス」「終活サポートサービス」などを提供するほか、サービスの費用や医療費の支払いをキャッシュレスで可能とするサービス「トータルライフサポート信託」が別途、三井住友信託銀行の提供で利用できる。

今回の実証では、同倶楽部の会員を対象に医療機関の救急医療受け入れ時において、生体認証を用いた本人確認の円滑、安全な実施、DLWに登録された本人意思の確認、および救急医療などの効率的・効果的な実施について確認する。

  • 「デジタルリビングウィル(DLW)」の実証イメージ

    「デジタルリビングウィル(DLW)」の実証イメージ

Kitahara Medical Strategies International 取締役/事業推進本部 本部長の浜崎千賀氏は、DLWのコンセプトについて「情報や医師を登録する情報貸金庫サービスであり、すべての会員が生体認証を鍵とした個人ページを持ち、各会員の情報や希望を登録する『意思』を核としたサービスだ」と説明する。

  • Kitahara Medical Strategies International 取締役/事業推進本部 本部長の浜崎千賀氏

    Kitahara Medical Strategies International 取締役/事業推進本部 本部長の浜崎千賀氏

DLWシステムの確立に向けて新技術実証の必要性があり、将来医療の事前同意や生体認証による個人認証などの医療法関連、救急医療での生体認証の活用と病院・企業間の個人情報共有をはじめとした個人情報保護法関連をはじめ、制度課題を整理し、既存の規制の適用を受けることなく技術実証を行うため「新技術等実証制度」(「規制のサンドボックス制度」)の認定を6月28日に取得しており、同制度を活用する。

  • DLWを確立するために「新技術等実証制度」を活用する

    DLWを確立するために「新技術等実証制度」を活用する

すでに実証実験は7月1日から開始しており、期間は2020年6月30日までの1年間、実施場所はKMSI、KNI、八王子市内の提携医療機関(1~3カ所程度)。参加者は北原トータルサポート倶楽部会員で規制のサンドボックス制度による実証の説明を受け、協力することに同意した人、救急搬送された会員以外の患者で生体認証データの検証が必要として依頼した人のうち同意した人、規制のサンドボックス制度による実証の説明を受け、協力することに同意した提携医療機関となる。

生体認証を用いた本人確認はNECの生体認証「Bio-IDiom」の顔認証や指静脈・指紋認証を組み合わせる。

  • DLW活用のイメージ

    DLW活用のイメージ

NEC 執行役員常務の中俣力氏は「本人の意思をセキュアに守り、適切に取り扱うことが肝となる。北原トータルサポート倶楽部の会員は本人意思と、顔や指紋、指静脈をはじめとした生体情報などを鍵として登録し、医療機関は有事の際に搬送された患者の生体情報を鍵に情報を引き出す。生体情報で本人確認することで、自己申告の既往歴や生活歴、本人の意思を確認した上で治療を開始することが可能だ」という。

  • NEC 執行役員常務の中俣力氏

    NEC 執行役員常務の中俣力氏

将来的には、同システムが社会実装されることにより、患者の受けたい医療や希望する生活を守ると同時に、救急医療現場での迅速かつ適切な医療提供や医療従事者の負担軽減を目指す考えだ。