NTTぷららが国内最大級の映像監視センターを東京都内に開設。約580の送出チャンネルを抱えます。本格稼働が始まる機会に、記者を集めて見学会を開催しました。

新施設の名称は「NTTぷらら メディアオペレーションセンター」。記者会見では、NTTぷららの代表取締役社長である板東浩二氏が映像監視事業を強化する理由を説明しました。

  • NTTぷらら メディアオペレーションセンター

    「NTTぷらら メディアオペレーションセンター」の内部が特別に公開されました

NTTぷららでは、映像配信の事業を開始した2004年から、映像監視センターを設けて主にBtoC向けサービスを行ってきました。その後に自社の動画配信サービス「ひかりTV」も始まり、やがて法人からも映像監視業務に対する引き合いが徐々に増えてきたそうです。そこで今回、業務体制の効率化を促進するために、大規模なメディアオペレーションセンターを構築したというわけです。

新しいメディアオペレーションセンターの広さは約150平米。映像監視用モニターの数を従来施設の約4倍に増やし、90名以上のスタッフが365日・24時間、シフトを組んで常駐しながらオペレーションを回しています。

  • NTTぷらら 代表取締役社長 板東浩二氏

    NTTぷららの戦略を語る板東浩二氏

監視しているコンテンツはNTTぷららのひかりTVだけではありません。例えばNTTドコモの動画配信「dTV」、NTTコミュニケーションズが提供するスポーツ専門動画配信のDAZN(ダゾーン)など、他社サービスの監視・オペレーション業務も受託しています。

板東氏は「お客さまからの問い合わせに応じて、当センターを見学いただける機会を設けています。コンテンツの製作と配信プラットフォームは自社で持っているが、監視業務を任せられるパートナーが欲しい、あるいはすべてのオペレーションを任せたいという、どちらのお客さま要望にもお応えできます」とアピールしています。今回、NTTぷららが記者向けの見学会を開催した背景にも、周知を強化する狙いがあります。

今回の見学会では、通常は公開していないオペレーションセンターの内部にも入ることができました。広々とした部屋の壁面には約700枚のディスプレイが並び、ひかりTVが配信するIP放送の全チャンネルを一斉にリアルタイム表示しながら、配信する映像に発生するノイズや無音状態、ブラックアウトなどのトラブルにスタッフが目を光らせています。

  • 複数のコンテンツを同時に監視するため、壁面に約700台のモニターが並んでいます

なお、ひかりTVでは、全国20都道府県に地上デジタル放送のIP再放送(放送番組をインターネットのIP技術を使ってリアルタイムに提供すること)を行なっています。NTTぷららではインターネット動画配信だけでなく、この地デジ放送についても、全国複数の地点を設定して監視できる体制を敷いています。

映像監視業務の一部には、スタッフがテレビモニターをにらみながら、リモコンでチャンネルを頻繁に切り替えつつ映像・音声の出力品質をチェックという、聞けば気が遠くなるようなタスクも含まれていたそうです。近年はロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)を導入して、いわゆるAIによる画像認識技術を活用したトラブルの自動判定に置き換わっています。これによって、スタッフの負担が軽減し、作業効率を向上できたそうです。

こうした品質確認作業の実施間隔が短縮されることで、映像配信のトラブルを発見する精度とスピードが高まり、良質なサービスの維持が達成できるのだと、NTTぷらら 取締役 技術本部長の永田勝美氏が見学会の壇上で述べていました。

  • NTTぷらら 取締役 技術本部長 永田勝美氏

    メディアオペレーションセンターの取り組みを語るNTTぷららの永田勝美氏

ちなみにNTTぷららでは、映像そのものをチェックすること以外にも多彩な監視方法を採り入れてサービスの品質維持を図っています。例えば、利用者のために設けているコールセンターに入ってきた問い合わせで、視聴トラブルに関連するとみられる相談内容の中から「エラー」「接続不良」「できない」などのキーワードをログ情報として抽出・記録。一定の時間内に多数寄せられた場合は、これを「異状発生」とみなして調査をかけます。

コールセンターが営業している午前9時から午後19時以外の時間もカバーできるよう、同様にツイッターなどSNSに上がってくるキーワードのログチェックも行っているそうです。また、BS放送のアンテナは雨に弱いため、大阪と東京で予想される雨量を天気図から読み取って故障を早期に回避する体制も敷かれています。センターの中には、これらのデータをグラフ化して表示する専用モニターがあります。

  • NTTぷらら メディアオペレーションセンター

    コールセンター、SNSのログを記録してグラフに可視化。確認するための専用モニターも設置されています

パブリックビューイングも

スポーツや音楽ライブなど、パブリックビューイングを含む生中継の映像配信も、近年は特にニーズが増えているそうです。NTTぷららのメディアオペレーションセンターは、合計で最大20個のライブイベント中継の監視をさばけるキャパシティを擁しています。NTTぷららのスタッフは、DAZNの映像監視業務を受注後、年間1,000件前後のスポーツイベントのライブ配信をこなしてきたといいます。

そうしたノウハウの蓄積を活かしながら、今後もオペレーションの質を高めてライブコンテンツ系の監視業務を多く受注していきたいと、板東氏がコメントしています。NTTぷららでは、放送中の映像にトラブルが発生していないかを監視するだけでなく、イベント会場へ機材を搬入する準備段階から業務の進捗管理表(マニュアル)を作成して、全作業員が等しく質の高い業務を効率よくこなせる体制も整えています。

NTTぷららはNTTコミュニケーションズの傘下にある企業ですが(本稿執筆時点の2019年5月時点)、2019年7月からは映像関連事業のさらなる強化を図るため、改めてNTTドコモの傘下となって協業を進めることが決まっています。

  • 5G時代の映像配信に向けた取り組みを強化するために、2019年7月からNTTドコモのグループ傘下にNTTぷららが加わります

板東氏はその経緯を振り返りながら「今後のコンシューマー向け映像配信ビジネスの中心は、スマホなどモバイル利用が中心になるとみています。NTTドコモが5Gの商用化を進めるにあたり、キラーコンテンツの提供が必要になるという背景から、NTTぷららはドコモグループの中で共に事業を進めてシナジーを高めていきます。新しいマーケットの創造を実現したい」と意気込みを述べています。

5Gの商用化後には、高速・大容量のトラフィックをさばける通信インフラを活かして、スマホやタブレットでも4Kの高精細な映像、あるいは3Dサラウンドの音声情報を伴ったリッチコンテンツの配信サービスに各社が乗り出すはず。そのときに、ただデータを通すための道路を拡張するだけでなく、安全走行を維持するために保守点検の体制を充実させることも、等しく大事であるということです。

今回、記者に向けて公開されたメディアオペレーションセンターでは、NTTドコモとの協業による映像配信サービスの監視を行うことになりますが、NTTぷららとしても独自に顧客開拓を進めていく考えであると板東氏が繰り返し強調していました。

  • NTTぷららはBotC、BtoBの両方に対して、今後の新たな映像配信ビジネスの可能性を広げていきたいと板東氏が語っています

板東氏は今後の映像配信コンテンツの広がりについて、次のように期待を込めて語りました。

「AIや5Gへの対応が進み、ますます高度化すると考えています。VR、ARなど、仮想現実の技術を活かした没入体験型のコンテンツもそのひとつ。AIを活用したパーソナライゼーションの技術も、そこに組み込めると考えています。

ユーザーが手もとの端末で楽しむスタイルだけでなく、パブリックビューイングや商用利用的なものも視野に入れながら、安心して楽しめる映像配信の基盤となる監視業務の品質確保に努めて、NTTぷららならではの先進性を打ち出していきたい」(板東氏)

映像配信サービスの高度化に合わせて、バックヤードの設備や技術も日々進化を遂げていることを筆者も実感した次第です。