国立天文台や中国国家天文台などで構成される国際研究チームは4月30日、すばる望遠鏡の観測により、天の川銀河(銀河系)の誕生と成長の過程で合体してきた小さな銀河の痕跡といえる重元素を多量に含むという特徴的な元素組成を持つ恒星を発見したと発表した。
同成果は、国立天文台 TMT推進室の青木和光 准教授(総合研究大学院大学 准教授)、同 松野允郁氏(総合研究大学院大学 五年生)、兵庫県立大学の本田敏志 准教授、東京大学 カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)の石垣美歩 特任研究員(研究当時)らによるもの。詳細は英国の天文学誌「Nature Astronomy」に掲載された。
恒星の小さな集団(矮小銀河)は、恒星の元素組成の関係から恒星の誕生が比較的ゆっくり進むと考えられており、実際の天の川銀河周辺の矮小銀河でも、マグネシウムと鉄の組成比が天の川銀河の多くの恒星とは異なる特徴を示すことが知られている。
研究チームはこれまでの観測から、400天体以上の金属元素量の比較的少ない恒星の元素組成を測定。今回の観測では、その中の一天体「J1124+4535」がマグネシウム/鉄比が低いことに加え、鉄より重い元素が相対的に多いことを突き止めたほか、そうした重い元素は、爆発現象のなかで一気に起こる元素合成でできる(r-プロセス)ことも突き止めたという。実際の同恒星の鉄組成は、太陽の約20分の1、マグネシウム組成は約40分の1であったが、ウランや金などとならんでr-プロセスでつくられる元素の1つで、比較的観測しやすいため指標として用いられるユーロピウムは太陽組成に匹敵するほどであったという。
このような組成の恒星は、天の川銀河では初めてみつかったとするが、良く似た組成を持つ恒星は、天の川銀河をとりまく矮小銀河のなかに数例ほど見つかっているとのことで、今回の観測は、そうした矮小銀河のなかで生まれた恒星が、銀河形成の過程で天の川銀河に取り込まれてきたことを示すものとなると研究チームでは説明している。
また研究チームでは、今回見つかった恒星は、現在生き残っている矮小銀河の星のなかで金属元素量の比較的多い恒星とよく似ているともしており、これは矮小銀河がある程度時間をかけて進化した後に、天の川銀河に合体したことを示すものであり、天の川銀河の渦巻状の円盤構造を大きく取り囲んで恒星がまばらに存在している「ハロー構造」の形成過程では、矮小銀河の衝突・合体がある程度の期間継続していたことを意味するもので、現在想定されている銀河形成のシナリオを裏付ける結果と言えるとも説明している。
なお、研究チームでは、r-プロセスでつくられる重元素だけを多量に含む恒星がどのように生まれてきたのか、という点については依然として謎としており、その謎を解くことが、矮小銀河のなかでどのように恒星がつくられてきたのか理解するうえで重要な課題の1つとなってくるとしている。