GPUなしの「F」モデルが増えたわけ

では第9世代Coreで「F」モデルが投入された理由は何か? ここからは完全に推測であるが、おそらく現在の14nm++のYield(歩留まり)は当初よりも相当悪化していると考えられる。

Photo01に戻ると、Kaby Lake世代では、GPUコアの面積比率は4割近くになる。もしYieldが相当低ければ、Kaby LakeでもGPUなしの製品がボコボコ出てきても不思議ではない。

だがそんな話はKaby Lake世代も、続くCoffee Lake世代も全くなかったわけで、このころはYieldが結構高く、GPUコアに欠陥があるダイは破棄しても問題ないレベルだったと考えられる。

しかし、Coffee Lake Refresh、つまり一番下の第9世代Coreになると、GPU部に欠陥があるダイも「F」モデルとして救わなければいけない程、需要が逼迫しているということだ。

もしYieldが十分に高ければ、Fモデルを突如追加したところで、増やせるダイの数は限られている。ということは、Fモデルの追加がそれなりに効果的になるくらいYieldが悪化している、というのが正直なところではないかと思う。

急ピッチの増産が歩留まり悪化の原因?

なぜYieldが悪化したかといえば、これはおそらく増産のためだろうと想像される。Intel Core i9-9900Kのレビューでも書いたが、今回の14nmの追加投資は、おそらく建物の増強は含まれていない。

新規に建築を始めるとそれだけで半年やそこらは軽くかかってしまう(普通は年単位)。一般論としてどこのFabも、建屋の中に将来の拡張用のスペースを設けておくのは普通であり、今回は各Fabのそうしたスペースを利用して製造装置を増強したものと思われる。

ただ、増強を行っても何しろ「Copy Exactly」(Intelは製造に成功した環境をベースとして、半導体製造装置のリビジョンや装置の位置などほかのラインにも完全にコピーする戦略を採っている)を厳密に行うためには、さらに数カ月の期間が必要になる。

おそらく今回、このCopy Exactlyに関して厳密に実施する時間がなく、「そこそこの」調整で量産に入らざるを得なかったのではないか? と筆者は考えている。

こうなると、当然ながらスループット(生産量)そのものは上がるが、Yieldは落ちる。つまり短期的にはスループットを優先して、その分Yieldの悪化に目をつぶっているのが現状ではないか。

通常モデルと「F」モデルで価格が変わらないわけ

こう考えると、GPUなしモデルとGPUありモデルで値段が変わらない理由もわかる。Yieldに関しては、時間をかけて調整をすれば、設備増強前とそう変わらないレベルまで高めることは可能だろう(それが2019年中に出来るのか、2020年以降までかかるのかは不明だが)。

そうなった場合、「F」モデル(つまりGPUなしモデル)は、ちゃんと稼働するGPUコアを無効化して出荷するという形態になると思われる。もし「F」モデルの値段を下げて提供していると、今後Yieldが高まった時に収益性が悪い。何しろちゃんと稼働するGPUコアを無効化して出してるわけで、原価としてはGPUコア付きと変わらないことになるからだ。

そもそもIntelは今後も長期的にFモデルを供給したいわけではなく、Yieldが高まったらFモデルはさっさと中止にしたいだろう。Fモデルに人気が集まるような状況は好ましくない。そこで、あえてFモデルの値段は下げずに出しているのではないか、というのが筆者の推測である。

ただこの推測が正しいとすると、第2四半期はもとより第3四半期もまだ14nmの供給逼迫は続きそうだ。仮にIce Lakeがものすごく立ち上がりが良く、かつ当初からバンバン量産が可能になるなんてことがあれば、Core/Pentium/Celeron系の供給を10nmメインに切り替えられるから逼迫は緩和されるだろうが、そこまで楽天的に考えられるべき理由がいまのところない。Intel自身も「2019年中の改善」という姿勢は崩していない。

あとは量産をかけながら、どれだけ早くYieldを改善できるかにかかっている。まぁ2019年第3四半期も逼迫状況の大きな改善は期待できそうにない。あとは10nmプロセス製品がいつ、どのくらい順調に立ち上がるか次第という感じだろう。