リコーの超小型プリンター「RICOH Handy Printer」が注目を集めています。製品名の通り、手のひらサイズのインクジェットプリンターで、紙など印刷したいものの上に本体を載せて水平に動かすだけで印刷できるユニークな構造が特徴。段ボール箱や厚い封筒など、一般的なプリンターでは給紙できないものにも印刷できることから、SNSでは「どこにでも印刷できる夢のアイテム」と評価する人もいるほどです。

  • リコーの超小型プリンター「RICOH Handy Printer」

    リコーが4月17日に販売を開始した、どこにでも印刷できる超小型のインクジェットプリンター「RICOH Handy Printer」。「テプラ」のようなラベルシールとは異なり、印字の紛失や改ざんを防げるメリットを持つ。家電量販店での実売価格は税込み5万5000円前後。カラーは写真のレッドのほかに、ホワイトとブラックの3色を用意する

どのように使うのか、従来のプリンターではできなかった楽しい使い方は何なのか、印刷できないものは存在しないのか、個人で買う価値はあるのか、実機でレビューしてみました。

本体はとにかく小さく軽い

RICOH Handy Printerは、懐かしのファミコンカセットを3つ重ねたぐらいのサイズ感で、予想以上にコンパクト。この中に、インクカートリッジやバッテリー、Bluetooth機能などが収まっており、専用アプリを導入してスマホやパソコンとBluetoothで接続すれば完全ワイヤレスで印刷できます。

  • RICOH Handy Printerの本体は、ファミコンカセット3つ分ほどの大きさしかない。重さは、インクカートリッジ込みで約315gと、アップルの小型タブレット「iPad mini」ほどの軽さだ

専用のインクカートリッジはヘッド一体型となっており、本体底面を開いて装着します。インクは顔料ブラックのみで、カラー印刷には対応していません。ちなみに、専用インクカートリッジの実売価格は税込み5,400円前後と、かなりお高めなのは気になります…。

  • 本体をガバッと開けると、内部にインクカートリッジが鎮座している。本体の容積の大半はインクカートリッジで占められている…といえるほど

  • 税込み5,400円もするインクカートリッジ。文字はインクの消費量がそれほど多くないので、文字を中心に印刷している限りはそうそうカラにはならなさそう。ただし、インクヘッドの乾燥には留意したい

底面のローラーのおかげで文字は曲がらずに済む

印刷は簡単で、スマホの専用アプリで印刷したい文字を入力して印刷ボタンを押し、RICOH Handy Printer上部の細長い印刷ボタンを押しながら本体を右にスライドさせるだけ。底面に搭載された4つのローラーのおかげで、本体が横方向にしか動かない構造になっており、ゆがまずに印刷できます。例えていうなら、トミカなど4輪ミニカーの底面にインクヘッドが付いている、という感じでしょう。文字サイズは最小6ポイント、最大では32ポイントまで大きく印刷でき、2行以上にわたる印刷にも対応します。

  • プリントは専用アプリ経由に限られる。スマホ用アプリは、現時点ではAndroid版のみ用意されており、iOS版は後日提供開始となるのが残念なところ

  • 底面には4つのローラーが搭載されており、上下には曲がらず水平に動くようになっている。ヘッドの下には、光学式マウスと同様のセンサーが備わっており、動きを正確に把握するようになっている

  • 本体側面の透明な部品を引き出せば、プリントの際の目安になる

  • 文字をプリントアウトしたところ。基本的な文字装飾が可能で、フォントもいくつか用意されている。このサンプルでは、3回に分けて1行ごとにプリントアウトした

大きな画像を印刷する場合は、いったん保護カバーを装着し直し、底面にあるスライドスイッチを「本体を自由な方向に動かして画像を印刷するモード」に切り替えてから保護カバーを取り外します。すると、底面にパーツがくっついてローラーの働きを無効化し、RICOH Handy Printerが自由な方向に動かせるようになります。あとは窓拭きをするようにRICOH Handy Printerを動かせば、大きな画像も印刷できる仕組み。とはいえ、白いスジが出てしまうことが多く、きれいに印刷するのはかなり難しいと感じました。

  • 本体底面のレバーを動かすと、底面のローラーの働きを無効にする役目を持つ部品がはめ込まれ、RICOH Handy Printerをを上下左右自在に動かせるようになる

  • 画像をプリントしたところ。かなり慎重に動かしたつもりだが、慣れないとこのような白いスジが豪快に出てしまう

よく練られて作られた印象を受けるプリンター本体に対し、アプリはまだまだ簡素な作りだと感じます。「日付や時間を自動的に入力」「連番を自動で入力」といった付加機能や、印刷時の大まかなサイズが数値で確認できる機能など、使いやすさを高めるプラスアルファの機能が欲しいと感じました。このあたりは、今後のアップデートに期待したいところです。

フラットならば木材にも印刷できる

先ほどのプリントはすべてA4普通紙を利用しましたが、普通紙ならばあえてRICOH Handy Printerを使う必要はありません。そこで、RICOH Handy Printerならではのユニークな使い方ができないかを試してみました。

まず便利だと思ったのが「付箋紙」。自分の名前や日時の記入欄をプリントしておけば、伝言メモを作成する際に便利になります。名前はアプリで簡単に変更できるので、オフィスなどではさまざまなメンバーで共有できるでしょう。

  • 付箋紙に必要事項を記載して伝言メモを作成。同様の内容が押せるハンコもあるが、所属や氏名を柔軟に変更できるのは本機ならではのメリット

名刺などのカードに文字やQRコードを加えるのにも使えると感じました。会社から支給された名刺には個人用のケータイ番号やメールアドレスの記載はないが、できれば書き加えておきたい…と考える人もいるでしょう。いちいち手書きで加えたり、特注でハンコを作ることなく、サッときれいに書き加えられるのは便利だと感じます。

  • 名刺にQRコードを印刷したところ。さまざまな用途で便利に使えそう

5月1日に元号が「令和」に変わることを受け、平成の元号を打ち消して新元号を書き加えるハンコが特需になっていますが、RICOH Handy Printerがあれば複数のハンコを用意することなくどのようなフォーマットにも対応できます。

  • 「平成」を打ち消して、脇に「令和」を印刷するのもカンタン

垂直にした状態でもプリントできるので、積み重ねた段ボールの側面にもプリントできます。メーカー的には、倉庫などの業務用途でこのような使い方を見込んでいますが、個人でも収納用の段ボールに入れたものが何かをサッと印刷しておくと便利でしょう。

  • 収納用の段ボールにメモを記載してみた。RICOH Handy Printerは垂直に構えても問題なくプリントできる

意外に使えるなと思ったのが、木材への印刷です。インクはそれほどにじまず、文字もしっかり読み取れます。ハンドメイドマーケットなどで自分の木工作品を販売する人などは、ワンポイントで名前やロゴを印刷するのに使えるでしょう。印刷した文字に合わせて凹みを加えれば、焼き印的な仕上げにできるかもしれません。

  • 木材に文字をプリントしてみた。文字に合わせて凹みを加えれば、焼き印的な仕上げにできそう

残念ながら、金属やプラスチック、ビニール類はインクがしみこまないため、指でこすると簡単にインクが取れてしまいます。これらの素材に文字を加える際は「テプラ」などのラベルプリンターに頼る必要がありそうです。

「GR」のような存在になるか

RICOH Handy Printer、スマホ用アプリのデキがいまひとつの印象を受けましたが、ハードウエアは小型軽量ながら完成度が高く、アプリの改良で機能や使い勝手がさらに高まることが期待できます。すでに購入した人だけでなく、購入を検討している人もメーカーに意見を述べてほしいと感じました。

同じリコーの高画質コンパクトデジカメ「GR」は、ユーザーの意見をもとにメーカーが製品づくりや改良を進め、熱心なファンに愛される人気モデルになりました。RICOH Handy Printerも、GRのようにユーザーに育てられていく製品になるかもしれません。