iPhoneの急減速が報じられたAppleの2018年第1四半期決算。しかし、「iPhoneだけが突出して悪くなってしまった」という状況であり、それ以外のカテゴリーは好調だったのだ。

決算に関する前回の記事でも触れたが、好調なのはカテゴリーの再編を伴いながらも前年同期比で19.1%の成長を遂げたサービス部門だけではない。Mac mini、MacBook Airを投入したMac部門は74億1600万ドルを売り上げ、前年同期比で8.7%増となった。さらに、2018年秋に投入した新型iPad Proに大きな注目が集まったiPad部門は67億2900万ドルで、実に16.9%増と大幅な成長となった。

  • 新型iPad Pro

    薄型化や大画面化、新しいApple Pencilへの対応が評価されている新型iPad Pro

Appleが顧客の求める新製品を投入した際の爆発力ある反応を久しぶりに目の当たりにした印象だ。生活必需品として進化の速度が鈍化し、これに合わせて買い換え周期も長期化しているiPhoneとは対照的に映る。

そして、現在Appleのなかで最も急激な成長を遂げているのが、ウェアラブル・ホーム・アクセサリ部門(Wearables, Home and Accessories)だ。売上高は73億800万ドルで、Mac部門と同等水準の売上高を誇り、前年同期比では33.3%増となった。Apple Watch、AirPods、Beats製品を含むウェアラブルデバイス単独では50%の成長を継続している。AppleのCFOを務めるLuca Maestri氏は「ウェアラブル単独でFortune 200企業規模になった」と説明した。

脱iPhoneを図るApple、Macに回帰

もともと、Appleは「Apple Computer」と名乗っていた通り、コンピューターを主力として始まった会社だ。Macは引き続き健在で、先述の通りiPhoneに次ぐ製品カテゴリーとなっている。しかし、iPhoneとMacについて面白い視点を持っている役員もいる。

ファッション誌Vogue Businessのインタビューに答えたリテール担当シニアバイスプレジデントのAngela Ahrendts氏は、「iPhoneはナンバーワンのApple製品であるが、Apple StoreではMacについてより深く扱っていく」と発言していた。これは、ビジネス構造からすれば意外なことだが、iPhoneに比べてより多くのことを実現できる点で、Macのほうが深掘りのしがいがあることも事実だ。

今回の決算でも示したように、Macの売上高の上昇にはまだ可能性があり、Apple Storeという拠点でできることが数多く残されていることを物語るエピソードといえる。

AppleはiPhoneに注力するあまり、2016年ごろから「Mac軽視」の批判を浴びるようになっていた。実際、2016年10月まで主力のノート型MacであるMacBook Proのフルモデルチェンジは行われてこなかったし、最も人気のあるMacBook AirがRetinaディスプレイを搭載してフルモデルチェンジするまで実に8年もの歳月を要した。

  • 待望のRetinaディスプレイを搭載し、2018年秋に満を持してフルモデルチェンジしたMacBook Air

現在アップデートが行われずに残っているのはMacBook、iMac、Mac Proの3モデルだ。2019年は効果的なタイミングであり、これらのMacについてもモデルチェンジが行われることになるはずだ。

ウェアラブルとホームに注目

2019年の決算から新たな名前が与えられたウェアラブルとホームのカテゴリーは、Appleの決算資料のなかで最も注目すべき領域となる。ウェアラブルだけで前年同期比50%増となっているが、ホームについてもTim Cook CEOが近い将来のオリジナルコンテンツ配信への参入を口にしたことから、そのコンテンツ配信のためのデバイスとして成長が期待できる。

AppleはすでにApple TVで、ケーブルテレビチャンネルへのシングルサインオンや、ケーブルサービスのストリーミングやアプリへの置き換えなどに取り組んできた。また、Amazon Prime Videoのアプリを配信し始めるなど、セットトップボックスとしての汎用性も高めている。

2018年2月に発売したHomePodは、ホームカテゴリーのなかで必ずしも大きな成功を収めているとはいえない。同じオーディオ製品であるがウェアラブル製品に属するAirPodsは、いまだ作れば作るだけ売れていく状態を維持しているのとは対照的だ。利益警告の投資家向けレターでも、HomePodは製品数の増大でニーズに応え切れていない製品となっていた。

  • 海外では販売開始から1年が経過したHomePod。日本での発売は未定のままとなっている

AirPodsは、発売からすでに2年以上が経過しており、競合製品も技術的な面で追いついてきたことは過去の連載で指摘してきた。iPhoneとの組み合わせを前提とした製品ではあるが、9億台ものアクティブインストールベースを抱えるiPhoneを対象としたビジネスとして、引き続き有望な存在であることに変わりない。

Apple IDを屋台骨とするビジネス展開へ

Appleは以前から、顧客の情報から収益を上げるようなことはしない、とFacebookやGoogleに対して批判的な考えを示してきた。プライバシーとセキュリティは、Apple製品を選ぶ大きな理由になりつつあり、個人ユーザーだけでなく企業ユーザーならばなおさら大きな選択の動機になる。

Appleは、Apple IDを用いてこれらの情報を安全に格納したり、暗号化されたコミュニケーションのサービスを提供している。今後、金融や健康、スポーツだけでなく、医療やパスポートなどのより重要度が高いアイデンティティに関わる情報を扱うことも目指していくことになるだろう。多くの人にとって、Apple以外のベンダーに任せにくい領域となり、唯一の選択肢となる可能性が高いとみている。

そうした情報がAppleに集まるとしても、顧客の情報から収益を上げることはしない、という大前提は守られることになるだろう。しかし、アプリ開発者やさまざまな企業、あるいは国家などの組織は、Apple IDの環境に頼ったセキュアなサービスを展開していくことが期待できる。

Appleは間接的ながら、30%というApp Storeの手数料という形で大きな収益を上げることができ、プロダクトやサービス以上に利益率の高いビジネスに成長する可能性がある。いかにスムーズにアプリ開発者を取り込めるか、安全性を保ちながらできることを広げていくか、というプラットホーム発展への期待を寄せることができる。