筆者は2016年秋にAirPodsを手に入れ、毎日使用してきたが、2年間毎日充電と放電を繰り返してきた結果、5時間だったはずのバッテリー持続時間が2時間ちょっとしか持たなくなってしまった。

そのため、2018年秋に同じAirPodsを買い直した。Apple製品に限らず、こうしたデバイスでまったく同じ製品を2度も購入したのはこれが初めてだ。AirPodsは2年以上も製品のアップデートがないが、結果的に他の製品がAirPodsに追いついていないことが原因ともいえる。

  • 完全ワイヤレスイヤホンの分野において、AirPodsは2年以上もアドバンテージを保ち続けた

AirPodsは、左右それぞれがスマートフォンと独立して通信する完全ワイヤレスイヤホンとして、他社に対して技術的に2年間のアドバンテージを実現していた。しかし、2018年秋にはAirPodsと同等の通信が実現できる技術が確立され、2019年にはより活発な競争が繰り広げられることになるはずだ。

この2年間、AppleがAirPodsについて何もしてこなかったわけではないだろう。2019年もしくは2020年にAirPodsの新版を登場させ、新たな機能を追加してくると、筆者を含む多くのジャーナリストやアナリストが考えている。

では、AirPodsはどのような製品に生まれ変わろうとしているのだろうか。

AirPodsのミッシングピース

AirPodsは、iPhoneに付属する標準イヤホン「EarPods」をワイヤレス化した製品だ。つまり、EarPodsが耳に合わないという人にとっては、AirPodsも耳に馴染まないことになる。

しっかりとした装着感と遮音性を実現するカナル型の製品としてはビーツの「Beats X」があるが、AirPodsとは異なりネックストラップで左右が結ばれており、よりスポーティーなイメージを与える。

また、ゼンハイザーの「MOMENTUM True Wireless」やボーズの「SoundSport Free wireless headphones」のように、カナル型で音質によりこだわった製品も登場している。

AirPodsも満足できる音質を達成しているが、さらなる音質の追求や、これに関連する装着感や遮音性といった面で競合製品と比べると、いささか競争力に欠ける。ソニーの「WF-SP700N」のように、完全ワイヤレスイヤホンでありながら、IPX4相当の防滴対応とノイズキャンセリング機能を備えている製品も登場している。

  • ソニーの「WF-SP700N」。実売価格は税込み1万8000円前後

完全ワイヤレスイヤホンの競争激化によって、単純に選択肢が増えるだけではなく、機能面、デザイン面でより多くの製品が比較対象として挙がってくることになる。

AirPodsが維持する競争力

競合が増えていくなかでも、すでにAirPodsが備えていて維持される競争力もある。それは、バッテリー持続時間の長さとAppleデバイス間でのペアリングの簡単さだ。

AirPodsは、完全ワイヤレスイヤホンのなかでは非常に小さくスマートなデザインながら、5時間という最大限に長いバッテリー持続時間を実現している。

また、ケース内のバッテリーと組み合わせて24時間の再生時間を実現している点も、競合のなかでは最も長い部類に入る。これは、Appleが開発するW1チップの効率性と、デザインの中で最大限のバッテリー容量を確保するエンジニアリングのたまものだ。

  • ケース内のバッテリーを併用すれば、24時間もの再生が可能になる

同じくW1チップによって実現しているペアリングの簡単さや、複数デバイスでの接続情報の共有も、他社の通常のBluetoothオーディオを用いたワイヤレス接続では実現できないAirPodsやBeats製品のアドバンテージとなる。

これらの競争力は、次世代のAirPodsで維持されるか、さらに強化されることが期待できる。

いかに競争力を強化できるか?

AirPodsの次世代版に期待されているのは、新たに追加される機能だ。すでに、Appleが新機能をアナウンスしているものもある。Appleは、2017年9月に「AirPower」と名付けられたワイヤレス充電パッドを披露した。しかし、結局2018年中に製品化されることはなく、現在まで発売されないまま時間だけが経過している。

このAirPowerでは、iPhoneやApple Watchとともに、AirPodsケースもワイヤレス充電できるとしていた。つまり、AirPodsケースは近々ワイヤレス充電に対応し、AirPowerでの充電が可能になるということだ。

  • 発表から1年以上経つものの、まだ発売に至っていないAirPower。中央のAirPodsのケースは、見た目こそ現行モデルと同じだが、ワイヤレス充電に対応しているのがポイントだ

Appleの昨今の取り組みから、AirPodsに何らかのヘルスケア関連センサーが搭載されることにも期待が集まる。

AirPodsは耳に密着して装着する構造であるが、耳からは体温や脈拍、血流量などが計測できる。また、左右の耳にデバイスを装着することから、左右それぞれに搭載した加速度計を用いることで、座っているときや歩行時、走行時などの体のバランスも取得できる。

Apple Watch Series 4では、これまでの脈拍計に加え、心電図の測定機能を追加した。さらに、加速度計の計測範囲を大幅に拡大したことで、転倒を検出して緊急通報を行う機能も新たに備えている。

  • Apple Watch Series 4は、新たに心電図の測定機能が加わった

  • 背面のセンサー類が改良されたApple Watch Series 4(左)

AirPodsはApple Watchとともに、Appleのビジネスのなかでは新たに分類された「ウェアラブル」部門を担う中核となるデバイスだ。単にiPhoneを補佐するだけでなく、iPhoneでは取得できない身に着けている人の体の情報をより積極的に取得できるようにしていくことは、想像にたやすい。

AirPodsは、2019年のAppleの戦略のなかでも、重要な製品として注目していくべきだ。製品や機能面だけでなく、それを実現する技術的な側面、AirPodsが実現していくヘルスケア方面の影響も含めて、他社に先駆けた取り組みが続くことになるだろう。