キーマンのロスをICT活用で減らしつつ売上げ増加

2018年7月に行われた第一回VR研究会で「山口土木という会社がVRを活用している」と言う事例が出ており、興味があったため、今回、DELLから「Latitude Rugged PCのユーザー事例」の紹介ということで、実際にうかがう機会を得たので、その工事の様子を取材してきた。最初に断っておくと筆者は土木業界に関して素人だ。

現場のヘビーな利用に耐えるDELL Latitude Rugged PC(Rugged PC)は2007年から販売しており、このジャンルでは世界シェアNo.2の地位にある。「現場で壊れない」ためにMIL-STD-810Gに対応するほか、IP52の防塵防滴性能と0.9mの落下にも耐え、上位製品(7000シリーズ)はIP65と1.8mの落下にも耐える。テストラボにて標準を超える状況を想定した過酷なテストを行っているという。

  • DELL Latitude Rugged PC

    今回の説明会で展示されていたDELL Latitude Rugged PCの現行製品。ノート型の5000シリーズと7000シリーズが2製品ずつに加え、山口土木でも利用されているタブレット型を含めた5製品がラインアップされている

  • Latitude 7424の背面

    Latitude 7424の背面。バッテリーは2つ用意されており、稼働させながら片方ずつ交換可能なホットスワップ機能を持っている

  • 以前のLatitude Rugged PC

    おそらく前回の製品発表会(2015年7月)。会場が「都内のビーチ」ということで砂に埋めたりしている

Rugged PCは元々米軍の要請を受けて開発したということで、警察や消防と言った公共用途の他、フィールドサービスや工場、そして今回のような工事現場で使われているという。日本では装置の組み込みとしても使われているケースもあるそうだ。

  • 落としても大丈夫

    「落としても大丈夫ですよ」というので落としている様子。1.8mからの落下にも耐える製品ゆえにまったく問題ないが、製品発表会では異様な感じだった

日本のユーザー事例では「-29度からの動作保証があるので-25度の冷凍倉庫で利用しペーパーレス化が行えた」というユニークな活用があるそうだ。山口土木では現在現場でのデータ閲覧用にLatitude 12 Ruggedタブレット(7212)を活用しているという。

  • サンダーのデモ

    町工場芸人でも知られる「ロッチ」を起用し、真上でサンダー使っても大丈夫とデモ

  • 水をかけても大丈夫

    さらにはツナギがぐっしょり濡れるほど水をかけても大丈夫とアピールしていたが、今思えば現場レベルの過酷さとは程遠いものだった

山口土木は設立が1990年という比較的後発の土木会社で従業員は35名。公共事業は会社のある愛知県岡崎市のみ、その他民間受注も行っているとはいえ売り上げは資料によると11億円と比較的小さな会社と言ってよいだろう。そういう会社が土木工事にICTを活用しているというところが興味を引いた理由だ。

  • 山口土木

    山口土木 取締役統括技術部兼総務部長の松尾泰晴氏

土木工事と言えど図面通りに作業を行う必要性がある以上、図面と現場の整合性をICTで取るというのは意味があるのだろう。

  • 土木事業部の組織図

    土木事業部の組織図。社長以外はすべて現場に出る「全員野球」とのこと

山口土木 取締役統括技術部長の松尾泰晴氏によると、同社におけるICT導入のきっかけは「売り上げを担う(時間単価の高い)キーマンの手助け」。具体的には工事部長、専務と松尾氏のタイムロスを減らすのが目的だった(社長は別事業にかかりっきりとの事)。

  • 2D図面での現場のイメージ

    「図面の3D化は20年前から考えていたが、親に『お前の考えるようなものは来ない』と反対された」という。従来通りの2D図面で現場のイメージがつかめるのはプロだけだろう

第一フェーズとして行ったのが「iPhoneの導入」だ。当時ゼネコンで行われていた取り組みだが、単にiPhoneを使って連絡を取り合うというだけではなく、設計データをクラウドに上げて、どこにいても複数の現場の図面がわかるようにして「(図面が手元にないことによる)事務所に戻る時間を省いた」という。これによって「3年間で売り上げを2倍に伸ばした(松尾氏)」という。

  • 現場のドローン映像

    実際の現場のドローン映像から3D CADにデータを入れたところ。土砂崩れの様子がわかる

  • 工事現場の3D化

    これに工事内容を入れれば、誰でも工事内容を把握しやすいと3D化の効能を語った

現在の第二フェーズは「私が現場に出なくても売り上げを確保する(松尾氏)」というもの。具体的には3Dを使った図面とそれを支える計測機器、そしてVRを使った仮想空間での現場検証と、現場責任者もデータを活用できるという体制となる。3Dに関しては現場にいる監督者でも利用可能なRugged PCで3Dデータ閲覧し、データ取得にドローン空撮とレーザースキャナー、そしてGNSS(いわゆるGPS測量)を組み合わせて利用しているという。

  • 現代土木の三種の神器

    現在、松尾氏が使っている「三種の神器」。GNSSは国土地理院の電子基準点を使ったRTKを使う事で「精度は500円玉ぐらい」。DJIのMavicは「折り畳み式で持ち運びに便利な上、画像の転送が他のモデルと違うので使いやすいし、うちで扱う作業現場ではこのぐらいでちょうどよい」という。上からの空撮画像と地上からのレーザースキャナーを合わせてCADデータを作る

  • 作成したCADデータ

    作成したCADデータは現場監督員が持つ、Rugged PCと杭ナビ(レイアウトナビゲーター)を使い、図面の場所がわかるようになっている

  • 現場ではトラックボールを活用

    現場ではマウスを動かす事が出来ないので、トラックボールを使う事が多いという。事務所に行ったところ、ほとんどのデスクでトラックボールが使われていた

現在は事務所内でデスクトップパソコンとRugged PCを併用しデータを作成している。

  • 現場監督員

    現場監督員はRugged PCとデスクトップPCを併用している。現在マウスとキーボードは切替機を使っている。Rugged PCにはディスクリートGPUがなく、3D CAD編集ができないのがネックだそうだ

  • 造営工事

    今回見学するのは左の市営住宅の右に新たに宅地を造成する工事。現在は8割がた完成していた

  • 3D CAD

    完成予想となる3D CADの画面。建築業界ではないので、この程度の表示でよいそうだ

  • 3Dデータをもとに評価

    3Dデータを元にVRで複数の人が入り込み、設計図面のチェックや評価ができるという

  • 3Dデータ

    ドローンとレーザースキャナーを駆使した3Dデータ。三次元の位置情報に色情報を加えたデータの集合体となっている

  • デルスタッフ

    ここまでが現場取材前の説明。左がデル クライアント・ソリューションズ統括本部 クライアント製品本部 コンサルタントの竹内裕治氏、右がデル クライアント・ソリューションズ統括本部 クライアント製品本部フィールドマーケティングシニアアナリストの佐々木彩氏