Appleは、iPhone/iPad向けソフトウェア「iOS 12」の最新ベータを開発者向けに公開した。今回公開されたiOS 12.2は、バグ修正だけでなく、小幅な変更を伴う新機能の追加や新しいデバイスのサポートなどが含まれる。たとえば、CES 2019で話題になったサードパーティー製のAirPlay 2対応テレビなども利用できるようになるとみられる。

しかし、やはり注目すべきは新しいデバイスについてだ。例年、春には廉価版iPadの刷新が行われる。また、発表したもののまだ発売されていないワイヤレス充電パッド「AirPower」や、発売から2年が経過しているAirPodsの新版など、期待される製品のアップデートが行われるかどうかにも注目が集まる。

  • iPhoneやApple Watch、AirPodsを同時に充電できるワイヤレス充電パッド「AirPower」。残念ながら、いまだ発売には至っていない

    iPhoneやApple Watch、AirPodsを同時に充電できるワイヤレス充電パッド「AirPower」。残念ながら、いまだ発売には至っていない

Hey Siri対応のAirPodsが登場する?

なかでも、「AirPodsの最新版がiOS 12.2でサポートされるのではないか」という話題が、最新ベータのソフトウェアで見つかった記述から持ち上がっている。

  • 2016年9月に開かれたスペシャルイベントで、iPhone 7/7 Plusとともに発表されたAirPods。2年以上にわたるロングヒットを続けているが、そろそろ後継モデルの話も聞こえてきそうだ

9to5macは、iOS 12.2のベータ版の「Hey Siri」機能のセットアップ画面に、iPhoneに加えてAirPodsの名前が含まれている点に注目した。現在、Hey SiriはiPhone、iPad、Apple Watch、Macでサポートしている機能で、特別なボタン操作なしに声だけでSiriを呼び出し、指示が与えられる機能だ。

現在、AirPodsでSiriを呼び出すには、装着しているAirPods本体を2回タップする必要がある。もし、AirPodsの最新版でHey Siriがサポートされれば、完全にハンズフリーでSiriに指示を与え、耳で情報のフィードバックを受けたり、iPhoneに触れずにアプリを起動するなどの操作が可能になる。

  • Hey SiriがAirPodsで使えるようになれば、AirPodsに触れることなくSiriを呼び出せる

しかし、AirPodsでこの機能を実現するためには、マイクを常時待ち受け状態にしていなければならない。AirPodsを装着しているユーザーの声を、他の人の声と聞き分ける必要も出てくる。

これらバッテリーに負荷がかかる処理を小さなAirPodsで実現するためには、ワイヤレスチップの刷新や、より効率的な電源管理の方法などを実現する必要が出てくる。

AirPodsはすでにAppleの製品の柱になりつつある

そもそも、AirPodsが登場した背景には、iPhone 7への移行でイヤホン端子が廃止されてしまったことがある。Lightningポートのみを備えるiPhoneへと進化(退化)してしまったことで、既存のイヤホン端子に頼らないオーディオ接続の方法が必要となったのだ。

  • AirPodsの登場は、iPhoneで初めてイヤホン端子を廃止したiPhone 7/7 Plusの登場のタイミングと重なる

そこで登場したのが、ワイヤレスオーディオの実現方法であるBluetoothだった。だが、ペアリングの手間とバッテリー持続時間の短さという2つの問題は長年解決されてこなかった。

Appleは、独自開発したW1チップをAirPodsに搭載し、同じApple IDでログインしたデバイス間であれば、どれか1つとのペアリングによってどのデバイスからでも利用できるようにした。また、単体で5時間、ケースと合わせて24時間もの音楽再生が楽しめるバッテリーライフを実現し、持ち運んでいる間に充電ができるスマートさも備えた。

  • AirPodsの優れた使い勝手やロングバッテリーライフは、W1チップの搭載がもたらしている

この結果、AirPodsは作っただけ売れていくという状況を2年もの間継続している。Appleの著名アナリストであるMing-Chi Kuo氏は、2017年のAirPodsの販売台数は1400~1600万台だったとしており、2018年には倍近い2600~2800万台を出荷したと分析する。2020年までには8000万台程度に成長し、iPadと肩を並べるほどのAppleの重要な製品カテゴリに押し上げられるとみている。

他社の2年先を行っていたAirPods

AirPodsは、Bluetoothイヤホンの問題解決、すなわちペアリングとバッテリーの問題に着手しているが、もう1つの問題も解決していた。それは「完全ワイヤレスイヤホン」にした、というデザインにも関係する点だ。

いささか不思議な言葉ではあるが、「完全ワイヤレスイヤホン」とは左右のイヤーピースが独立しているイヤホンのことだ。例えば、ビーツの「Beats X」のように、左右の間がケーブルで結ばれているワイヤレスイヤホンはこれまでも存在していたが、左右が完全に独立していて実用的なバッテリー持続時間を確保している製品は珍しかった。

  • ビーツのワイヤレスイヤホン「Beats X」

しかし、AirPodsが優れていた点はそれだけではない。AirPodsは、左右それぞれがiPhone本体と直接通信をして音楽再生を行っているのだ。

AppleにAirPodsの技術について聞いた際、「左と右のどちらかがプライマリという考え方はしていない」との回答が返ってきた。このことから、左右が同等にiPhone本体と通信をして音楽再生を行っていることが分かる。これは、他社の完全ワイヤレスイヤホンとは異なる仕組みだった。

  • AirPodsは、左右それぞれのイヤホンがiPhoneなどのデバイスと直接通信している

Qualcommは、「TrueWireless Stereo」で完全ワイヤレスイヤホンを実現する技術を提供している。だが、左右どちらかがプライマリ、もう片方がセカンダリとなり、プライマリ側でステレオの音声を受信し、片方のチャンネル分をもう一方のイヤホンへと送信する形で完全ワイヤレスイヤホンでのステレオ再生を実現している。

その弊害として、プライマリとなるイヤーピースへのバッテリー負荷が増大することや、遅延発生の面で不利になることがあった。また、製品によってはプライマリとなるイヤーピースが右か左のどちらかに固定され、セカンダリ側だけを装着しても利用できないなどの弊害があった。

しかし、AirPodsは左右どちらかを装着しても片方だけで利用できる。AirPodsとまったく同じワイヤレスイヤホンの使い勝手を実現するのは、QualcommのSnapDragon 845を搭載する最新スマートフォンと、「TrueWireless Stereo Plus」に対応する完全ワイヤレスイヤホンの組み合わせのみとなっている。ただ、2018年末の段階では技術が確立されたばかりの状況となっている。

Appleは、独自のワイヤレスチップの開発によって、ほかの2年先を行く完全ワイヤレスイヤホンを実現していたのだ。