今年も千葉で開催決定! ルール変更でますますダイナミックに

今年もレッドブルエアレースが始まる。パイロットの室屋義秀選手は2019年シーズンの活動について記者会見を開き、今年も千葉でレッドブルエアレースが開催されることが発表された。千葉での開催は5年連続だ。

  • レッドブルエアレース

    レッドブルエアレースは今年も千葉で開催が決定。5年連続の開催だ (C)大貫剛

千葉は9月、最終戦はサウジアラビアで初開催

2019年シーズンのレッドブルエアレースは例年よりスケジュールの発表が遅れていたが、室屋選手の記者会見で初めて千葉戦の開催が公表された。その後、レッドブルエアレース主催者側から全体のスケジュールが公開されている。

  • 第1戦:2月8/9日 アブダビ(UAE)
  • 第2戦:未定(ヨーロッパ)
  • 第3戦:6月15/16日 カザン(ロシア)
  • 第4戦:7月13/14日 ブダペスト(ハンガリー)
  • 第5戦:未定(アジア)
  • 第6戦:9月7/8日 千葉(日本)
  • 第7戦:10月19/20日 インディアナポリス(アメリカ)
  • 第8戦:11月8/9日 サウジアラビア

千葉戦は5年連続の開催だが、従来はシーズン前半(昨年は5月)だったのが、今年は9月になった。現時点では2大会が未定で、うち1大会はアジアとされている。昨年は当初千葉戦の開催が未定で、アジアが2大会と発表されていたものの、実際にはアジアでの開催は千葉戦1回のみだった。「もう1箇所のアジア」はどこで交渉が続いているのかはわからない。

  • レッドブル・エアレース

    2019年は千葉を含む6大会が決定、2大会は未発表。サウジアラビアは都市名未発表だ (c)Redbull Content Pool

注目は最終戦、初開催となるサウジアラビアだ。イスラム教の戒律が厳しく観光ビザを発給していないため「最も観光で行きにくい国」とも言われるサウジアラビアだが、将来観光を解禁し観光立国化を図るというニュースも流れている。レッドブルエアレース開催までに観光ビザが解禁されるのかなど、注目が集まる最終戦になりそうだ

今年もチャレンジ、でも「地味に」乗りこなすシーズンへ

2017年のレッドブルエアレースでは初の年間チャンピオンに到達し、2年連続チャンピオンを目指した昨年の室屋選手だったが、結果的には5位に終わった。

  • 室屋選手

    「5位に終わったが、悲観するような成績ではない」と笑顔で語る室屋選手。2019年へ向けて、得たものも大きかったようだ (C)大貫剛

「どんなスポーツでも何回もタイトルを取る人は、1回だけのチャンピオンとはひとつふたつ次元が違うかなと。頂点から道を作り続けて引き離していくのはきわめて難しいと感じたのですが、そのやり方も見えてきた気がする。2017年もだいぶ昔の話になってしまったので、新たに1から戦った方が楽しいかなと思っています」

と、改めて1年目から連続チャンピオンを目指す意欲を示した室屋選手。昨年は新尾翼を投入するも本戦で戻し、初戦敗退するという痛恨の結果を招いてしまった千葉大会をはじめ、度重なる機体改良を使いこなせずに敗退したことも多かった。

  • レッドブル・エアレース
  • レッドブル・エアレース
  • レッドブル・エアレース
  • 室屋選手の機体の主翼端は、2018年のシーズン中に2回変更された。空気抵抗が減り性能は上がるが、操縦感覚も変化する (c)Redbull Content Pool/大貫剛

「2019年は地味に戦っていこうと思っています。いろんな研究開発やトレーニングもしていますけれどね」と笑う室屋選手。2018年にリスクをおかしてでも積極的に導入した新技術を、真の実力へつなげていくシーズンになるだろう。

  • レッドブル・エアレース
  • レッドブル・エアレース
  • 千葉戦では小型の垂直尾翼(写真2枚目)を導入したが操縦が困難で、本戦で戻したものの痛恨の初戦敗退 (c)Redbull Content Pool/大貫剛

ポイント変更で、チャンピオン争いが面白くなる?

さて、毎年ルールが少しずつ見直されるレッドブルエアレースだが、今年もいくつかの変更があるのでご紹介しよう。と言っても基本的なルールは大きく変わっていない。コースを周回して速さを競うタイムトライアルレースで、1回の大会は予選とトーナメント方式の決勝戦からなる。年間8大会のポイントを積み重ね、14人の選手が年間ランキングを争う競技だ。

参考:「大空を駆けるスポーツ、エアレースの魅力をゼロから解説 第1回 空の一騎打ち、レッドブル・エアレース」

競技内容自体は変わらないが、今年はポイントの付け方が変更された。まず本戦の順位による点数の配分が見直され、従来は14選手中11位以下は一律0点だったのが、13位以上の全員に点差がつけられることになった。そのぶん上位の点数は高くなり、1位は15点から17点に変わっている。

  • 獲得ポイントの違い

    2018年大会までと、2019年大会のポイントの違い (筆者作成)

これに加えて、新たにラウンド勝ち抜きのボーナスポイントが加算されることになった。初戦の「ラウンドオブ14」を勝ち抜いた8名には5点、「ラウンドオブ8」を勝ち抜いた4名にはさらに3点の計8点が加えられる。

  • レッドブル・エアレース

    最高点が15点から25点に変わったので変化が分かりにくいが、1位を100点として換算すれば一目瞭然。新ルールでは8位でも従来の4位に近いポイントが得られ、ファイナル4進出すれば4位でも1位との差は小さい。上位選手の接戦になりやすい変更だ (C)大貫剛

昨年との違いがわかりにくいので、1位を100点として換算して比較してみよう。昨年ルールの4位には47点しか入らなかったのが、今年は4位で72点、8位で44点が入る計算になった。つまり、昨年までは3位までの表彰台に残らなければトップとの点差が大きく開いたが、今年は「ラウンドオブ8で敗退」でも昨年の4位と同程度の点が入る。上位勢の差がつきにくく接戦になりやすい変更と言えるだろう。

ただ、室屋選手は「昨年の結果を今年のルールに当てはめても順位はあまり変わらない」と語る。戦い方に影響するのはもうひとつの変更、予選のポイントルール新設のようだ。

「ボーナス」追加で予選もガチ勝負へ

昨年までの予選は本戦「ラウンドオブ14」の組み合わせを決めるだけのためのもので、年間ポイントとは無関係だった。このためどの選手も失敗を恐れず攻め気味のコースで飛行するため、上位選手の失格も多かった。予選1位の選手は失格の選手と本戦初戦で対決するため、いきなり、ランキング上位の失格選手と相対して負けてしまう、ということもあった。

ところが今年からは1位に3点、2位に2点、3位に1点を加算するルールが新設された。3点は最終順位の1位と2位の差に相当するから、「わざと1位を取らない」という戦術は使いにくい。

実は室屋選手は予選を上位で通過することが多く、「僕、予選得意なんで、(予選でも点を)付けてくれと昔から頼んでたんです」と笑った。予選ボーナスルールは室屋選手に有利に働くのか、「予選ガチ勝負」も今シーズンの見どころになるだろう。

「イエローカード」緩和でコース戦略に変更も

もうひとつ、急旋回時の加速度に制限をかける「オーバーG」ルールにも変更が加えられた。一瞬でも12Gを超えると即失格という、いわば「レッドカード」のルールはこれまでと同じ。変わるのは、従来の「10Gを0.6秒以上超えると、タイムに2秒のペナルティ加算」から「11Gを超えると即、1秒加算」ということ。「イエローカード」がシンプルになり、ペナルティが減った。

  • バーチカル・ターン・マニューバー

    機体を真横に傾けての急旋回や、垂直上昇する「バーチカル・ターン・マニューバー」では最大12Gの荷重が、機体とパイロットに加わる (C)大貫剛

「0.6秒(間の11Gでペナルティ)というルールはわかりにくい。11.8Gまで0.5秒間かけて、9.9Gに戻してからもう一度11Gかけるというテクニックを3年ぐらい前に僕が作ったんですど、全員やるようになったのでもうシンプルにした方が良いのではないかという議論になりました」と室屋選手は説明する。今年からは一瞬でも11Gを超えないように飛ぶので、機体やパイロットへの負担も小さくなる。

ペナルティが2秒から1秒に減ったことで、勝負ポイントも変わるようだ。「2秒のペナルティだと挽回は難しいが、1秒なら(きつい旋回をすると)0.5秒ぐらい詰められるので、パイロットにとっては限界を攻めるかの選択になる」とのことで、ハイGターンの攻め方がどう変わるかが今年の見どころになるだろう。

9月のレッドブルエアレース千葉戦へ向けて、今年もさまざまな情報をお送りしていくので、是非ご期待頂きたい。

  • 室屋選手

    2019年は「STAY HIGH」を標語に掲げ、より高い目標を目指す室屋選手。2月8日、アブダビから今年のチャレンジが始まる (C)大貫剛