TISの取り組みは、非常にシンプルだ。年齢にかかわらず、毎年の評価によって、昇格・降格を含め、対象者の実力に合った報酬水準にする。内容もシンプルで、単純に60歳という境界が消失するだけだ。新制度では、住宅手当や子育て手当も65歳まで支給対象になる。

「年齢で処遇を絞ってしまうと、パフォーマンスも絞られてしまいます」と語る小泉氏は、従来の制度でモチベーションの低下が生じやすかった50代を対象に、2018年からキャリア教育もスタートさせた。

「2016年から時間外労働の削減に取り組み、月平均27時間から20時間へと減らすことができました。残業が減ることによる収入減についてはベースアップで対応したことで、社員の協力が得られたと感じています」と小泉氏。効率化によって、長時間労働になりがちな、いわゆる火消し担当のエンジニアが、徹夜を重ねるような働き方をせずに案件をまとめることができた例もあるという。

そうした下準備があったことに加え、もともとの企業風土が今回の新制度を支えている。

「当社は実力主義で年齢に関係なく評価される企業であり、成果が下がれば年輩の方でも処遇が下がります。そういう前提があるからこそ、できた新制度です。年功序列に基づく企業では難しいでしょう。社員自身が、自分のパフォーマンスが落ちていることを受け止められるようにしないといけません」と小泉氏は語る。

能力が高ければ若くとも上のポジションにつけるという話は多いが、年輩でも能力が落ちてしまえば年齢やポジションに関係なく実力だけで評価されるというところまでセットになった企業風土がなければ、定年延長は導入しづらく、仮に導入してもよい結果は出にくいだろう。

従業員側にそれを受け入れる気風が根付き、企業側でも特別に高パフォーマンスの人材だけを残したい、一部の特別な人だけを高い処遇で引き留めたいというような意図がないからこそ実現できる制度となっている。

「今まで、特別待遇にして引き留めたという方はごく少数です。しかし今後、辞められては困る人が増えて行くことがわかっています。人の成長が企業の成長です。これからの成長をいかに支援するかが、われわれの役割ですね」と、三枝氏は語った。

両氏の所属する人事企画部は、従来型の人事部とは異なる、新たな制度の設立や運営などを担当する部門として2018年度に作られたものだという。同部門の取り組みとして大きな一歩である65歳定年制度と、それを補強するさまざまな取り組みが立ち上がり、動き出している。