米国航空宇宙局(NASA)の火星探査機「インサイト(InSight)」が、2018年11月27日(日本時間)、約7か月間、約4億8000万kmの宇宙航行を経て、火星への着陸に成功した。

インサイトは火星の内部を調べることを目的とした初の探査機で、これから1火星年(約2地球年)にわたって観測を行い、火星の誕生や進化の歴史など、数多くの謎を解き明かすことを目指す。

  • 火星に着陸したインサイトから送られてきた「自撮り」

    火星に着陸したインサイトから送られてきた「自撮り」 (C) NASA/JPL-Caltech

インサイト

インサイトは、NASAが実施する低コストの宇宙科学ミッション計画「ディスカバリー計画」のひとつとして開発された探査機である。開発はNASAジェット推進研究所(JPL)が主導し、フランスやドイツなどの研究機関も共同で参加している。機体の製造はロッキード・マーティンが担当した。

インサイトの寸法は高さ1.08m、直径1.56mで、太陽電池を広げた際の幅は6mにもなる。その大きさは、ちょうどピンポン台と同じくらい。打ち上げ時の質量は360kgになる。

機体の設計は、2007年に打ち上げられ、火星の北極に着陸した探査機「フェニックス」のものを流用している。火星を走り回るタイヤはなく、着陸した場所に居座って探査を行う。また、観測機器を火星の地上に設置するためのロボット・アームは、計画が中止された火星探査機「マーズ・サーベイヤー2001(Mars Surveyor 2001)」のために開発されていたものを流用するなどし、低いコストとリスクでの開発を実現した。

当初、打ち上げは2016年に予定されていたが、火星を模した環境の中で試験をしたところ、観測装置のひとつの地震計が損傷し、設計変更や改良が必要になった。これにより2016年中の打ち上げは見送られ、次に地球と火星の位置関係が好条件になる2年2か月後の、2018年まで延期されることになった。

そして満を持して2018年5月5日、インサイトは後述する超小型探査機とともに、「アトラスV」ロケットに搭載され、カリフォルニア州のヴァンデンバーグ空軍基地から打ち上げられた。打ち上げは成功し、火星へと向かう軌道に投入。そして7か月の宇宙航行を経て、到着を果たした。

探査期間は地球の時間で約2年(火星の時間では約1年)が予定されている。

  • インサイトの想像図

    火星でのインサイトの想像図 (C) NASA/JPL-Caltech

インサイトが挑む火星の内部

インサイト(InSight)という名前は、「洞察力」や「本質を見抜く力」などといった意味をもつと同時に、「Interior Exploration using Seismic Investigations, Geodesy and Heat Transport」という英語の略語でもある。直訳すると「地震計、測地学、熱流量による火星内部の探査」といった意味になる。

その名前に表れているように、インサイトの目的は、火星の内部構造を探ることにある。これまで火星には何機もの探査機が送り込まれてきたが、内部構造に焦点を合わせたミッションは初めてとなる。

インサイトが目指す科学的なゴールは、「火星の形成と進化の歴史を調べること」、「火星の地殻活動を調べること」の2つ。そしてこの目標を達成するため、インサイトは3つの科学観測機器を搭載している。

1つ目は地震波を感知する地震計「SEIS」。地震波は、岩石が断層でずれて動くだけでなく、表面に隕石が衝突したり、地下深くでマグマが移動したりといったことでも発生する。そして、火星における地震波を分析することで、内部の地殻やマントル、コアにどんな物質があるのかを調べることができ、さらにそこから火星を形成した物質の温度、圧力、組成がわかってくる。

2つ目は、「HP3」と呼ばれる温度計。HP3は地下5mに杭のように打ち込まれ、火星内部で熱がどのように流れているのか、深さとともに温度がどのように変化するかなどを調べる。またそれにより、火星と地球が同じような物質で作られた天体なのかどうか、そして誕生からこれまでどのように進化してきたかを推定することができる。

そして3つ目は、火星が自転軸に対してわずかにふらつく「極運動」と呼ばれる現象を検知する「RISE」という装置。RISEは、地球から送られてくる電波を反射することで、自身の位置を精密に測定することができる。これにより、極運動による動きを測定。そしてその動きを分析することで、コアの大きさや密度、どのような鉱物が存在しているのかといったことが明らかにできると期待されている。

NASAは、この3つの機器を使った探査を、「火星のバイタルサインを見る」とたとえる。

さらに、インサイトによる探査でわかるのは、火星のことだけにとどまらない。NASAの科学ミッションの責任者を務めるThomas Zurbuchen氏は「インサイトは火星についてだけでなく、地球や月のような他の岩石でできた惑星や、他の恒星のまわりを回る何千もの系外惑星についての理解も深めることになるでしょう」と期待を語る。

  • 火星で探査するインサイトの想像図

    火星で探査するインサイトの想像図 (C) NASA/JPL-Caltech