スペースXのイーロン・マスクCEOは2018年11月8日、開発中の巨大ロケット「BFR」について、小型の実験機「ミニBFR宇宙船」を造り、飛行試験を行うと明らかにした。

運用中の大型ロケット「ファルコン9」の第2段を改造する計画で、早ければ来年6月にも試験を実施するという。

  • スペースXが開発中の巨大ロケット「BFR」の想像図

    スペースXが開発中の巨大ロケット「BFR」の想像図。前部の宇宙船部分の小型実験機を開発し、試験するという (C) SpaceX

BFR宇宙船の着陸方法

BFR(ビック・ファルコン・ロケット)は、スペースXが開発中の巨大ロケットで、最大100人の乗客、もしくは100トンの物資を載せて、月や火星に飛行することができる能力をもつ。今年9月には、ZOZOの前澤友作氏が同ロケットによる月旅行計画を発表したことでも話題になった。

参考:さらに進化したスペースXの火星移民計画と、新たなる「月世界探険」 第1回 『タンタンの冒険』に着想を得て、生まれ変わった「BFR」

BFRは2段式のロケットで、人や物資を乗せる宇宙船部分と、それを宇宙まで打ち上げるブースター部分からなる。機体はすべて再使用でき、1回あたりの打ち上げコストを数億円に抑えることができるとされる。

ブースター部分は、同社が運用中のファルコン9ロケットの第1段機体のように、エンジンを噴射しながら垂直に着陸する。一方、軌道に乗る宇宙船部分も、最終的にはやはり垂直に着陸するものの、その前に宇宙空間から大気圏へ再突入し、さらに姿勢や飛行方向を制御しながら飛行(降下)する必要もある。

それを可能にするため、機体の前部に2枚のカナード(先尾翼)、後部には3枚の大きな翼(2枚が主翼、1枚が垂直尾翼)が装備されている。2枚のカナードと主翼は、付け根から折れ曲がり、羽ばたくような形で可動するようになっており、大気圏内を降下する際にこの翼を動かすことで、機体の姿勢を制御する。この降下方法をマスク氏は、手足を動かして体の姿勢や降下速度を制御するスカイ・ダイビングのように降りていくのだと例える。

しかし、こうした降下方法はこれまでに前例がなく、とりわけBFRのような巨大な機体となるとなおのこと、どのように降りるのが最適なのか、そもそも本当に降りられるのかどうかはわからない。

  • 「BFR」の宇宙船部分の想像図

    「BFR」の宇宙船部分の想像図。前部のカナードと後部の翼をたくみに動かして姿勢を制御しながら降下し、エンジンを使って垂直着陸する (C) SpaceX

ミニBFR宇宙船(mini-BFR Ship)

そこでマスク氏は、BFRの宇宙船部分を小さくしたような小型の実験機「ミニBFR宇宙船(mini-BFR Ship)」を開発し、飛行実験を行うと明らかにした。

マスク氏はその目的について「新開発の耐熱シールドや、極超音速で翼で制御しながら降下する技術は、実際に軌道から再突入してみないと、十分な試験ができないため」と語る。

このミニBFR宇宙船は、ファルコン9の第2段機体を改造して開発される。形状など詳細は不明だが、第2段機体に耐熱シールドや翼などを追加することで、BFRの宇宙船と同じような飛行特性をもたせるのだろう。ちなみに現在のファルコン9の第2段機体は、他のロケットと同じく使い捨て型で、衛星を分離したあとはそのまま軌道に残るか、軌道離脱させ、大気圏に落として処分している。

なお、このミニBFR宇宙船で試験するのは、大気圏への再突入と、その後の大気圏内の降下飛行のみで、エンジンを噴射しての着陸までは行わないという。その理由について、ファルコン9の第2段は、エンジンが高真空用に最適化されており、また機体質量に対してエンジン推力が大きいといった理由などから、そのままでは着陸ができないためだという。

また「私たちは、エンジンを噴射しながら垂直に着陸する技術については十分に理解しているつもりだ」とも語り、ミニBFR宇宙船で着陸まで行う必要性がないという見解を示した。

試験の実施は来年(2019年)の6月ごろを予定しているという。ただ、現在の開発状況や、この打ち上げで衛星は搭載するのか、搭載するのであれば何の衛星なのかなど、詳細は明らかになっていない。

  • ファルコン9ロケット

    ファルコン9ロケット。この第2段部分を改造し、ミニBFR宇宙船にするという (C) SpaceX

スペースXとマスク氏はかねてより、ファルコン9の第1段とともに、第2段の回収、再使用も目指す意向を示していた。最近でも今年5月、ファルコン9の最新型機「ブロック5」が初飛行を行った際にもマスク氏は言及している。

しかし第1段とは違い、第2段は軌道から帰ってくる必要があるため、回収は技術的に難しく、また耐熱シールドなどの装備が必要となるため質量が増え、打ち上げ能力が下がるという問題もある。

ファルコン9の第2段機体の再使用計画と、今回のミニBFR宇宙船の開発との関連性は不明だが、必要な技術や実際にやろうとしていることが共通している以上、関連があると考えるのが妥当だろう。第2段の回収と再使用はコストダウンに、またミニBFR宇宙船の回収は、再突入を経た耐熱シールドの状態などを詳しく分析するとともに、回収時に海水に浸からないようにするために大きな意義がある。

またマスク氏は、ミニBFR宇宙船について、"エンジンを噴射しながらの着陸"は行わないとしており、それ以外の着陸方法については含みをもたせている。

そのひとつとして考えられるのが、船の網を使った回収である。スペースXは現在、ファルコン9のフェアリングを再使用するため、巨大な網を張った船を使い、打ち上げ後に宇宙から落ちてきたフェアリングを回収する挑戦を続けている。

マスク氏は以前、この網で捕まえるという方法について「『ドラゴン』補給船もこの方法で回収できるだろう」と語っており、ドラゴンと同じように宇宙から帰ってくる第2段機体もまた、同じように回収できると考えられる。

実際にフェアリングと同じように船の網を使うかはわからないが、何らかの方法で回収が試みられる可能性はあろう。

  • 網を使ったフェアリングの回収試験

    スペースXは現在、巨大な網を張った船を使い、ロケットから分離されて落ちてきたフェアリングを回収する試験を続けている (C) SpaceX

来年末には実機と同じ大きさのBFR宇宙船の試験機も飛行

一方で、実機と同じ大きさのBFR宇宙船の試験機の開発も進んでおり、早ければ2019年末ごろにも、"ホップ"するように飛行し、上空から超音速飛行し、そして着陸するところまで試験する予定という。試験場所は、スペースXがテキサス州のボカ・チカに建設中の、新しい発射場が予定されている。

BFRの初飛行については、マスク氏は以前、2020年を目標にすると語っている。また前澤氏の月旅行は、今年9月の会見では、2023年に実施予定と発表されている。

ただ、マスク氏の語るスケジュールは遅れることが多く、またミニBFR宇宙船やBFR宇宙船の試験機の試験の状況などによっても変わってくるだろう。

ただ、カリフォルニア州にある同社の施設では、BFR用の新工場が造られたことがわかっており、その中で実際に試験機の開発らしき動きが行われていることも確認されている。また今年4月には、ロサンゼルスの港にBFRの生産拠点を構えることが発表されている。

マスク氏自身さえも「途方もない」などと表現するBFRだが、少しずつ実現に向けて動き始めている。

  • 月の近くを飛ぶBFRの想像図

    月の近くを飛ぶBFRの想像図 (C) SpaceX

出典

Elon Muskさんのツイート: "Mod to SpaceX tech tree build: Falcon 9 second stage will be upgraded to be like a mini-BFR Ship"
Elon Muskさんのツイート: "Mod to SpaceX tech tree build: Falcon 9 second stage will be upgraded to be like a mini-BFR Ship"
Elon Muskさんのツイート: "Won’t land propulsively for those reasons. Ultra light heat shield & high Mach control surfaces are what we can’t test well without orbital entry. I think we have a handle on propulsive landings.… https://t.co/KfLwUwrHkP"
Elon Muskさんのツイート: "No, we’re building a BFR dev ship to do supersonic through landing tests in Boca Chica, Texas… "
Mars | SpaceX

著者プロフィール

鳥嶋真也(とりしま・しんや)
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュースや論考の執筆、新聞やテレビ、ラジオでの解説などを行なっている。

著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)など。

Webサイトhttp://kosmograd.info/
Twitter: @Kosmograd_Info