10月7日、アメリカのインディアナポリスで開催されたレッドブルエアレース第7戦。千葉戦以来の不調に悩まされ、前回(第6戦)のウィーナーノイシュタット戦で久しぶりの2位入賞を果たし復活した室屋義秀選手だったが、今回は初戦敗退し0ポイントに終わった。優勝は地元アメリカのマイケル・グーリアン選手で、年間ランキングでもトップに立った。

  • 室屋選手

    (C) RedbullContentPool

栄光の地、インディアナポリス

昨年の最終戦で首位ソンカ選手を破り、初の年間チャンピオンに輝いたインディアナポリス(アメリカ)に、室屋選手は帰ってきた。ただ、今年は室屋選手は、ソンカ選手を逆転できない点差を付けられている。

  • 室屋機

    開場のモータースピードウェイをバックに、翼に着けたカメラで「自撮り」する室屋機 (C) RedbullContentPool

とはいえ、チャンピオンに手が届かなくても勝負が終わったわけではない。「チャレンジするチーム」と言い続ける室屋選手は今回も新しい機体改良を持ち出してきた。それもなんと、今年の第2戦で初めて装着した主翼端の小翼「ウィングレット」をわずか5大会でより大きな新型に交換したのだ。ウィングレットには、宙返りや急旋回など大きな荷重が掛かる状況で抵抗を減らし、速度低下を抑える効果がある。

余裕のタイムと思いきや、まさかの反則で初戦敗退

1回戦のラウンド・オブ14、室屋選手は1組目で、対戦相手のベン・マーフィー選手(イギリス)が先に飛行したが記録は1分7.130秒。練習から予選にかけて1分4秒~6秒程度で飛行した室屋選手にとって、厳しいタイムではない。

ところが室屋選手、宙返り後のゲート13で、翼を水平にせず傾いて通過する「インコレクトレベル」の判定を受けてしまった。ゲート13を通過したら次のゲート14へ向けて急旋回しなければならないのだが、その操作が一瞬早すぎたのだ。マーフィー選手に余裕で勝てる1分5.734秒を記録しながら、2秒のペナルティを加算され1分7.734秒となり、あっけなく敗退してしまったのだ。

  • シンプルなミスと悔やむインコレクト・レベル

    室屋選手自身が「シンプルなミス」と悔やむ、インコレクト・レベルでまさかの敗退 (C) RedbullContentPool

ラウンド・オブ14では対決で負けた7名のうち最もタイムが早かった1名が「最速の敗者」として復活できるが、2秒のペナルティを加算されたタイムではそれも望めない。栄光の地、インディアナポリスでの復活戦はまさかの1回戦負けで終わった。

  • ルーキーのマーフィー選手

    今年から参戦のルーキー、マーフィー選手は室屋選手に初勝利。その勢いで初のファイナル4入りも果たした (C) RedbullContentPool

上位陣が次々脱落、制したのは地元のグーリアン

とはいえ、他の上位選手も順調だったわけではない。これまで3大会連続優勝で首位に立っていたソンカ選手は、とくにミスがないフライトに見えたが1分6.463秒という平凡な記録で初戦敗退。機体トラブルがなければ毎回表彰台に上っているソンカ選手だが、今回もエンジンの不調があったようで、不運な結果だ。

  • ソンカ選手

    首位ソンカ選手がまさかの初戦敗退で、ランキングは大きく動いた (C) RedbullContentPool

次いでランキング2位のマット・ホール選手(オーストラリア)は2回戦のラウンド・オブ8でパイロンヒットし敗退。年間チャンピオン争いを繰り広げていた上位3選手のうち決勝のファイナル4に残れたのはなんと、3位のマイケル・グーリアン選手(アメリカ)だけとなってしまった。そしてグーリアン選手はファイナル4で勝利し、今年の初戦アブダビ以来シーズン2回目の優勝を果たすことができた。

  • ホール選手

    ランキング2位のホール選手はパイロンヒットで2回戦脱落 (C) RedbullContentPool

昨年はインディ500勝者の佐藤琢磨選手と室屋選手の日本人ダブル優勝に沸いたインディアナポリスモータースピードウェイだったが、今年はアメリカ人のグーリアン選手が優勝したことで、会場に集まったファンを大いに沸かせた。

  • グーリアン選手
  • グーリアン選手
  • グーリアン選手
  • 2004年のレッドブルエアレース2年目シーズンから参戦の古豪グーリアン選手は今年2回目、通算3回目となる優勝。しかも地元アメリカでは初優勝で、大瀬からの祝福に涙を浮かべた。インディ優勝者恒例の「レンガへのキス」は、妻子とともに (C) RedbullContentPool

圧倒的かと思われた首位ソンカ選手の初戦敗退、2位ホール選手の2回戦敗退で、グーリアン選手は3位からトップに躍進した。室屋選手はブラジョー選手と同点4位だったが、同じく初戦敗退ながらタイムが早かったブラジョー選手は2点加算で4位をキープ、室屋選手は0点で単独5位に後退した。上位3選手の順位は入れ替わったが、首位グーリアン選手と3位ホール選手の点差はわずか7点。最終戦で2位ソンカ選手も含め再度入れ替わる可能性は大いに残っている。

歩みを止めないチャレンジ、室屋選手は壁を乗り越えられるか

室屋選手の機体は、今年は外見の変化を伴う大きな変更だけでもウィングレットが2回とエンジンカウル、垂直尾翼(1回試してやめた)と4回も変更をしている。またレッドブルの公式サイトで室屋選手は「レース以外に抱えている活動があまりにも多すぎて、自分自身のコンディション作りが少し遅れていることは否定できない」とも語っている。

  • 今回初めて装備された大型ウィングレット

    今回初めて装備された大型ウィングレット。新たな技術の導入はリスクを伴う挑戦だ (C) RedbullContentPool

初のチャンピオンに輝いた昨年末以来、歩みを止めずに自らと機体のレベルを高めるチャレンジを掲げてきた室屋選手。一方で、日本で急激に高まったレッドブルエアレースへの注目と期待が、唯一の日本人である室屋選手に集中していることも事実だ。

落胆の表情もあらわにインタビューに答えた室屋選手は、11月17日・18日のフォートワース戦を「2019年への準備にもなる」と来シーズンへ向けたステップと位置付ける発言をしながらも、続けて「1勝取りたい」と本音ものぞかせた。そう、今年室屋選手は1回も優勝できていないのだ。

2018年、エアレースの世界トップパイロットとして直面したさまざまな壁への答えを出せるのか。集大成となるフォートワース大会を笑顔で締めくくることを期待したい。

  • 室屋選手

    想像を超えた苦難の1年となった室屋選手。最終戦で笑顔を見られるか(C) RedbullContentPool